パニック障害ハンドブック
治療ガイドラインと診療の実際

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本書では、主にプライマリケア医を対象とした「パニック障害の治療ガイドライン」をもとにパニック障害治療への理解を深めるとともに、専門治療における診断と評価、心理教育、薬物療法、認知行動療法の実際を紹介する。特に専門施設においてもその利用率が低い認知行動療法では、集団認知行動療法、個人認知行動療法それぞれについて、具体的な実施手順を解説した。
編集 熊野 宏昭 / 久保木 富房
編集協力 貝谷 久宣
発行 2008年04月判型:B5頁:168
ISBN 978-4-260-00537-1
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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はじめに

 本書は,厚生労働省こころの健康科学事業「パニック障害の治療法の最適化と治療ガイドラインの策定に関する研究班〔班長 久保木富房(平成16年度),熊野宏昭(平成17~18年度)〕の研究成果として上梓されたものである。
 本研究班では,パニック障害(panic disorder:PD)の早期の適切な診断・治療を目指し,多くの患者が初診するプライマリケア医を主な対象とした「パニック障害の治療ガイドライン」を作成した。本ガイドラインは次のような特徴を持つ。
 1. 現在のパニック障害研究のトップレベルの臨床家・研究者が参加している。
 2. 従来の世界的なガイドラインとの比較がされている。
 3. プライマリケアの先生方と専門医向けに分けて利用可能である。
 4. このガイドラインはエビデンス一辺倒でもなければ,エキスパートの意見だけで構成されたものでもない,いわば両者の折衷である。
 5. 薬物療法ではベンゾジアゼピンについても適切な使用を推奨している。
 6. 患者教育や認知行動療法について記述されている。

 本書では,プライマリケアにおける診療のために,まずパニック障害の基本とともに,このガイドラインについて解説した。
 また,必ずしもパニック障害を専門としていない精神科医,心療内科医に向けて,エキスパートによるパニック障害診療の実践方法(診断と評価,心理教育,薬物療法,認知行動療法)の紹介に多くを費やした。
 特に認知行動療法については,各執筆者が実際に行っている個人認知行動療法(内部感覚エクスポージャー,広場恐怖に対するエクスポージャー),集団認知行動療法の取り組みを掲載している。ここでは患者説明用の資料とともに具体的な実施方法を示しており,パニック障害診療における認知行動療法について,このように詳細に解説したことが本書の大きな特徴といえるだろう。

 筆者の一人である久保木は,パニック障害の臨床および研究に約35年間参加してきた。その第1期は1980年から90年ごろである。この時期はパニック障害という病態概念が主に米国より流れ込んできたという印象であった。わが国では一部の研究者が興味を持つという状態であった。このころ影響を受けた本は,D.H. Barlowの「Psychological Treatment of Panic(The Guilford Press 1988,1992年に上里一郎監訳,恐怖性障害,金剛出版)」である。
 第2期は1990年から2000年である。1990年はスイスのジュネーブで世界パニック障害会議が4日間開催された。欧米が主であるが,240名以上の研究者が参加した。わが国からも,藤井,高橋,山内,広瀬,竹内らのベテラン,そして貝谷,小口,花田,佐藤,久保木らの中堅,さらに田島らの若手に加えてアップジョンの安宮部長も出席した。
 第3期の2000年以降のことは,2007年,日医ニュースに「慢性疾患パニック障害」としてまとめたものを紹介しておく。

 1980年,国際的診断基準(DSM-III)にパニック障害が登場してから,やがて30年近くになろうとしている。この間に,パニック障害の概念が変化し,治療法が少しずつ進歩してきた。
 初期のころは急性期のパニック発作(panic attack:PA)が注目されていたが,最近では,パニック障害はこのパニック発作に加えて,随伴する予期不安,外出恐怖(広場恐怖),抑うつ,生活機能障害などを伴う慢性疾患であることがわかってきた。しかし,医療従事者の中にはパニック障害に対する理解が不十分であったり,ときに疾患として認めない方も存在して,患者は苦労していた。
 今日では,薬物療法や認知行動療法の研究が進み,また,神経解剖学的仮説として,扁桃体を中心とした恐怖ネットワークがかかわっていることが示唆されている。
 本書は,これらの治療法や最新の研究成果を反映した内容となっており,パニック障害診療に関心のある医療従事者の皆様には是非本文をご覧いただきたい。

 最後に,わが国では本書以外にもパニック障害に関する著物が多く上梓されており,その中の貝谷(編)「パニック障害」(日本評論社,1998)と,久保木,井上(編訳)「パニック障害─病態から治療まで」(日本評論社,2001)を紹介しておく。

 本書がパニック障害の治療,研究に少しでも役に立てば幸いである。分担研究者,研究協力者,医学書院の皆様に心より感謝申し上げます。

 編集者一同

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第1章 パニック障害の基本
 A パニック障害とは
 B 本書の使い方
 C 研究班の成果より
第2章 パニック障害の治療ガイドライン
 A 治療ガイドライン作成の背景
 B ガイドライン作成の経過
 C 参考文献
 D ガイドラインを用いる場合の注意点
 E 本ガイドラインの特徴
 F 治療ガイドラインの説明─海外のガイドラインとの比較
第3章 診断と評価
 A パニック障害を疑う症状
 B パニック障害診断の手順
 C 不安やパニック障害の症状評価
 D Panic and Agoraphobia Scaleを用いた症状評価の例
第4章 心理教育
 A 心理教育の実際
 B セッション(1) 症状の理解
 C セッション(2) 病因と治療の理解
 D セッション(3) 薬物療法の理解
 E セッション(4) パニック発作への対処
 F セッション(5) 療養生活・生活指導
 G セッション(6) 妊娠
 H 心理教育の効果
第5章 薬物療法
 A パニック障害治療薬の概観
 B 薬物療法の開始と服薬期間
 C 妊娠と授乳
第6章 個人認知行動療法:パニック発作に対する内部感覚エクスポージャー
 A パニック障害の成立に関する理論モデル
 B パニック障害に対する認知行動療法の治療方針
 C 内部感覚エクスポージャーとは
 D 内部感覚エクスポージャー療法の実際
 E 2日間集中治療プログラムの実際
 F 症例提示
 G プログラムのまとめ
第7章 個人認知行動療法:広場恐怖に対するエクスポージャー
 A 個人認知行動療法の成果
 B 個人認知行動療法プログラムの具体的な解説
 C 実際の臨床例での適応結果
 D エクスポージャーを中心とした認知行動療法の方法と役割についての考察
第8章 集団認知行動療法
 A 集団認知行動療法の利点
 B 認知行動療法プログラムについての文献的検討
 C 集団認知行動療法のモデル
 D 治療手順
 E 各セッションの詳細
 F 治療効果の検討
あとがき
索引

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読みやすく分かりやすい パニック障害についての良書
書評者: 井出 雅弘 (札幌明和病院院長)
 本書をパラパラとめくり読んで気が付いたことは,ハンドブックという命名がなされているように,非常に臨床的,実際的で読みやすいことである。この背景には,編集協力者があとがきで述べているように,本書にパニック障害研究班の4年間にわたる臨床集積研究の集大成が盛り込まれていることがあり,その読みやすさが了解できる。また,治療の章では表や図がうまく配置され,まとめもなされており,一般医にも理解しやすいように工夫されているため,一気に読み進めることができる,というのが実感である。診断,重症度,教育,治療の実際と経過など,実地臨床家が望むことを,明瞭に順序立てて展開されており,編集者の編集能力の高さをあらためて思い知るところである。

 本書はマニュアル的医学書であり,手に取って一読すれば購入する方がおのずと増えるであろうと,私には実感できたので,書評など必要なのだろうかと考えたくなるくらいである。読者が増え,患者のQOLの改善に大きく寄与できることにつながることで,私には医療の原点に立ち戻る満足感に浸れる気がしてならない。

 次に内容についてダイジェストで触れると,第2章では,プライマリ・ケア医を対象とした治療ガイドラインが示されている。具体的な病態の説明と患者教育の仕方,薬物の使い方の詳細,精神療法の具体的対応ついて理解しやすいように記載されており,すぐに実践できる内容である。また,文化特異性に乏しく,各国でほぼ一定の有病率を示すパニック障害の各国での治療ガイドラインの比較がなされている一覧表がある。これがなかなか興味深い。欧米やわが国での考え方が一目瞭然に見てとれるからである。特に精神療法では,認知行動療法(CBT)の併用が効果的であるというエビデンスが証明されているためか,欧米ではCBTが強調されている。一方わが国では,折衷主義的色彩の中で段階的現実曝露法を推奨している。

 第4章では,心理教育(患者本人ならびに家族)について,整理された形での記載がなされている。この章では,患者に提示して理解しやすいように,表や図が示されている。これは,おそらく患者ならびに家族が納得しやすいように,また説明する側も説明が伝わりやすいように配慮したものと思われる。図や表を資料として配布できる利点もあろう。

 第6章以降,パニック発作や広場恐怖の個人認知行動療法について,詳しく記載されている。これは一般医のみならず認知行動療法に精通している医療者が少ないこともあってか,至極教育的,実践的に書かれており,基本的な考え方を知る者であれば,即応用可能である。また,集団認知行動療法の章も設けられており,デイケアや入院治療での集約的治療としての意義が大きい。家電製品が一家に一台というように,本書は一診察室に一冊といえるだけの実用価値がある良書であることは確かである。

パニック障害の正しい知識と治療指針の普及に向けて
書評者: 笠井 清登 (東大教授・臨床精神医学)
 パニック障害は,青天の霹靂のように生じるパニック発作で初発し,その自覚症状は動悸,息苦しさ,胸痛等の循環器・呼吸器症状が主体であるため,精神科や心療内科ではなく,内科や救急外来を初診する場合が圧倒的に多い。また,「パニック」は一般的な外来語として「精神的に取り乱す」といった意味で用いられているため,パニック障害の病態を一般の方はもちろん,医師ですら理解していないことがまれではない。しかし,パニック障害は,生涯有病率が一般人口の数パーセントと非常に頻度の高い疾患であり,すべての医療従事者に正しい知識と治療の指針を普及させることが必要である。このハンドブックは,そのような主旨から作成されたが,結論を先に申し上げると,大成功の書であり,その目的を達成するに違いない。

 本書は,心療内科・精神科・臨床心理の第一人者が結集し,生物―心理―社会的な見地から非常にバランスよく記述されている。いわゆるEBM(evidence-based medicine)の羅列だけでは,実践知とならないこともあるが,本書はもう一つの“EBM”(expert/experience-based medicine)が随所にちりばめられており,その意味でも大変バランスよく,実践的である。私は編者・編集協力者の方々を個人的によく存じ上げているが,彼らは常に集い,議論し,最新情報に敏感であり,非常に科学的で実践的なバーチャル研究所を形成している。本書の内容に,信頼性・一貫性を感じるのはそのためであろう。

 本書は構成にも優れている。プライマリケア従事者や,若手精神科・心療内科従事者の研修にとってのminimal requirementが,前半の第1章「A」と第2章にまとまっている。指導者にとっては,この内容でクルズス・講義を行えば完璧であろう。後半は,専門家が認知行動療法的アプローチを行うときの実践的ガイドラインとなっている。

 臨床評価尺度類の充実も目を引く。臨床研究に取り組もうとしている人には大変便利であり,執筆者らが読者の側に立ち,労力を惜しまない姿勢に感銘を受ける。心理教育についてのスライドの提示も斬新な試みで,大変分かりやすい。可能なら,CD-ROMで付録にできれば,患者・家族の心理教育に,臨床場面で広く普及するだろう。薬物療法や妊娠時の留意点,研究成果の部分は,情報の更新が著しい分野であるので,頻回のアップデートを期待したい。

 装丁も爽やかで,中も大変読みやすいデザインである。こうした意味でも,ハンドブックとして常に手元に置くのにふさわしい。このようなすばらしいハンドブックが,他の各種精神障害にも取り揃えられればと願う。多忙な業務の間を縫って,このような本当に役立つ本を作られ,それがわが国のパニック障害の診療を標準化し,レベルを向上させ,当事者の福祉につながる。こうした静かで誠実な社会貢献に心から敬意を表する。
日常診療に役立つ実践的治療法を紹介
書評者: 切池 信夫 (大阪市立大大学院教授・神経精神医学)
 「不安障害の時代」「うつの時代」といわれて久しい。不安障害の中でもパニック障害は多いものの一つで,患者はパニック発作による身体症状を訴えてはプライマリケア医を受診する。従って,最初に受診するのは内科や時には救急病院といった精神科・心療内科以外の科である。

 そして大部分が正しく診断されるまで,数か所以上の病院を訪れる。この病名が認知されて約30年経過するが,一般臨床の場で正しく診断され治療に導入されているかといえば,まだまだ不十分な感がある。プライマリケア医が,最初の受診から的確な診断と適切な治療に導けば,患者のQOLを高め,不必要な検査を避けて医療費の抑制にもつながる。

 パニック障害に関する書物は多く出版されているが,本書は,厚生労働省こころの健康科学事業「パニック障害の治療法の最適化と治療ガイドラインの策定に関する研究班〔班長:久保木富房(平成16年度),熊野宏昭(平成17-18年度)〕の研究成果をもとに上梓されたものである。全体は8章からなり,1章「パニック障害の基本」,2章「パニック障害の治療ガイドライン」,3章「診断と評価」,4章「心理教育」,5章「薬物療法」,6章「個人認知行動療法:パニック発作に対する内部感覚エクスポージャー」,7章「個人認知行動療法:広場恐怖に対するエクスポージャー」,8章「集団認知行動療法」,となっている。これらの中で2章のパニック障害の治療ガイドラインが,著者たちを中心とする厚労省研究班により,プライマリケア医や,パニック障害を専門としない心療内科医や精神科医に向けて作成されたものである。従って,パニック障害についての治療経験のある先生方は,この2章から読み始めて治療の流れを知り,その中でより詳しく知りたい章,例えば診断と評価,心理教育や薬物療法,認知行動療法などに読み進まれてはと思う。パニック障害に関して経験はないが,今後治療してみたいと考えておられる先生方には,1章のパニック障害の基本から読み始め,次に3章の診断と評価,そして2章のパニック障害の治療ガイドラインへと進まれてはどうだろうか。

 本書の特徴として治療面に重点が置かれており,4章の心理教育などは,患者や家族に実施すればすぐに効果が出そうな実践的な内容である。さらに個人・集団認知行動療法が分かりやすく説明されており,認知行動療法についての技術を習得できるのではないかと考える。

 このように本書は,パニック障害の実践的な治療法について紹介されており,日常臨床において役立つこと間違いなしと思われる。本書がパニック障害の治療マニュアルとなり,パニック障害の診療に寄与することを期待したい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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