臨床医のためのアレルギー診療の教科書
書評者:野口 善令(京大附属病院・総合診療部)
あなたは次の質問に答えられますか。もし,すらすらと解答が浮かんでこないようであればこの本を読む価値があります。
(1)血清総IgE値が診断に有用な疾患は何か
(2)肝障害や薬物相互作用により,致死的な不整脈を起こす可能性がある抗ヒスタミン薬は何か
(3)重大な疾患の部分症ではなく,対照的に観...
臨床医のためのアレルギー診療の教科書
書評者:野口 善令(京大附属病院・総合診療部)
あなたは次の質問に答えられますか。もし,すらすらと解答が浮かんでこないようであればこの本を読む価値があります。
(1)血清総IgE値が診断に有用な疾患は何か
(2)肝障害や薬物相互作用により,致死的な不整脈を起こす可能性がある抗ヒスタミン薬は何か
(3)重大な疾患の部分症ではなく,対照的に観察してよい良性の慢性じんま疹を示唆する特徴は何か
(4)抗生剤投与に先立つ皮内反応(ペニシリン皮膚検査)は誰に施行されるべきか
◆実際の臨床に役立つ構成
岡田正人訳『米国内科学会アレルギー診療ガイド-プライマリケア医のために』が刊行された。原書はACP Expert Guide seriesの“Allergy and Immunology”である。米国の学会が出版する実践書は,忙しい臨床医に読ませて損をさせないという意気にあふれていて好感が持てる。本書の原著も,各章のはじめに典型的な症例が呈示してあり,実地臨床に即して理解していけるようになっている,EBMに則って理由づけがされている,プライマリケアにおいて頻度の多い疾患に絞ってある,どこまでプライマリケア医がケア可能で,どのような場合に専門医に紹介することが望ましいかが示されているなど,実際的で臨床に役立つ構成になっている。
また通常の翻訳書では,(1)日本語に翻訳された時点で最新の情報から遅れてしまっている,(2)欧米のスタンダードな治療法が日本で伝統的に行なわれている医療と大きく異なる場合,そのまま翻訳しても医療現場に受け入れられない,(3)わが国で市販されない薬物に言及されている場合にわざわざ同効薬を調べるのが煩わしい,などの問題があることが多いが,本書では訳者が丁寧な注釈と補追を行ない,これらの問題点には下記のような対応がなされている。
(1)各分野の主要雑誌(NEJM,Pediatrics,LANCET,Ann Im,Allergy,J All Cin Immu)から2000年8月(一部10月)までの重要な最新知見が補足されupdateされている
(2)喘息に対するテオフィリン,吸入ステロイドなど,日本の慣習と大きく治療方針が異なる場合は論文を引いて解説してある
(3)大綱は原著に忠実に世界標準になっているが,単なる翻訳ではなくわが国で使用可能な同効薬があげられ,投与量,適応も日本で使うことを念頭に翻訳されている
また,他にもPOINTSを各章のはじめにつけるなど,読みやすくするための工夫が凝らされている。
アレルギー疾患はプライマリケアで遭遇する頻度が高いにもかかわらず,わが国では系統的な臨床教育がなされることが少なく,いわば専門の谷間にあたる領域である。筆者も何となくいいかげんに理解している内容が多かったが,本書を通読して随分知識を整理することができた。EBMの方法論に従って臨床的疑問についての追求ばかりを行なっていると,どうしても知識の谷間ができるため,時にはsurveillanceとして広く知識を仕入れることも必要であると痛感した。本書は,アレルギー疾患の知識を整理するためには最適であり,プライマリケア医のためのアレルギー診療の教科書として一読をお薦めする。