疥癬はこわくない

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疥癬が深く静かに猛威を振るっている。「30年周期説」を覆すような大流行である。病院・施設・在宅で職員の戸惑いは大きい。日本にはびこる間違い対策,横行する過剰反応に警鐘を鳴らし,治療・診断(医師),日常業務(看護・介護職),管理・運営(管理者)ごとに業務指針を明示した疥癬対策の決定版! 薬剤・治療についての追補情報(PDF)
大滝 倫子 / 牧上 久仁子 / 関 なおみ
発行 2002年10月判型:B5頁:156
ISBN 978-4-260-33240-8
定価 1,760円 (本体1,600円+税)
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  • 目次
  • 書評

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Part1 疥癬を知ろう!
 1 疥癬とは
 2 ヒゼンダニの生態
 3 症状
  A 普通の疥癬の症状
  B ノルウェー疥癬の症状
 4 感染経路
Part2 診断・治療で気をつけること
 1 診断
  A 普通の疥癬の場合
  B ノルウェー疥癬の場合
 2 薬剤
 3 治療上の注意
 4 患者・利用者からの声
Part3 日常業務で気をつけること
 1 押さえておきたい基礎知識
 2 普通の疥癬を想定した業務内容別チェックポイント
Part4 管理・運営で気をつけること
 1 なぜ疥癬対策が管理上重要なのか
 2 集団感染への対応
 3 患者隔離について
 4 在宅ではどうするか
Part5 事例編-集団感染対策事例をもとに

巻末付録
◇疥癬対策これだけ早見表
◇患者・家族に対する説明シート(普通の疥癬の場合/ノルウェー疥癬の場合)

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生半可な知識の医師たちが疥癬パニックを引き起こす
書評者: 石井 則久 (国立感染研ハンセン病研究センター部長・生体防御)
 疥癬虫(ヒゼンダニ)は今,老人ホームや,集団生活をする施設の「天敵」として恐れられている。しかし,このヒゼンダニの生態を知っている医師は,日本に,いや世界にも数えるばかりである。

 このダニに9歳の時に自ら感染し,医師になってからは30年余研究に打ち込んでこられた大滝倫子先生は,おそらく世界で一番多くの疥癬患者を診てきている。この大滝先生と,保健行政の現場で疥癬にかかわっている牧上久仁子先生,関なおみ先生による,実におもしろい本が出た。

◆皮膚科医の無知とウソ

 一口に言って疥癬の治療は簡単で,題名どおり「疥癬はこわくない」ことがわかった。ヒゼンダニの生態を知り,普通の疥癬とノルウェー(角化型)疥癬の区別をすれば,残るは治療と予防である。

 では,なぜ疥癬パニックなのか。その第1の責任は,生半可な知識の皮膚科医にあるのではなかろうか。

 大滝先生は疥癬の診断を下す人を「医師」と書いているが,途中から「できれば皮膚科医」,さらに進むと「皮膚科専門医」,最後は「疥癬治療に慣れた医師」とトーンが高くなってくる。私自身,以前皮膚科医の端くれであったが,皮膚科医の疥癬に対する無知と,患者指導・予防対策指導のウソには愕然とした経験がある。表紙の写真はかわいいヒゼンダニ家族であるが,この本を読んで「眼からウロコ」なのは実は皮膚科医ではなかろうか。治療方法,患者指導など多くの皮膚科医が行なっていたことは間違いであることがわかる。

◆「念のため」が患者を苦しめる

 目次をみると,疥癬に悩んでいる医療者がいま知りたい項目が列挙されている。疥癬患者診察時の疑問はもとより,軟膏の塗り方や入浴・洗濯など,看護や介護の現場でいつも出る疑問にすぐ答えが得られるようになっている。その点からも,皮膚科医はもちろんのこと,内科医や施設等の医師にもぜひ読んでほしい。
 
 医師は,看護サイドから「本当にうつらないのですか?」と問われた時,生半可な知識と経験のため,「念のため厳重に対処してください」と言ってしまう。このことが患者を苦しめ,施設内の混乱を招いているのである。

 しかし,ノルウェー疥癬でも1―2週間程度,まして普通の疥癬ではほとんど厳重な制限や処置は不要である。一方で,外用剤は全身に塗布すべきであるのに皮疹部のみにしか塗っていないなど,力の入れ所を誤っていたことがわかる。

◆看護雑誌への辛口コメントも

 本書は,初めから終わりまで具体的な事例が示されているため,単に医師のみでなく,看護師,コメディカル,福祉関係者などにもわかりやすいだろう。特に,ある看護雑誌の掲載論文に対するアドバイスは,辛口だが的確で説得力があり,看護計画を立案する時に役立つ。

 また,「医師にムトーハップを勧められたが,使ってよいか?」,「疥癬を理由に,その患者さんの転棟・入院を拒めるか?」など,彼らがいつも悩む問題には,Q&Aコーナーで明確に解答している。さらに,キャバレーや尼さんまで登場してくるコラムが折々にはさまれていて,つい目がいってしまう。これら疥癬にまつわる裏話も,単なる閑話でなく示唆に富む内容になっており,疥癬を知ることで社会の縮図をみるようである。

◆立ち読みするなら,まず10の質問に答えてほしい

 まさに皮膚科医,病棟,老人施設,集団生活する施設などには,必携・必読の書である。なお立ち読みですまそうという方には,口絵写真の次にある10の質問(「疥癬にまつわる十大誤解」)に全問正解できるか試みることをお勧めする。

 この本を参考に,各施設で疥癬マニュアルを再検討して,疥癬の生態に則した患者本位の治療・看護・対策が行なわれることを期待したい。

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