ユースカルチャーの現在
日本の青少年を考えるための28章

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近年,若者による衝撃的な事件や理解しがたい現象から,「日本の青少年はマイナスの方向へ変質した」と受け止める人が増えている。本当にそうだろうか? 青少年を取り巻く問題をさまざまな角度から取り上げ,具体的かつ実証的に検討,考察した。雑誌「看護教育」の好評連載を単行本化。学生の理解の一助となる書。
渡部 真
発行 2002年10月判型:A5頁:228
ISBN 978-4-260-33238-5
定価 2,420円 (本体2,200円+税)
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第1部 ユースカルチャーの現在
 1 学生の意識構造と学生指導
 2 非行統計から見た青少年問題
 3 少年非行と社会のまなざし
 4 青年期を説明する語彙
 5 『「少年A」この子を生んで…』を読む
 6 「神戸事件」と日本社会
 7 問題としての学級崩壊
 8 いじめの国際比較と青少年
 9 いじめ問題における告発と実態
 10 家庭のしつけと青少年
 11 小・中学生は変わったか
 12 中学生は小学生となにが違うか
 13 大学と医療について
 14 未婚青年と社会の関係
 15 大学生が考える「ユースカルチャー」とは
 16 対人恐怖とスチューデント・アパシー
 17 生涯発達論の中の青年期
 18 少年犯罪の行方(1)
 19 少年犯罪の行方(2)
 20 少年法改正案と奉仕活動義務化案
 21 奉仕活動と日本の青年
 22 教育システムと「ひきこもり」
 23 表現と規制について
 24 学校生活と勉強時間の変化(1995年と2000年)
 25 若者の人生観の変化について
 26 人材選抜方法の変化について
 27 学校5日制と地域の教育力
 28 新たなメディアの可能性と青少年
第2部 青少年問題が国の教育政策に与える影響について
 第1節 問題と方法
 第2節 1995年以降の教育政策
 第3節 神戸事件と中教審「心の教育」答申
 第4節 まとめ

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「若者がわからない」人のために
書評者: 服部 祥子 (大阪人間科学大学教授/精神科医)
◆「若者は変わった」のか?

 10代~20代の犯罪や自殺率が事件として報道されるつど,「昔の若者とはちがう」という感想を述べる大人が多い。本当に現代日本の若者は変わったのか。

 本書は社会教育学者である著者が,マイナス方向への若者変質論をさまざまな角度から科学的実証的に検討し,現代日本の若者の実像に迫ろうという興味深い本である。私のような児童青年精神科医はもとより,看護師,カウンセラー,教師等,若者との接点をもつ専門職者に本書は多くの示唆をもたらすにちがいない。

 構成は2部に分かれ,第1部はユースカルチャーの現在を28章で論じている。内容は実に多彩だが,約半分の章で少年非行・犯罪,いじめ,自殺等を年代による推移で論考したり,小中学生の意識や行動,学校生活と勉強時間,若者の人生観の調査結果等を入念に考察して,安易な青少年の悪質化論を冷静に批判反論している。また10数章では若者にかかわる興味深い書物や記事や映画の紹介を通して,著者の考える現代のユースカルチャー論が展開されている。各章とも大学教師と大学生の対話形式で書かれているので,論点が具体的で読みやすく,理解もしやすい。どの章も独立したテーマでかつ完結しているので,順不同,どこから読んでも構わない。

◆若者と政策

 第2部は頁数が少なく補足的に見えるが,実は大変重大な論が展開されている。つまり,青少年の問題行動や逸脱行動が起こると国の教育政策にいかに影響が及ぶかという社会教育学者らしい鋭い指摘である。ことに神戸事件(1997)の衝撃により直ちに諮問され,翌春答申の出された中教審「心の教育」を例にとり,詳しく解析されている。1つの特異な事件により「マイナス方向へと変質してしまった青少年像」が潮流となり,「個性化」「多様化」よりも「社会化」「標準化」を重視する教育改革へシフトしていくさまを,これほど迫力をもって解説している書物を私は他に知らない。

 1本1本の木を見るように,個々の人間に深くかかわる臨床医の人間観は貴い。しかしときに森全体を眺め,大きく趨勢を知ることも大切である。本書は現代社会の若者をバランスをもってとらえるための最良の指南書である。

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