目でみる胎盤病理

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本邦の産科病理の第一人者による胎盤病理アトラス。胎盤は胎児の成長にあずかる最も重要な臓器で,胎盤の異常は胎児や母体の異常を必ず反映している。本書は著者が20年間蓄積したデータを分析し,胎盤の形態学的異常と胎児・新生児あるいは母体の臨床的異常の対比を明らかにした労作である。
中山 雅弘
発行 2002年04月判型:B5頁:120
ISBN 978-4-260-13063-9
定価 11,000円 (本体10,000円+税)
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  • 目次
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第1章 胎盤の観察法と胎盤病理標本の作り方
第2章 胎盤の構造と機能
第3章 胎盤胎児面の観察とその異常
第4章 胎盤母体面の観察とその異常
第5章 胎盤割面の観察とその異常
第6章 臍帯の観察とその異常
第7章 胎盤の感染症の意義と血行性感染症
第8章 双胎(多胎)の胎盤
第9章 胎盤の腫瘍
第10章 流産と胎盤所見
第11章 子宮内胎児発育遅延・死亡の胎盤
第12章 その他の母体・胎児の異常と胎盤所見
第13章 胎盤・臍帯の基準値

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ユニークで有用な周産期の病理学テキスト
書評者: 仁志田 博司 (東女医大母子総合医療センター所長)
◆記念すべき周産期病理学書

 世界にはアメリカのNaeyeや,イギリスのWillingworthなど,周産期を専門とする病理学者が,産科学や新生児学および母子の医療の進歩に重要な情報を提供してくれていた。ようやく日本においても,まさに歴史の1頁を開くとも言える記念すべき本書が発行されたことは,この分野に携わるものとして,大きな喜びを感ずるものである。
 中山博士は,1981年に日本で最初かつ現在でも世界第一流の周産期センターである大阪府立母子保健総合医療センターの設立当時から,病理学者として深く臨床医とのかかわりを持ちながら,その発展に寄与してきた。中山博士が序に述べているごとく,この20年間に集積された膨大な病理と臨床のデータが,開設当初からコンピュータ化されファイルされていた,大阪府立母子保健医療センターを立ち上げた先駆者たちの慧眼に敬意を表する。それによって臨床と病理のリエゾン化が可能となり,このきわめてユニークかつ有用な周産期の病理学のテキストとなる本が作り出されたのである。
 一読すると,本書が単に病理学者の専門的なテキストとして書かれたものではなく,実際の産科と新生児を中心とした周産期医療に携わる人たちを対象とし,「臨床に役立つ病理学」という視点から書かれたものであることが読みとれる。一般に病理学のような専門の分野からの本は,一般の臨床家にとってなじみにくい面を持つのがむしろその特徴と思われていたが,本書はその柔らかい語り口の文章に加え,説得力のある図表に平易な言葉で説明が加えられている。また,選び抜かれた病理組織の写真からは,中山博士の自分たちの持っている知識と経験を,ぜひ臨床に応用してほしいという熱いメッセージのような意図がひしひしと伝わってくる。

◆期待される臨床と病理の共同作業による成果

 当然のことながら専門書であり,平易な文章で書かれながらも,その学問的な内容は深く選び抜かれた適切な引用文献が各章にのせられていることからも読みとれる。そのともすると硬くなりがちな文章の流れの中に,オアシスのような息抜きの箇所として「パソロジー・ラボから」と称する一口メモのようなコーナーが,何か所かに散りばめられているのも,病理という基礎分野と臨床の共存を願う中山博士の1つの工夫と読みとれる。
 周産期の病理部門から臨床への中山博士の数多い貢献の中で,最も有名なものの1つは,Wilson-Mikity症候群と絨毛膜羊膜炎の関係であろう。この仕事は,現院長の藤村正哲博士の臨床家としての鋭い目と,病理学者としての中山博士のプロの直感が結びついた結果生まれたものと評価されており,世界に日本から発信しつつある学問的成果の1つである。この研究を含めたさらなる臨床と病理の共同作業から,新たな成果が次々と生まれることが期待されている。
 本の大きさも手頃であり,どの周産期医療に携わる医療施設にも常備されるべき本であるとともに,検査科の病理医師のみならず,周産期医療に携わる臨床家も一度手にとって見るべき,きわめて価値のある重要な本であることはその論を待たない。
本邦の産科病理の第一人者による胎盤病理アトラス
書評者: 武田 佳彦 (東女医大名誉教授・産科婦人科学)
胎盤は,胎児の体外臓器として母体との接点にあり,その着床は妊娠成立の起点であり,妊娠維持に直接的に関与するが,母子の物質交換機能の大半を担っている。そのため着床現象や代謝・内分泌機能は,詳細な検討が進められているが,胎児の病態と直接的に対応する胎盤病理の検討は,母児の臨床像との関連が困難なため必ずしも十分ではない。ことに,病理形態学の素養を持つ研究者の不足が隘路になっていることも,本領域の発展を妨げている一因である。

◆広く周産期医学への活用が期待される胎盤病理の解明

 本書では,著者の豊富な臨床経験をもとに,疾患との対比を行ないながら胎盤病理がきわめて簡明に論述されている。胎盤の観察について胎児面では,羊膜・絨毛膜炎,母体面では,妊娠中毒症,胎盤早期剥離,胎盤割面では,梗塞・血栓などもっとも関連性の強い疾患を例示して系統的な検索手順を解説している。臍帯についても,長さ,太さ,付着異常,過捻転など臨床に対応して検索が整理されている。このように具体的な観察方法の解説は,臨床医にとって胎盤病理の重要性を再認識し,疾患のより深い理解を得るための大きな手助けとなろう。一方,胎児発育障害における絨毛構造の萎縮性変化や絨毛血管の梗塞,フィブリノイド変性などの虚血性病変は,発育障害と関連することが知られているが,chorangiosisと無血管絨毛の混在など特異な病理像を提示しており,発症病態の解明に大きな手がかりを与えている。
 羊膜・絨毛膜炎で代表される子宮内感染症の胎児への波及も,胎盤病理に明確に反映することが示されており,生後の新生児感染症の病態解明への重要性を指摘している。
 また,最近ではART(assisted reproductive technology)のために一卵性双胎の頻度が増し,双胎間輸血症候群が臨床上大きな課題となっているが,血管吻合の状態から1児死亡の原因解明に胎盤病理は,欠くことのできない要件である。これらの疾患群については,マクロの形態的特徴を検鏡所見と対比させながら,全体の疾患病態の把握を心がけている。このような手法による胎盤の形態病理からの解析は,臨床像の理解にきわめて有用である。
 中山博士は,専門の病理医として積極的に胎盤病理の解明を進められた数少ない研究者の1人であり,周産期医学の発展を支えられた功績はきわめて大きい。
 本書は,胎盤病理の立場から疾患群を巧みに整理して臨床像を浮き彫りにしており,周産期医学の臨床で広く活用されることを期待したい。

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