脈絡膜循環と眼底疾患

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糖尿病網膜症を代表とする眼底疾患は,日常検査にインドシアニングリーン蛍光眼底造影法が導入されたことで,この10年さらに解明されてきた。本書は,総論で網膜と脈絡膜循環の関連を示すとともに,各種眼底疾患を豊富な写真で解説。1987年の野寄・清水『レーザー眼治療』から17年ぶりの,華麗な眼底アトラス。
監修 清水 弘一
編集 米谷 新 / 森 圭介
発行 2004年11月判型:A4変頁:204
ISBN 978-4-260-13779-9
定価 22,000円 (本体20,000円+税)

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[総論]
1. 脈絡膜の解剖と生理
2. ICG蛍光眼底造影-読影の基礎
3. 脈絡膜血管構築とICG流入パターン
4. ICG造影所見での脈絡膜の加齢変化
5. 脈絡膜血管の可塑性
6. 光る血管-ICGと低比重リポ蛋白
[各論]
7. 脈絡膜新生血管
8. 外血液網膜柵異常と脈絡膜循環
 -中心性漿液性網脈絡膜症とその類縁疾患
9. ぶどう膜の炎症疾患
10. 遺伝性網膜変性
11. 脈絡膜腫瘍
12. 脈なし病
13. 放射線網(脈絡)膜症
14. 網膜細動脈瘤
15. 糖尿病網膜症と脈絡膜症
索引

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今後,どの眼科医にも求められるであろうICGを用いた診断技術の向上に役立つ
書評者: 石橋 達朗 (九大教授・眼科)
◆眼科のあらゆる疾患に関連深い脈絡膜循環

 脈絡膜。それは眼球の後方に位置するが故に,その生体内での循環動態や血管構築の詳細を知ることは困難であった。近年数々の診断機器の改良,すなわち造影剤を用いた検査により,その実態が解明されてきた。しかしながらフルオレセイン(FAG)蛍光眼底造影法では脈絡膜循環動態は捉えにくい。最もその血流動態の解明に寄与したのはインドシアニングリーン(ICG)蛍光眼底造影である。そしてさまざまな疾患の病態は脈絡膜の循環に関与していることが明らかになってきた。本著はICG蛍光装置の改良に携わった編者の10年間の経験の集大成とも言える多くのICG造影写真を掲載し,その所見をていねいに述べている。

 平成16年から厚生労働省に認可され,開始された光線力学療法は確実に多くの施設に普及している。施行に当たってはFAG造影検査の所見が中心となるが,ICG造影検査所見をも加味した正確な診断と適応の判断は必須である。本著でそれを再確認し,正確な治療適応の判断に役立てたい。

 本著の編者によると「肩がこりそうなくらい大まじめな」書ということであるが,各疾患に対する解説には細やかな神経をもって枝葉末節にわたるまで手抜きを許さないという姿勢が随所から伝わってくる。脈絡膜循環に関するすべての分野を網羅しており,今後はどのような疾患を専門にする眼科医にも求められるであろうICGを用いた診断技術の向上に役立つと考えられる。ぜひ手元において,事あるごとに確認する書としたい。

◆詳しい疾患説明と美しい造影写真

 本著は総論,各論から構成されている。

 総論では編者による華麗ともいえる血管鋳型標本を配し,脈絡膜の血管構築(解剖学的特徴,生理学的特徴)について細かく説明している。それをはじまりとして,その美しい脈絡膜血管にいかにしてICGが流入していくか,加齢による変化,光る血管などについてページいっぱいのパノラマ造影写真を用いることによって,わかりやすく解説されている。

 各論ではICGの臨床応用が活発化するきっかけとなった疾患,と編者が記している加齢黄斑変性を筆頭に,微妙にオーバーラップした網膜血管腫様増殖〔Rap〕,ポリープ状脈絡膜血管症〔PCV〕などとの鑑別についても言及している。また,ぶどう膜炎,遺伝性網膜変性,糖尿病網膜症などの疾患について,単に造影写真の所見の説明にとどまらず,その病態に関する疑問点や発症のメカニズムについても,さまざまな過去の報告を参照し,自験例との比較を行い細かく検討している。そういう意味でも,新しく眼科医師としてトレーニングを積む者だけでなく,すでに専門医となった医師にも十分読み応えがある内容である。

眼科医ならば手元に置いておきたいICG解釈を丁寧に解説した一冊
書評者: 林 一彦 (はやし眼科院長)
 眼科関連の雑誌を開くと必ずや目に飛び込んでくるのがICG(インドシアニングリーン)赤外蛍光写真である。ICGって何なの? 蛍光造影があるのになぜICG赤外蛍光が必要なの? どのように行い,どのように解釈するの? これらの質問に懇切丁寧に答えてくれるのが本書である。

 今から30数年前に成書“Fluorescein microangiography of the ocular fundus”(1973)に載せられていた微細な網膜毛細血管の蛍光造影写真に目を奪われた。その数年後には成書Structure of the ocular vessels(1978)が出版されたが,血管鋳型法より精緻に描出された三次元的網脈絡膜血管像に深く感銘を受けた。眼底学に衝撃を与えたこれらの名著は,いずれも清水弘一先生によるものである。

 本書は,清水先生が監修を担い清水門下にあった米谷新先生が編者を務めており,眼底のプロが今まで培った高度な造影技術と豊富な知識を惜しげもなく総動員して書かれた本である。

 およそ200頁のうち1章から6章までの60頁は総論で,7章から15章までが各論に割り当てられている。第1章の「脈絡膜の解剖と生理」は,一見不規則な脈絡膜血管の特徴をわかりやすく説明している。次章では,網膜色素上皮があるのになぜ脈絡膜造影が可能なのか,ICG赤外蛍光の特徴が簡潔に述べられている。撮影装置の違いによる読影時の注意点などにも触れており,これからICG赤外蛍光をはじめようという初心者にはありがたい。

 第3章は,お家芸のパノラマ撮影と高速撮影が盛りだくさんである。パノラマ写真には,中心窩から周辺部に至る脈絡膜血管網の分布パターンが見事に造影されている。きれいな写真を見ながら楽しく学べること請け合いである。

 第4章では,脈絡膜の加齢変化を正面からとり上げている。病的変化に脈絡膜がどのように反応するかを論じているのが第5章で,少しミステリアスな「光る血管」の第6章もワクワクしながら通読できる。

 各論の目玉は第7章の「脈絡膜新生血管」で57頁を割いている。古典的な加齢黄斑変性にはじまりポリープ状脈絡膜血管症と続き,最近注目されている網膜血管腫様増殖(retinal angiomatous proliferation)についても触れ,強度近視,網膜色素線条症と続く。

 第8章以降には主な脈絡膜疾患の典型的なICGがほとんど網羅されている。これらのすべては紹介できないが,「こんな病気のICGはどうなのだろう」と困ったとき,頼りになる助っ人として気の利いた助言をしてくれるに違いない。

 もう1つ見逃せないのがtea time。全部で14編収録されているが,肩の凝らない軽快な文章で,なるほどそうだったのかと思わずうなずいてしまうような逸話がぎっしり詰まっている。これだけを拾い読みをしても十分に元をとった気分になる。

 ICG赤外蛍光は撮影手技が若干複雑なため,誰もが気軽に行える検査ではない。しかし,これにより今まで未知の世界に埋もれていた情報が手に入るようになったため,眼底疾患の解釈を飛躍的に発展させる可能性を秘めている。本書は,通読によし,拾い読みも可,写真集のつもりで暇に任せて眺めてみるのも悪くない。眼科医ならばぜひとも手元に揃えておきたいイチ押しの本である。

ICGは,加齢黄斑変性以外にも多くの網脈絡膜疾患の解釈に貴重な情報を与える
書評者: 三宅 養三 (名古屋大教授・眼科)
 埼玉医大眼科の米谷 新教授のライフワークが1冊の本に見事にまとめられた。蛍光眼底造影の進歩は糖尿病網膜症の病態解釈とその的確な治療に大きな貢献をしたのに対して,インドシアニングリーン(ICG)蛍光造影は脈絡膜血行動態が把握でき,加齢黄斑変性の診断と治療に欠かせない方法に発展した。米谷教室は以前より脈絡膜血管,ICGに関してその基礎と臨床の両面から多くの新しい知見を報告してこられたが,年間600例近いICGの膨大な臨床例に米谷先生自身が全部目を通してこられたとのこと,まさに臨床家の鏡である。当然米谷先生の頭のなかにはICG解釈の自分の世界も形成され,それを後世に残したいという願望は手に取るようにわかる気がする。その結果,少々偏向とも思えるマニアックな解釈があるかもしれないと序文に述べておられるが,それが本当の面白い本ではなかろうか。現在いたるところに分担執筆で書かれた書物が氾濫しているが,編集者の責任と独断で一本の流れを感じさせる本は皆無といってよい。まさに大部分がひとのふんどしで相撲をとっているたぐいの本ばかりである。

 久しぶりに著者の哲学がにじむ本に巡り合えた気がする。脈絡膜の解剖と生理からはじまり,ICGの読影の基礎,脈絡膜血管構築とICG流入パターン,脈絡膜血管の可塑性等の臨床疾患の解釈に必要な内容が米谷教室のデータをもとにわかりやすく説明され,ついで各論では網脈絡膜疾患が網羅されている。文中,しばしば著者の意見が書かれており,これがまた大変興味深い。加齢黄斑変性のみならず,ICGは多くの網脈絡膜疾患の解釈に貴重な情報を提供することが実によく読み取れる。

 次の3つの理由により一読に値する本として,広く眼科医にご推薦申し上げる。

(1)脈絡膜血行の特殊性が理解できる,(2)ICGの特性,読影がマスターできる,(3)本はこのように書くものという著者の哲学が学べる。

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