IPMN/MCNを知る最良の書
書評者:山雄 健次(愛知県がんセンター中央病院・消化器内科部長)
IPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms)は,1982年にわが国の大橋,高木らが世界に先駆けて提唱した“粘液産生膵癌”(後に粘液産生膵腫瘍)とほぼ同一の疾患概念である。一方,MCN(Mucinous Cystic Neoplasms)は,従来から膵...
IPMN/MCNを知る最良の書
書評者:山雄 健次(愛知県がんセンター中央病院・消化器内科部長)
IPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms)は,1982年にわが国の大橋,高木らが世界に先駆けて提唱した“粘液産生膵癌”(後に粘液産生膵腫瘍)とほぼ同一の疾患概念である。一方,MCN(Mucinous Cystic Neoplasms)は,従来から膵嚢胞腺腫・腺癌と呼ばれていたものであり,両者の疾患概念は一時その異同をめぐって混乱をきたしていたが,現在では異なった疾患と理解されている。これらはこれまで非常に稀なものとされてきたが,最近では日常臨床において少なからず遭遇し,その取り扱いの理解は研究者,消化器内科医・消化器外科医のみならず一般臨床医や研修医にとっても重要となっている。
さて,この本は“International Consensus Guidelines for Management of Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms and Mucinous Cystic Neoplasms of the Pancreas”として,2006年の春にPancreatology誌上に報告された論文の日本語版解説書である。その論文があっという間に,わかりやすい日本語の解説文に多数の新たな写真が加えられた一冊のすばらしい本に化けてしまった。さすが田中雅夫教授,見事と言う他はない。
9名からなる国際診療ガイドラインワーキングチームの一員にさせていただいた私の目に焼きついているのは,ガイドライン作成過程での田中教授の凄まじい働きぶりと,要領を得た纏めぶりである。中でも最も困難であった,疾患概念の異なる諸外国との症例や画像診断法の相違からくる侃々諤々の議論のすれ違いを,田中教授はリーダーとして纏め役に徹し,矢継ぎ早にワーキングチームのメンバーにメール攻勢をかけて実に見事に海外と国内の意見調整をされ,短時間で完成にまで持っていかれたのであった。本書の発刊に到る一連のこれらのお仕事は,正に田中教授なくしてはなしえなかったものであり,ただただ先生に心から感謝申し上げたいと思う。
さて本書の構成は,本ガイドラインの日本語解説文とPancreatologyに掲載されたオリジナル論文からなっている。日本語の解説文には,原文にはない本ガイドラインの作成の経緯や作業過程も詳しく述べられており特に興味深い。さらにこの本の根幹である,(1) 定義と分類,(2) 術前診断,(3) 切除術の適応,(4) 切除術式,(5) 病理組織,(6) 追跡経過観察法,の大きな6項目とその中をさらに細分化した18個の設問と回答が日本語訳とともに新たな写真などを加えて紹介されている。設問はIPMN/MCNの日常臨床上での具体的な疑問から作成されたもので,回答はIPMN/MCNに対する数多くの文献(それでも作成過程で随分削られたが)と国内外の専門家の意見からなる。読み方としては冒頭から通読されるのもいいが,表や写真,とくに日本語版独自の綺麗な写真を最初に見て疾患概念や現時点での問題点をまず理解し,その後で自分の疑問点に対する回答を拾い読みする形で読まれてもいいと思う。
本書はIPMN/MCNに対する現時点での最高のガイドラインであり,その解説書である。IPMN/MCNの病態を理解するにはこの本をおいてないと言える。また,“著者からのメッセージ”にあるように,紹介されている多くの参考文献により,本書はIPMN/MCNに関する研究や,論文を発表する際の座右の書としてなくてはならないものとなっていると信ずる。