15分間の問診技法
日常診療に活かすサイコセラピー

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短時間の診察で、良い医師、患者関係を確立維持する治療的会話の技法と理論を、初診から再診、終結まで順を追って懇切に解説。身体のみならず「情報を加工する臓器」である「心」にも目を向け、医療の場面に心理社会的アプローチを取り入れることで多くの問題が解決できる。すべての診療科の医師にすぐに役立つ待望の書。
原著 Marian R. Stuart / Joseph A. Lieberman III
監訳 玉田 太朗
玉田 太朗 / 佐々木 将人 / 玉田 寛
発行 2001年03月判型:A5頁:276
ISBN 978-4-260-13873-4
定価 3,300円 (本体3,000円+税)
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  • 目次
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第1章 心の健康と身体の健康との関係:新たな医学モデルが意味するもの 
第2章 ストレスに対する患者の反応 
第3章 サイコセラピーを実施するにふさわしいプライマリ・ケア医の条件 
第4章 サイコセラピーを通じて患者を変容させる際の基本原則と方法 
第5章 プライマリ・ケア医と精神科医の治療へのアプローチの違い 
第6章 治療の構造 
第7章 15分サイコセラピーの理論的根拠と技法 
第8章 15分サイコセラピーの内容 
第9章 特殊な患者の診察法 
第10章 特殊な状況、スタッフおよび医師のための応用心理療法 
第11章 予測される成果

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全人的診療能力向上のための問診技法を伝授
書評者: 桂 戴作 (LCCストレス医学研究所)
◆認められてきた全人的医療の重要性

 今回の医師法の改正で,厚労省は医療従事者の“全人的診療能力の向上”を指示しているが,全人的医療の重要性が認められてきたということであろう。しかし,学生時代にそのような教育を受けてない一般医師にとっては,具体的にはわかりにくい面もあるかもしれない。
 患者の心が和んで,不安やうつ気分が解消されるならば,いろいろな病気はよい方向に向くものであり,患者の心に配慮することはプライマリ・ケアにとってはかなり大事なことである。
 ちょうどそのような医療状況下に,本書は刊行されたのであって,時宜を得た出版と思うところである。
 監訳されたのは,自治医科大学名誉教授の玉田太朗先生であるが,学生たちに全人的医療の講義をするための教科書探しをされていて,この本を見つけられたとのことである。いわゆる心理療法の本と言うよりは,全人的医療の本と言ったほうがよいのかもしれない。
 全体の流れが,どのように質問し,どのように応答すれば,患者さんはどのように感じどのように安心するか,と言うようなことが多くの例を引いて説かれていて,本書のとおりに対応すれは,結果として全人的医療になるように配慮されている。
 その中でもBATHE法の項には,特に心惹かれた。Bは背景backgroundであり,「あなたの生活に何が起こっていますか」という質問に代表される。Aは感情affect,「それについて,あなたはどう感じていますか」,Tは悩みtrouble,「一番悩んでいることは何ですか」,Hは処理handling,「それをどう処理していますか」,そしてEは共感empathyであり,「それは大変難しい状況でしょうね」と応答し,患者の反応を正当化するものである。結果として共感したことになり,患者の気持ちを安心に導くように構成されていて,その全人的配慮は見事である。
 紹介したいところは多いが,紙数がないので最後の頁だけ少し触れておきたい。
 ここはもう付録であるが,いつでも使える“12のよい質問”と“3つのよい応え方”が示されている。交流分析的にみると,質問は相手のAとFCの自我状態の助長に役立つし,応え方は受容・共感の実践であり,相手にストローク(よろこび)をあたえるものである。
 Aは成人の自我状態-良識のある平静な判断のできる傾向,FCは自由な子どもの自我状態-自分の思いを自由に表現できる傾向を意味しているが,一般にA,FCの高い状態は心身症にはなりにくいものである。
 また,ストロークの交換が人間関係をよくすることは,よく知られたところである。
 したがって,これらの対応はそのまま患者の心を安定させる全人的対応であって,本書のエキスでもあろうが,大いに参考となった。

◆患者さんの心への最もよい対し方

 当然のことながら,患者さんは心のある人である。その心への最もよい対し方-それを全人的医療と考えたいのであるが-について,本書は実践的,具体的な手引き書となるであろう。
 しかしそれは,心身医学会,心療内科学会の理事,ことに女性心身医学会では理事長の立場にあられる玉田先生の心身医学に対する姿勢によるものかもしれない。
 われわれは,精神疾患患者を診るわけではない。また心理士の行なうカウンセリングだけをやるわけでもない。いわば心身相関の臨床を行なうのであって,その大部分が全人的医療であると主張されているように思う。筆者もそれに同感するものである。
 一般科のわれわれが,自分の臨床をよいものにしようと思うならば,本書にお目通しいただき,いささかの全人的医療の体験をしてほしい。必ずご自分の臨床に満足いただけると思い,ここに推薦する次第である。
すばらしい面接技法の知識を持った医師に
書評者: 山本 和利 (札幌医大教授・地域医療総合医学)
◆大きくものを言う面接技法の習得

 現代医療は,問診や身体診察よりも高度医療機器への依存を強めている。将来においては,このような傾向が是正され,問診や身体診察を重視するプライマリ・ケア医と高度医療機器を自在に使いこなす各科専門医とが車の両輪のごとく量的・質的にバランスをとって実践していくべきであろう。そのためには専門医はさておいて,プライマリ・ケア医にあっては,最低限必要な3領域の知の枠組み習得が不可欠となる。それは,患者と疾患に対する知識・技能,家族・地域に対する知識・技能であるprimary care medicine,医療に対して科学的に取り組むevidence-based medicine,患者の背景や生き様を重要視するnarrative-based medicineである。これらを統合して用いることにより「患者中心の医療」が展開されると信じている。
 このような視点で医療を展開するためには,患者との間に良好な人間関係を構築することが不可欠であり,そのためにはしっかりとした面接技法の習得が大きくものを言う。
 そこで,外来や病棟で患者の訴えにどう対応してよいのかわからず,苦慮している研修医,プライマリ・ケア医にこの本を勧めたい。その理由として,以下の4つの点をあげよう。
 まず,第1には,これまでの疾患指向型医療モデルの限界と新たなパラダイムに対応した医学モデルが記されている。Thomas KuhnやI. R. McWhinney,George Engel,William Osler,Norman Cousinsなどの著名な科学哲学者,家庭医,内科医,精神科医,ジャーナリストの思想に触れることができるだけでも一読の価値があろう。
 第2に,プライマリ・ケア医と精神科医の治療へのアプローチの違いを認識でき,これまで持っていた精神科への依存的態度が払拭できる点である。単に専門医に紹介すればよいとするようなこれまでの考えと決別し,逆に精神科に紹介するよりプライマリ・ケア医が診たほうがよいとする根拠が列挙されている。
 第3に,読了直後から臨床に応用できる方法論が身につく点である。覚えるのも簡単で,BATHE法といい,Background(背景),Affect(感情),Trouble(悩み),Handle(処理),Empathy(共感)の5つの構造化した質問をすればよいのである。
 第4に,診療の流れや治療の構造が理解できるようになる点である。読み進んでいくと診療の流れ・治療の構造が理解できるようになる。まずBATHE法を用いて心理的介入を組み入れ,患者を支持しながら複雑な問題に対応していく方法が,また,急性疾患と慢性疾患とでは用いるモデルが異なることにも触れながら,要所要所に事例をあげ,具体的な対応が記載されている。

◆面接技法を身につけた医師に生まれ変わる

 上級医師には特殊な患者の診察法として,難しい患者(difficult patients)の取り扱い方が記載されており,参考になる。例えば,不安患者の治療としてAWARE法を紹介している。最後に,バーンアウトしないための「医師自身が生き延びるための12のルール」も真面目一辺倒の医師には参考になることであろう。
 タイトルは難しそうであるが,気楽に手にとってみてほしい本である。そうすれば,3時間後にあなたはすばらしい面接技法の知識を身につけた医師に生まれ変わっているはずである。
患者を全人的に診るためのアートを解説
書評者: 渡辺 武 (日本プライマリ・ケア学会長)
◆取り入れられ始めた“こころ”へのアプローチ

 このたびようやく文部科学省は,医学生の研修項目に患者との面接技法をはじめとする“こころ”へのアプローチを取り入れました。プライマリ・ケアに対する認識は,欧米諸国に比しはるかに遅れているわが国ですが,将来医師国家試験にもOSCE(オスキー)などを導入し,面接技能を評価する仕組みが検討されているとのことです。一方で総合診療部を開設した大学は,30を超えました。
 医療は,患者のためにあります。当然すぎることです。患者=クライアントのニーズに応えていない科学万能主義では,医師のニーズを満足させているにすぎません。100近くの学会がそれぞれの成果を競っていても,病める者には空虚に映るだけです。
 インフォームド・コンセントにしても,カルテ公開にしても,専門家相手では蟷螂の斧ですが,実地医家にとっては傍観することなく,無駄に終わらせてはなりません。
 本書にも「学問の世界では,生物医学,行動科学,社会科学の接点で苦労しながら仕事を続けるプライマリ・ケア医の役割は,ほとんど顧みられなかった。患者と疾患を分離して考える還元主義的なアプローチが,医学教育と医療供給体制の基本であった。中心にとらえられるのはあくまで疾患であり,医師は主として病因論的,治療的観点から疾患を類別することに力を注ぐ。そこには全人的なデータや心理学的,社会学的属性についてのデータが抜け落ちている。医療の本質は必然的に“アート”でなければならず,科学の及ぶ範囲を超えるものである」とあります。
 では,どうするかです。
 本書はこれに対して,生物心理社会モデルに基づいた洞察方法を学習して,コミュニケーション技法を確立し,患者の治癒力を促進すべきと説いています。至言であり,プライマリ・ケアの原点でもあります。
 そして,15分サイコセラピーを通じて社会的支援を与え,患者の健康機能を強化し維持させる心理的介入法の概要を解説しています。

◆プライマリ・ケア医にとって必須の治療法

 患者への共感,受容,そして信頼を基本にしたこの治療法は,プライマリ・ケア医にとって必須なものとなりましょう。
 精神分析,精神科の治療ではありません。「最も単純明快にサイコセラピーを定義するとすれば,患者の世界地図を修理して,自分の望むものを手に入れることができるように方向づける過程である」とあります。
 自治医大教授の時,全人的医療の教育に努められた玉田太朗先生(1992年,第15回日本プライマリ・ケア学会会頭)の監訳に敬意を表します。
 医療不信の続く中でやり甲斐ある医療を求める真摯な実地医家にとっては,大変参考となる好著として広く推薦いたします。
短時間の外来でしっかり患者さんに対応するために
書評者: 前沢 政次 (北大教授・附属病院総合診療部)
◆時宜を得た名著の翻訳

 サイコセラピーを必要とする人口が増加しているのは,先進国共通の問題である。この課題に精神科医のみでは対応することが困難で,プライマリ・ケアを担当する医師にもその役割が期待されている。しかしながら,抗不安薬や抗うつ薬の開発で,薬剤による治療は一般の医師に活用されるようになったものの,サイコセラピーは用いられているとは言えない現状にある。そのような状況の中,この度,名著『15分間の問診技法-日常生活に活かすサイコセラピー』が,玉田名誉教授らのご尽力により,日本語に訳されたのは時宜を得たことである。
 この本は,私が10数年前,プライマリ・ケア教育技法の学習に何度か米国を訪ねた際に推薦された著作の1つであった。初版は1986年の発刊である。今回第2版(1993年)を優れた日本語訳で読了でき,改めて本書の意義を認識することができた。

◆すぐに臨床で役に立つサイコセラピーの「How to 本」

 本書は,外来で1人当たりの患者に短時間しか割けない一般医を対象に,サイコセラピーの具体的方法を説き明かしたものであり,あえてHow to本であることを明言する。第1章はヘルスケアシステムの新旧を比較し,なぜ今新しいパラダイムが必要かを経済的考察も加えて述べている。第2章は治療法の理論的基礎を,第3章は医師の資質について論述している。患者が変化を起こす要素,他のセラピーとの比較,治療の構造化に関する方法について第4章から6章までに述べ,残りの章は具体的な例と将来の役割について記述している。
 すぐ役立ちそうないくつかの方法を取り上げてみたい。
 「大変でしょうね」「辛かったでしょうね」などの言葉で患者は保証された気持ちがもてる(62頁)。「決めつけ」や「ラベルを貼る」ことをしない(102頁)。問題を解決するのは患者自身である(109頁)。患者の強さに目を向ける(112頁)。宿題を出す,自立を促す(120頁)。身体症状や受診の意味を患者の生活全般の流れでみて,背景,感情,悩み,処理,共感(BATHA法)を活用する(129頁)。小さな勝利をめざす(138頁)。診療所スタッフの訓練と気遣い(220頁)。医師が生き延びるための12のルール(巻末)まであり,とても書ききれない。
 最近,心療内科の先生方と話し合う機会が増えたが,日本での今後の課題は「認知行動療法」の活用であると主張される方が多い。本書はその課題に十分応えるものであり,玉田先生父子,佐々木将人先生のご労苦に心からの賛辞を送りたい。
日常診療にサイコセラピーを組み入れるための方法を解説
書評者: 吾郷 晋浩 (日本心身医学会理事長)
 本書は,Marian R. Stuart Ph. D.とJoseph A. Lieberman III, M. D., M. P. H.の共著による『The Fifteen Minute Hour:Applied Psychotherapy for the Primary Care Physician』(Praeger Publishers)を,日本女性心身医学会の理事長でもある玉田太朗自治医科大学名誉教授と同大学地域医療学教室のスタッフによって翻訳されたものである。

◆日常診療に必要なサイコセラピー

 本書の目的は,「日常診療にサイコセラピーを組み入れるとより多くの問題が解決され,治療成績も上がり,診療が楽しくなってくることを臨床医に納得してもらうことである」と著者らは序の中で述べている。これは,紀元前に,プラトンが「こころの面を忘れて,からだの病気を治せるものではなく,人間全体をみていないために治す術がわからない病気が多い。人間のこころをからだから切り離してしまったことは,今日の医学の大きな誤りである」とアテネの医師たちに発したと言われる警告に立ち返って医療を行なおうとするものである。
 わが国でも,このような医療の必要性にいち早く気づかれ,日本心身医学会(設立当初は日本精神身体医学会と呼称)の設立に尽力された故池見酉次郎名誉理事長が,かつて『精神身体医学の理論と実際』の総論(医学書院,1962年)の中で,精神身体医学(心身医学)とは,「正しい意味の心理学を取り入れることによって,医学の再調整をはかることを目的とする医学」であると定義されているが,本書はこれを実践する際のわかりやすい解説書ということもできる。
 また著者らは,G. L. Engel(1977年)が疾病の発症と経過に影響を与えているすべての因子を明らかにして診療を進めるためには,従来のbio-medical modelでは限界があるとして提唱したbio-psycho-social modelを支持し,「プライマリ・ケア医を訪れる患者の多くは,単に器質的な疾患の改善のみではなく,生活上のストレスや心の不調,社会的な孤独からの解放,あるいはそのための情報を求めているものであり,医師は受診の隠された理由まで読み取れる,人間性に対する明敏な学徒でなければならない」,「現在の生活状況の脈絡を抜きにして,症状についての情報のみを収集しても,ほとんど意味をなさない」と言い切り,プライマリ・ケア医はこれらのことに配慮した診療を可能とする基盤を備えているとして,患者の心理社会的な脈絡を明らかにするための簡単なプロトコールを提案している。

◆より効果的な心身医療を行なうための多くのヒント

 本書は,訳者らがその序の中で述べているように,受付係や看護師に対する教育やねぎらいの言葉にまで触れながら,良好な医師-患者関係を確立・維持して患者中心の医療を進めていくための方法について,初診から再診,終結に至るまで順を追って具体例をあげながら“Cook book”的に懇切丁ねいな解説がなされている。
 すでに日常診療の中で心身医療を実践しておられる先生方であっても,特に,受診患者が多く1人ひとりの患者に十分な診療時間を割くことができず,理想的な診療が行なえないことを悩んでおられる方にとっては,限られた時間内に,より効果的な心身医療を行なうための多くのヒントが得られる訳書と言えるであろう。ぜひご一読をお勧めしたい。

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