訳者まえがき
藤崎 郁(訳者を代表して)
本書は,Lynda Juall Carpenito‐Moyet著,Understanding the Nursing Process : Concept Mapping and Care Planning for Students(2007年)の翻訳本である.刊行されたばかりの本書を同じ年に皆様に紹介することができ,訳者としてこんなにうれしいことはない.刷り上がる前の段階で原書を見いだし,訳本出版の許可を取り付けてきてくださった医学書院の石井伸和氏に敬意を表したい.石井氏はまた,完成度の高い翻訳案を準備し,われわれ訳者の仕事を大いに助けてくれた.
著者のカルペニートは,『看護診断ハンドブック』や『カルペニート 看護診断マニュアル』の著者として,私たち日本人にもおなじみの米国人看護コンサルタントである.ご存知のように『看護診断ハンドブック』の日本版は,1991年の初版から第7版へと版を重ねる超ロングセラーである.一方の『看護診断マニュアル』の日本版も,1995年の初版以来いまや第3版が出版されている.
カルペニートの著作の最大の特長は,すぐに役に立つ実用の書だという点にある.毎日の臨床実践のなかで,患者の状態をアセスメントしたり,計画を立てたり,ケアを評価したり,という現実の看護場面でそのまま活用できる内容である.今回もその点は同様なのであるが,著者もまえがきで述べているように,本書は看護学生のための入門用テキストとして編まれた.看護学生の臨床実践といえば,真っ先に思い浮かぶのが「臨地実習」である.本書は,その際にも大いに活用できる実践向けのテキストである.
本書は,大きく3部から構成されている.第I部は看護過程と看護診断についての解説,第II部は代表的な看護診断の解説,第III部は代表的な共同問題の解説からなる.巻末に付録として入院時アセスメントデータベースと内科・外科用の標準看護計画が収められている.翻訳は,第I部と第III部を藤崎が,第II部を山勢が主に担当した.
一方,カルペニートは,付録Aのデータベースの枠組みとしてゴードン博士の「11の機能的健康パターン」を採用しており,第I部の解説のなかでもそれを用いている.そのため,原書ではABC順となっている第II部の看護診断は,ゴードン博士の枠組みで配置し直した.第III部の共同問題の並べ方は,もともと(1)心血管疾患,(2)呼吸器疾患,(3)代謝・免疫疾患,(4)腎・泌尿器疾患,(5)神経疾患,(6)消化器疾患,(7)筋・骨格疾患のように,疾患別に配置されていたものをそのまま採用した.
第II部と第III部では,看護診断と共同問題について,問題ラベルごとに,その定義,診断指標,関連/寄与因子,目標,介入,概念の解説,病態生理学的な理解,着目すべき情報の種類とその収集方法などが丁寧に説明されている.このように看護診断と共同問題の両方に対する解説と看護計画の実際が併記されたテキストは,多くの臨床ナースにとっても有用であろう.また,入院時の情報収集用紙としてそのまま活用できるデータベースや,成人内科・外科患者の一般的な標準看護計画なども参考となるに違いない.
そのほか,全編にわたって細やかな「ワンポイント・アドバイス」が書き込まれている点や,看護過程のステップを細かく分節して丹念に説明している点,豊富な練習問題が随所にある点など,実践的な訓練を可能にする工夫がなされている.概念マッピングという考え方は,とくにユニークである.日本で絶大なる人気を誇る壮大な関連図とは違い,一度に検討する事象の範囲を広げすぎず,二者間の事象の関係性に限定している点がとても現実的である.こういった範囲のなかで,患者一人ひとりの個別状況を簡潔な言葉で具体的に表現し,一次元の因果図式としてそれを検討してみるという試みは,現象の整理と理解を助けるだろう.
学生たちに限定せず,第一線の現場に立つ臨床ナースの皆さんにも,より良いケアを提供するための基盤として本書をどしどし活用していただければ幸いである.