作業療法研究法

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作業療法を対象とした研究について、その種類・分類を、実例を挙げて平易に解説。研究計画書、研究報告書作成に至る実際の手順を、学部生のレベルでの理解・実用のために示している。誰もが悩むクリニカルリーズニング、EBP、ナラティブといったキーワードを解き明かした、最良の入門書。
シリーズ 標準作業療法学 専門分野
シリーズ監修 矢谷 令子
編集 山田 孝
発行 2005年06月判型:B5頁:264
ISBN 978-4-260-26712-0
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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序章 作業療法研究法を学ぶ皆さんへ
第1章 研究とは何をするのか
第2章 研究の類型と論文構成
第3章 研究にかかわる基礎知識
第4章 研究論文の発表と手続き
作業療法研究法の発展に向けて

さらに深く学ぶために
索引

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臨床実践を重視―作業療法士をめざす人のために
書評者: 石井 良和 (秋田大教授・作業療法学)
 この本は『作業療法研究法』というタイトルであるが,単なる研究法(入門)の書ではない。作業療法を過去から現在まで論じており,そして未来へのメッセージを「研究」というキーワードに託して書かれた本である。すでにインターネット上でも高い評価が見受けられる。

 作業療法士の臨床的経験の連なりは,作業療法の歴史的縮図のように見える。障害をもつ人のために何か役に立つ仕事に就きたいという素朴で強い思いをいだいて作業療法士になることをめざす段階から,養成校で医学的知識を学び,それを臨床で適用するといういわば科学的思考の実践を試みる段階へ,そして多くのクライエントに出会い,思い通りに治療的プロセスが進むケースや,思うようにならずに困惑してしまうケースなどを経験し,自らの思考と技術が洗練されていく段階とがあるように思われる。これはキールホフナーが示したパラダイムシフトによるアメリカ作業療法の歴史と似ている。作業療法の自己相似性があるのかもしれない。

 新たなパラダイムを見据えた21世紀の作業療法は,クリニカルリーズニング,エビデンスに基づく実践(EBP),ナラティブに基づく実践(NBP),国際生活機能分類(ICF)といった事柄に関心を寄せざるを得ない状況にある。作業療法士の数が急速に増えてきている現在,作業療法の未来に対する期待と不安が入り交じる。量的な増大が質的変化をもたらすのだろうか。ヒントは本書の第1章にある「研究は誰が何のためにするものなのか」にありそうに思う。われわれ1人ひとりの臨床と研究のふるまいにあることに気づかれるのではないだろうか。これから作業療法士になる方にはぜひとも一読していただきたい章である。

 本書に一貫しているのは「作業療法の専門職としての存在価値は臨床実践にあり」というエリクサの言葉である。また,本書の大きな特徴でもあるアート的手法による研究の解説は,忙しくて研究にまで手が回らないと言われる臨床家の方には臨床現場が情報の宝庫であることに気づかせてくれるであろう。第2章以下では新進気鋭の教育・研究者たちによる,自らの作業療法をベースにした知識と応用が詳細に書き込まれている。当然のことかもしれないが個性的な各執筆者の文章がきわめてよく整えられており,それにもまして文章の歯切れのよさに今までにない新鮮さを覚える。編者とのレベルの高いコラボレーションの賜物であろう。教科書として学生だけに持たせるのは「もったいない」とまで言うのは言い過ぎだろうか。

サイエンスとアートの両面から作業療法研究を進めるために
書評者: 小林 隆司 (神奈川県立保健福祉大助教授・作業療法学)
 南カリフォルニア大学のゼムケ教授は,作業療法を万華鏡に喩えた。万華鏡は,基本的には鏡を組み合わせて作った筒で色ガラスなどの小片を見るものである。その構造から考えると,網膜に届く光の信号は,小学校で習った入射角や反射角のような物理学の原則に徹頭徹尾貫かれているはずである。しかしながら,われわれが体験する万華鏡の最終的な像は数式の理解を超えて美しく,少し動かしただけで様々に姿をかえ,2度と同じものはないという儚ささえ感じられる。サイエンスとアートがうまく融合した万華鏡のメタファーは,作業療法を語るにはまさにうってつけだと感銘をおぼえた。

 作業療法が(たぶん人間も)サイエンスでありアートであるというなら,作業療法の研究もサイエンスとアートの両面から進められるべきである。そう考えていたら,好適書が医学書院から出版された。それが本書である。本書の特徴はまさに,サイエンスとアートという切り口で様々な作業療法研究をカタログ化した点にある。このことによって,研究法の選択に指針が得られる。例えば,まず実習で受け持ったケースの事例研究をどのようにすすめるか参照した後に,サイエンス的な方向にそれを発展させる場合,シングルシステムデザインや実験的デザインなどが参考になる。アート的な方向なら,記述を分厚くしていくために質的研究やナラティブなどに進むとよい。研究に必要な基礎知識や事例がふんだんに盛り込まれているのも,研究を検討し実行するうえでは大きな助けになる。

 さて,本書は教科書の体裁をとっているが,実は臨床家に多く読んでいただきたい本である。本書は,研究は臨床の疑問に答えるために行い,臨床のプロセスは研究のそれと同じであるという理念に貫かれている。つまり,初期評価があり→治療を実施し→再評価により治療効果を検討することは,研究ではベースラインデータを測定し→介入し→アウトカムを示すことにすぎないのである。クリニカルリーズニングにまで踏み込んでいるのは,臨床を支援する研究法という本書の姿勢を顕著に現した部分であろう。

 まさに待望の書といえる本書だが,あえて言うなら,項目の重複などが見られる(第1版にはありがち)ので,なるべく早く改訂にとりかかってもらいたい。版を重ねるごとにクオリティがより高まることは間違いない。

 なにはともあれ,本書を片手に,図書館で文献を探したり,ラボでアンケートデータと格闘したり,クライエントの物語を傾聴したり,実際に心と体を動かしてみよう。初めて万華鏡を覗いたときの感動にまためぐり合えるから。

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