臨床面接技法
患者との出会いの技
豊富な会話例で示す「医療面接」の実践書
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「患者との出会い」から始まり、臨床決断に患者の意思を反映させるまで、現代の医療面接が果たすべき課題のすべてを豊富な会話例とともに詳述した実践の書。医療面接先進国である米国でまとめられた本書の内容は、通り一遍のテクニックを超えたコミュニケーションの技(アート)である。医学生・研修医のみならず、患者と接するすべての医療従事者必読の書。
著 | J. Andrew Billings / John D. Stoeckle |
---|---|
監訳 | 日野原 重明 / 福井 次矢 |
訳者代表 | 大西 基喜 |
発行 | 2001年03月判型:B5頁:260 |
ISBN | 978-4-260-13874-1 |
定価 | 3,740円 (本体3,400円+税) |
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- 書評
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第I部 入門編
1. 総論
2. 面接を開始し、患者との関係を築く
3. 診断とマネージメントのための情報を引き出す:面接の進行
4. 診断とマネージメントのための情報を引き出す:面接の内容
5. さらに情報を引き出すコツ
6. 指導医に相談する
7. 患者への説明:患者に情報を与え、助言する
8. 面接の結果を記録する
9. 参考文献
第II部 応用編
10. さらに情報を引き出すための高度なテクニック
11. 自分の面接技術を評価する
12. 精神状態の検査
13. 難しい医師患者関係
14. プランの実行
15. 再診
16. 往診と生活機能評価
17. 診療録
18. 口頭での症例呈示
19. 共同して患者を診る
1. 総論
2. 面接を開始し、患者との関係を築く
3. 診断とマネージメントのための情報を引き出す:面接の進行
4. 診断とマネージメントのための情報を引き出す:面接の内容
5. さらに情報を引き出すコツ
6. 指導医に相談する
7. 患者への説明:患者に情報を与え、助言する
8. 面接の結果を記録する
9. 参考文献
第II部 応用編
10. さらに情報を引き出すための高度なテクニック
11. 自分の面接技術を評価する
12. 精神状態の検査
13. 難しい医師患者関係
14. プランの実行
15. 再診
16. 往診と生活機能評価
17. 診療録
18. 口頭での症例呈示
19. 共同して患者を診る
書評
開く
再認識する医療面接の重要性
書評者: 筒井 末春 (人間総合科学大教授・東邦大名誉教授)
このたび,『The Clinical Encounter-A Guide to the Medical Interview and Case Presentation』の第2版が,日野原重明および福井次矢両先生の監訳の下,わが国でその日本語版が刊行されるに至った。
本書は,John D. Stroeckle(ハーバード大医学部名誉教授)とJ. Andrew Billings(マサチューセッツ総合病院指定医,ハーバード大医学部臨床助教授,同病院緩和ケアサービス長)の共著によるもので,前者は,米国におけるプライマリ・ケアの生みの親の1人として,後者は,全米ホスピス協会の主要な代表者の1人としてもよく知られている。また本書は,ハーバード大医学部2年生の臨床面接入門のテキストとしても広く使用されている。わが国では,『臨床面接技法-患者との出会いの技』という題名で登場したわけである。
第 I 部は「入門編」,第 II 部は「応用編」より成り立っている。まず「入門編」では,臨床上重要な医療面接の基礎が述べられていて,特に優れた面接をするにはどうしたらよいかが,詳細に記述されているのが特徴と言える。
医療面接のポイントとして6つの課題(面接を開始し患者との関係を築く,診断とマネージメントのための情報を引き出す,指導医に相談する,症例のアセスメントとプラン,患者に情報を与え助言する,記録)について言及している。
◆広く臨床で実践出来る内容
これらの中にも日常臨床で重要な,たとえば「質問をする際に陥りやすい失敗」,「尋ねにくい質問と患者の秘密保持」,「高齢者の面接」についてもわかりやすく述べられていて,社会歴を得るための具体的な質問も,ストレスの有無や生活への満足度も視野に入れた的確なものとなっている。また,患者指導のポイントや行動変容のための提案も,広く臨床で実践し得るものとなっている。
第 II 部は,「応用編」として医療面接と関連した臨床技能について記述されている。
主なものとして情報を引き出すテクニックや非言語的コミュニケーション,ストレスへのコーピングの指導,精神状態の検査法,難しい患者への対応の仕方(身体化障害や臨死患者など),悪い知らせの伝達法や延命治療についての患者の選択,再診,在宅往診と生活機能の評価,患者の紹介やコンサルテーションの受け方など多くの実例をあげて説明がなされている。
◆具体的で参考になる“早わかりメモ”
本書は,また随所にとり入れてある“早わかりメモ”が具体的で大変参考となる。
さらに参考文献は,歴史的にすぐれた論文がよく整理され紹介されていて便利である。
本書は,医学部学生の卒前教育のみならず,卒後においても欠かせない面接の入門書としてその真価を発揮し得るものと言え,さらにプライマリ・ケア医をはじめとする一般臨床医が医療面接の重要性を再認識する意味でも,21世紀の医療に役立つ書物として推薦する次第である。
臨床面接のアートの真髄が開陳された好書
書評者: 阿部 正和 (慈恵医大名誉教授)
臨床医学の入門は診断学であり,診断学の入口は患者への面接である。ことほどさように,面接は医師が医師としての業を適切有効に発揮するために重要なことである。高度な医療技術が展開されている現在ではあっても,面接というテーマは,医師が存在理由を明らかにするためにも,いかに重要であるかは,本書を読めばよく理解できるであろう。
学生時代および戦後の慌ただしい時代に,私が学んだ内科診断学の教科書では,「面接」とは言わずに「問診」という項目が巻頭に設けられていた。そして,その項目に割かれている頁数は,ごくわずかなものであった。近年になって,ようやく面接の重要性が叫ばれるようになり,面接を表題とする参考書も数多く刊行されるに至った。その中で,私が最近のヒットと思ったものに,2000年8月刊行の『はじめての医療面接-コミュニケーション技法とその学び方』(斎藤清二著,医学書院)がある。この書は,あくまで「患者の観点」に立って,どういう会話のやりとりが適切か,どういう態度が医師患者関係を良好に保つのに必要か,という点に力点が置かれている,すばらしい本である。
◆医療は医師と患者の共同作業
ここに紹介する『臨床面接技法-患者との出会いの技(The Clinical Encounter-A Guide to the Medical Interview and Case Presentation)』は,前述の書よりもさらに上をいく好著と断言して憚らない。本書に一貫して流れている精神は,「医療は医師と患者との共同作業である」という私の日頃の主張とまったくよく合致するものであるので,私は心嬉しく思ったのである。
本書は,StroeckleおよびBillings両先生の共著で,ハーバード大学医学部において,かなり以前から実施している自己学習方法(New Pathway)にのっとって作られたカリキュラムの内容が主なものである。
内科医のみならず,各科の臨床家,さらに医学以外の分野の専門家の意見まで幅広く取り入れられている点も大きな特色である。患者との出会いから始まって,患者の意思も十分に反映させた上で行なわれる診断のあるべき姿を,豊富な会話例を含めて解説した実践的な書と言える。
◆言葉こそ医療の始まりであり,終りでもある
本書は2部構成になっている。その第1部は入門篇であり,全巻268頁のうち,その1/3の頁数を占めている。とりあえずは,この第1部だけでも読むことをお勧めしたい。第2部は応用篇であり,ここでは面接技法を,いろいろな場面でどのように発揮したらよいかを,きわめて具体的に,実際の症例を提示しながら解説している。学生のみならず,一般医家の方々にも大いに役立つ内容となっている。
また,各章の冒頭に掲げられている名医および有識者の方々の箴言も私たちの心に強く響くものがある。頭の中にとどめておくべき至宝と言ってよいだろう。
平凡で,陳腐のように思われるかもしれないが,言葉こそが医療の始まりであり,また医療の終わりでもある。言葉と行動の如何が,診療そのものの成否を左右するといっても過言ではない。このことは,本書を読めば,まことによく理解できるのである。
◆行間に患者への愛情
いずれにせよ,本書では,医師の言葉や行動こそが,臨床的実践の中でいかに重要であるかが力説されており,臨床面接のアートの真髄が述べられていると言えよう。
私自身は,医学教科書の翻訳ものはあまり好きではない。それは,読んでも文章の意味がよくわからないで隔靴掻痒の感を覚えることをしばしば経験するからである。しかし本書は,その内容の1行1行が頭の中にそのままスーッと入ってくるのである。尊敬する日野原重明先生と,臨床医として現在最も光り輝いている福井次矢先生のお二方の監訳のなせる業だからであろうか。心から敬服する次第である。
本書は,臨床面接入門のテキストとはいえ,きわめて洗練された文章に満ち満ちているばかりでなく,行間に患者への愛情が込められていることに,私は深い感銘を覚えた。
学生のみならずベテランの医師の方々にも,格好の参考書として役立つ,近年稀にみる内容と言えよう。
画期的な面接技法の本,初歩から具体的に詳述
書評者: 河合 隼雄 (文化庁長官/京都文教大学学術顧問)
本書は,わが国の医療の歴史の中で実に画期的な意味を持つものと思われる。
わが国の医療は,明治以来西洋の近代医学に範をとり,それに追いつき追い越すことをモットーとして発展してきた。それは見事に成功したが,医師は医療の現場においては,近代医学の知識と技術を十分に身につけた権威者として臨み,それが日本の伝統的な人間関係のあり方と結びついて,端的に言えば,「黙って俺にまかせておけ」式の態度をとることになった。これはこれで利点を持つものであるが,現代においては,医療において扱う病気が多様化し,かつ患者の人権の尊重が強調されてきたので,医師は従来よりももっときめの細かい面接の技法を身につけることが必要になってきた。
その点において,本書は臨床面接の技法を,まったくの初歩から,具体的に詳細に記したものとして,きわめて貴重なものである。
◆各人の固有の「アート」を磨く
医師が初めて患者に会う時から説きおこし,患者との関係の築き方,必要な情報の引き出し方,患者にどう説明し,助言を与えるか,面接の記録をどうするかなどを実に具体的に示している。その中で陥りやすい悪い例や,いわゆる「コツ」に類することなどが記されていて,実に実際的で,臨床の場にすぐに役立つところがすばらしい。わが国においては,かつてこのような類の医学書はなかったのではないかと思う。すべての医学部の学生の必読の書として推薦したい。
「第 II 部応用編」は,ますます実用的で,ここも臨床の実際に役立つ知恵に満ちている,と言ってよいだろう。初心者のみならず,相当に経験を積んだ医師も,自分の方法を振り返り,深めてみる意味で,第 II 部を読む価値は十分にあるだろう。
ただ,本書の「推薦の序」にもあるとおり,本書を単なる「一連の機械的な交渉術」を説くものと見なさない,という注意が必要であろう。本書に引用されているシュヴァイツァーの言葉のように「医学は単なる科学ではなく,医師と患者の個別性を相互作用させるアートである」ことを,よくよく認識する必要がある。すなわち,本書は「これさえ守ればよい」というマニュアルではなく,各人が固有の「アート」を磨いていくための土台として提示されているのである。
貴重な書物をわが国の医療関係者に提示された,監訳者および訳者の皆さんに敬意を表するとともに,本書ができるだけ多くの医療関係者に読まれることを願っている。
楽しく,役に立つ医療面接の実践書
書評者: 深澤 道子 (早大教授・心理学)
本書は,ハーバード大学医学部の2年生の「臨床入門」講座のテキストとして書かれたものである。想像するに,学生が購入して1年後には,この本はまったく様変わりをしているであろう。例えば,頁の角は擦り切れ,いたるところにマーカーで下線が引かれ,マージンには細かい字でびっしりと書き込みがなされている,という按配である。そしてもちろん,学生自身も自分と患者についてより深い洞察を身につけているであろう。このテキストは,学生にとって「知識の宝庫」であるだけでなく,どうすればその知識が宝としてのパワーを発揮するかについても,方法や戦略を示してくれる「楽しく,役に立つ本」なのである。学生だけでなく,インタビュー(この本で示されている形の)に不馴れな医師をはじめ,医療従事者や心理,ソーシャルワークその他,隣接領域で仕事をする人たちにとっても示唆に富む1冊となるであろう。
◆読み取ってほしい「臨床の珠玉の知」
それはこの本が経験や関心によっていくつかの層で読める多重構造で書かれているためで,簡単な言葉で語られた読みやすい本,というのも1つの読み方であり,さらに1つの言葉の中に「臨床の珠玉の知」を読み取ることや,全体の文脈の中から,背後にある多くの臨床医の個人的経験や,反省,いくばくかの後悔などが反映されていることを読み取ることも可能であろう。換言すれば,この本は,先輩が後輩に惜しみなく送る真心のこもったメッセージなのである。
全体を通じて共通しているのは机上論ではなく,具体例をあげて書かれていることで,黙読していても臨場感が伝わってくる。文章の中でしばしば「あなた」と語りかけていることも臨場感と読者のコミットメントをうながす一因であろう。「あなたは」と呼びかけられると,自分がそこにいる,という実感がわくためであり,コミュニケーションについて書きながら,実際にそれがどのような形で実践されるかについても学習できる配慮の1例である。
体験学習も重視されていて,ビデオを使った自分の面接技術を評価する方法など,自己洞察を深める手法も扱われている。「応用編」では,「難しい医師患者関係」をはじめ,直面する問題が具体的に取りあげられ,自他の心理を深く追求しているのも本書の特徴である。
◆脈々と息づく著者らの哲学
周到に用意された文献,査定や評価の質問項目,早わかりメモ,など「すぐに役に立つ」情報が網羅されているのも優れたテキストの条件だが,それにも増してこのテキストが優れているのは,すべてのトピックの底流に「相手の身になって考え,行動する」という著者らの哲学があり,人間の尊厳に対する敬意の念が脈々と息づいている点であろう。「あとがき病歴聴取の歴史」は,現代の医療の抱える問題を理解し,かつそれを改善するための提言であり,「理想的な医師患者関係」としてあげられている項目は,著者の結びの言葉である「どのような状況でも,そしていつの時代にも,医師と患者の間にあるよき関係とは,両者が強調して歩み寄ることを意味しているのである」を具現化するものであろう。
翻訳も平明で,著者らの意図するところを的確に伝えている。
書評者: 筒井 末春 (人間総合科学大教授・東邦大名誉教授)
このたび,『The Clinical Encounter-A Guide to the Medical Interview and Case Presentation』の第2版が,日野原重明および福井次矢両先生の監訳の下,わが国でその日本語版が刊行されるに至った。
本書は,John D. Stroeckle(ハーバード大医学部名誉教授)とJ. Andrew Billings(マサチューセッツ総合病院指定医,ハーバード大医学部臨床助教授,同病院緩和ケアサービス長)の共著によるもので,前者は,米国におけるプライマリ・ケアの生みの親の1人として,後者は,全米ホスピス協会の主要な代表者の1人としてもよく知られている。また本書は,ハーバード大医学部2年生の臨床面接入門のテキストとしても広く使用されている。わが国では,『臨床面接技法-患者との出会いの技』という題名で登場したわけである。
第 I 部は「入門編」,第 II 部は「応用編」より成り立っている。まず「入門編」では,臨床上重要な医療面接の基礎が述べられていて,特に優れた面接をするにはどうしたらよいかが,詳細に記述されているのが特徴と言える。
医療面接のポイントとして6つの課題(面接を開始し患者との関係を築く,診断とマネージメントのための情報を引き出す,指導医に相談する,症例のアセスメントとプラン,患者に情報を与え助言する,記録)について言及している。
◆広く臨床で実践出来る内容
これらの中にも日常臨床で重要な,たとえば「質問をする際に陥りやすい失敗」,「尋ねにくい質問と患者の秘密保持」,「高齢者の面接」についてもわかりやすく述べられていて,社会歴を得るための具体的な質問も,ストレスの有無や生活への満足度も視野に入れた的確なものとなっている。また,患者指導のポイントや行動変容のための提案も,広く臨床で実践し得るものとなっている。
第 II 部は,「応用編」として医療面接と関連した臨床技能について記述されている。
主なものとして情報を引き出すテクニックや非言語的コミュニケーション,ストレスへのコーピングの指導,精神状態の検査法,難しい患者への対応の仕方(身体化障害や臨死患者など),悪い知らせの伝達法や延命治療についての患者の選択,再診,在宅往診と生活機能の評価,患者の紹介やコンサルテーションの受け方など多くの実例をあげて説明がなされている。
◆具体的で参考になる“早わかりメモ”
本書は,また随所にとり入れてある“早わかりメモ”が具体的で大変参考となる。
さらに参考文献は,歴史的にすぐれた論文がよく整理され紹介されていて便利である。
本書は,医学部学生の卒前教育のみならず,卒後においても欠かせない面接の入門書としてその真価を発揮し得るものと言え,さらにプライマリ・ケア医をはじめとする一般臨床医が医療面接の重要性を再認識する意味でも,21世紀の医療に役立つ書物として推薦する次第である。
臨床面接のアートの真髄が開陳された好書
書評者: 阿部 正和 (慈恵医大名誉教授)
臨床医学の入門は診断学であり,診断学の入口は患者への面接である。ことほどさように,面接は医師が医師としての業を適切有効に発揮するために重要なことである。高度な医療技術が展開されている現在ではあっても,面接というテーマは,医師が存在理由を明らかにするためにも,いかに重要であるかは,本書を読めばよく理解できるであろう。
学生時代および戦後の慌ただしい時代に,私が学んだ内科診断学の教科書では,「面接」とは言わずに「問診」という項目が巻頭に設けられていた。そして,その項目に割かれている頁数は,ごくわずかなものであった。近年になって,ようやく面接の重要性が叫ばれるようになり,面接を表題とする参考書も数多く刊行されるに至った。その中で,私が最近のヒットと思ったものに,2000年8月刊行の『はじめての医療面接-コミュニケーション技法とその学び方』(斎藤清二著,医学書院)がある。この書は,あくまで「患者の観点」に立って,どういう会話のやりとりが適切か,どういう態度が医師患者関係を良好に保つのに必要か,という点に力点が置かれている,すばらしい本である。
◆医療は医師と患者の共同作業
ここに紹介する『臨床面接技法-患者との出会いの技(The Clinical Encounter-A Guide to the Medical Interview and Case Presentation)』は,前述の書よりもさらに上をいく好著と断言して憚らない。本書に一貫して流れている精神は,「医療は医師と患者との共同作業である」という私の日頃の主張とまったくよく合致するものであるので,私は心嬉しく思ったのである。
本書は,StroeckleおよびBillings両先生の共著で,ハーバード大学医学部において,かなり以前から実施している自己学習方法(New Pathway)にのっとって作られたカリキュラムの内容が主なものである。
内科医のみならず,各科の臨床家,さらに医学以外の分野の専門家の意見まで幅広く取り入れられている点も大きな特色である。患者との出会いから始まって,患者の意思も十分に反映させた上で行なわれる診断のあるべき姿を,豊富な会話例を含めて解説した実践的な書と言える。
◆言葉こそ医療の始まりであり,終りでもある
本書は2部構成になっている。その第1部は入門篇であり,全巻268頁のうち,その1/3の頁数を占めている。とりあえずは,この第1部だけでも読むことをお勧めしたい。第2部は応用篇であり,ここでは面接技法を,いろいろな場面でどのように発揮したらよいかを,きわめて具体的に,実際の症例を提示しながら解説している。学生のみならず,一般医家の方々にも大いに役立つ内容となっている。
また,各章の冒頭に掲げられている名医および有識者の方々の箴言も私たちの心に強く響くものがある。頭の中にとどめておくべき至宝と言ってよいだろう。
平凡で,陳腐のように思われるかもしれないが,言葉こそが医療の始まりであり,また医療の終わりでもある。言葉と行動の如何が,診療そのものの成否を左右するといっても過言ではない。このことは,本書を読めば,まことによく理解できるのである。
◆行間に患者への愛情
いずれにせよ,本書では,医師の言葉や行動こそが,臨床的実践の中でいかに重要であるかが力説されており,臨床面接のアートの真髄が述べられていると言えよう。
私自身は,医学教科書の翻訳ものはあまり好きではない。それは,読んでも文章の意味がよくわからないで隔靴掻痒の感を覚えることをしばしば経験するからである。しかし本書は,その内容の1行1行が頭の中にそのままスーッと入ってくるのである。尊敬する日野原重明先生と,臨床医として現在最も光り輝いている福井次矢先生のお二方の監訳のなせる業だからであろうか。心から敬服する次第である。
本書は,臨床面接入門のテキストとはいえ,きわめて洗練された文章に満ち満ちているばかりでなく,行間に患者への愛情が込められていることに,私は深い感銘を覚えた。
学生のみならずベテランの医師の方々にも,格好の参考書として役立つ,近年稀にみる内容と言えよう。
画期的な面接技法の本,初歩から具体的に詳述
書評者: 河合 隼雄 (文化庁長官/京都文教大学学術顧問)
本書は,わが国の医療の歴史の中で実に画期的な意味を持つものと思われる。
わが国の医療は,明治以来西洋の近代医学に範をとり,それに追いつき追い越すことをモットーとして発展してきた。それは見事に成功したが,医師は医療の現場においては,近代医学の知識と技術を十分に身につけた権威者として臨み,それが日本の伝統的な人間関係のあり方と結びついて,端的に言えば,「黙って俺にまかせておけ」式の態度をとることになった。これはこれで利点を持つものであるが,現代においては,医療において扱う病気が多様化し,かつ患者の人権の尊重が強調されてきたので,医師は従来よりももっときめの細かい面接の技法を身につけることが必要になってきた。
その点において,本書は臨床面接の技法を,まったくの初歩から,具体的に詳細に記したものとして,きわめて貴重なものである。
◆各人の固有の「アート」を磨く
医師が初めて患者に会う時から説きおこし,患者との関係の築き方,必要な情報の引き出し方,患者にどう説明し,助言を与えるか,面接の記録をどうするかなどを実に具体的に示している。その中で陥りやすい悪い例や,いわゆる「コツ」に類することなどが記されていて,実に実際的で,臨床の場にすぐに役立つところがすばらしい。わが国においては,かつてこのような類の医学書はなかったのではないかと思う。すべての医学部の学生の必読の書として推薦したい。
「第 II 部応用編」は,ますます実用的で,ここも臨床の実際に役立つ知恵に満ちている,と言ってよいだろう。初心者のみならず,相当に経験を積んだ医師も,自分の方法を振り返り,深めてみる意味で,第 II 部を読む価値は十分にあるだろう。
ただ,本書の「推薦の序」にもあるとおり,本書を単なる「一連の機械的な交渉術」を説くものと見なさない,という注意が必要であろう。本書に引用されているシュヴァイツァーの言葉のように「医学は単なる科学ではなく,医師と患者の個別性を相互作用させるアートである」ことを,よくよく認識する必要がある。すなわち,本書は「これさえ守ればよい」というマニュアルではなく,各人が固有の「アート」を磨いていくための土台として提示されているのである。
貴重な書物をわが国の医療関係者に提示された,監訳者および訳者の皆さんに敬意を表するとともに,本書ができるだけ多くの医療関係者に読まれることを願っている。
楽しく,役に立つ医療面接の実践書
書評者: 深澤 道子 (早大教授・心理学)
本書は,ハーバード大学医学部の2年生の「臨床入門」講座のテキストとして書かれたものである。想像するに,学生が購入して1年後には,この本はまったく様変わりをしているであろう。例えば,頁の角は擦り切れ,いたるところにマーカーで下線が引かれ,マージンには細かい字でびっしりと書き込みがなされている,という按配である。そしてもちろん,学生自身も自分と患者についてより深い洞察を身につけているであろう。このテキストは,学生にとって「知識の宝庫」であるだけでなく,どうすればその知識が宝としてのパワーを発揮するかについても,方法や戦略を示してくれる「楽しく,役に立つ本」なのである。学生だけでなく,インタビュー(この本で示されている形の)に不馴れな医師をはじめ,医療従事者や心理,ソーシャルワークその他,隣接領域で仕事をする人たちにとっても示唆に富む1冊となるであろう。
◆読み取ってほしい「臨床の珠玉の知」
それはこの本が経験や関心によっていくつかの層で読める多重構造で書かれているためで,簡単な言葉で語られた読みやすい本,というのも1つの読み方であり,さらに1つの言葉の中に「臨床の珠玉の知」を読み取ることや,全体の文脈の中から,背後にある多くの臨床医の個人的経験や,反省,いくばくかの後悔などが反映されていることを読み取ることも可能であろう。換言すれば,この本は,先輩が後輩に惜しみなく送る真心のこもったメッセージなのである。
全体を通じて共通しているのは机上論ではなく,具体例をあげて書かれていることで,黙読していても臨場感が伝わってくる。文章の中でしばしば「あなた」と語りかけていることも臨場感と読者のコミットメントをうながす一因であろう。「あなたは」と呼びかけられると,自分がそこにいる,という実感がわくためであり,コミュニケーションについて書きながら,実際にそれがどのような形で実践されるかについても学習できる配慮の1例である。
体験学習も重視されていて,ビデオを使った自分の面接技術を評価する方法など,自己洞察を深める手法も扱われている。「応用編」では,「難しい医師患者関係」をはじめ,直面する問題が具体的に取りあげられ,自他の心理を深く追求しているのも本書の特徴である。
◆脈々と息づく著者らの哲学
周到に用意された文献,査定や評価の質問項目,早わかりメモ,など「すぐに役に立つ」情報が網羅されているのも優れたテキストの条件だが,それにも増してこのテキストが優れているのは,すべてのトピックの底流に「相手の身になって考え,行動する」という著者らの哲学があり,人間の尊厳に対する敬意の念が脈々と息づいている点であろう。「あとがき病歴聴取の歴史」は,現代の医療の抱える問題を理解し,かつそれを改善するための提言であり,「理想的な医師患者関係」としてあげられている項目は,著者の結びの言葉である「どのような状況でも,そしていつの時代にも,医師と患者の間にあるよき関係とは,両者が強調して歩み寄ることを意味しているのである」を具現化するものであろう。
翻訳も平明で,著者らの意図するところを的確に伝えている。
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