健康格差社会
何が心と健康を蝕むのか

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心と社会と健康はつながっている。近年、そんなエビデンスが蓄積されている。本書では、わが国でも広がる「健康格差」に注目。ゆき過ぎた経済格差社会は「負け組」だけでなく「勝ち組」の健康までも悪化させること、また人間同士の温かなつながりや信頼、安心感が健康を促進させる事実を、社会疫学の理論と実証データで示した。心の病いが増加する現代において、健康社会実現のヒントに満ちた1冊。
近藤 克則
発行 2005年09月判型:A5頁:208
ISBN 978-4-260-00143-4
定価 2,750円 (本体2,500円+税)
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  • 目次
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I 社会と心と身体と
 1. 健康格差社会―何が心と健康を蝕むのか
 2. 生活習慣病対策と介護予防はなぜ難しい?
II 社会・人間関係と健康
 3. 生物・医学モデルを超えて―パラダイムとは何か
 4. 上位層は健康で,底辺層は不健康!?―社会経済状態と健康
 5. なぜ結婚や友達は健康によいのか―人間関係と健康
III 社会と健康をつなぐもの―心の大切さ
 6. なぜ学歴・職業・所得(社会経済的因子)が健康に影響するのか
 7. うつは心の風邪か―抑うつの重要性
 8. 「病は気から」はどこまで実証されているのか
  ―主観的健康感・心理・認知の重要性
 9. ポジティブな「生き抜く力」は命を救う―ストレス対処能力
IV 社会のありようと健康
 10. 人はまわりと比べて生きている―相対所得仮説
 11. コミュニティの力,再発見!―ソーシャル・キャピタル
 12. 介入すべきは個人か社会か―ハイリスク・ストラテジーの限界
V 社会と健康をめぐる課題
 13. 基礎科学としての社会疫学の課題
 14. 「健康によい社会政策」を考えよう
 15. 終章 社会疫学―社会のための科学・21世紀のための科学
初出一覧
あとがき
索引

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“健康状態の不平等”に警鐘を鳴らす本
書評者: 広井 良典 (千葉大教授・法経学部総合政策学科)
 ついに出るべき本が出た,というのが率直な印象である。

 90年代前後から日本においてさまざまな面での経済格差が拡大し,日本は先進諸国の中で相対的に平等な社会とはすでに言えなくなっている,という「格差」論が(その当否を含めて)現在活発に論じられている。本書は,タイトルにも示されているように,そうした格差が人々の健康面にまで及びつつあることを多様なデータを踏まえて論証し,今後の政策のあり方を提言するものとなっている。

 著者が本書の中で示している例は,たとえば「低所得層ほどうつ状態の者の割合が高い」「低所得層ほど要介護高齢者の割合が高い」といった調査研究結果であり,それ自体ある意味でショッキングな内容であるとともに,これまで「国民皆保険」体制のもとで,医療へのアクセスの平等,及び結果としての健康状態の平等が保たれてきたという医療政策の前提が,根底から崩れつつあることが提示されている。

 しかしながら,この点をむしろ私は強調しておきたいのだが,この本は単に「いわゆる格差問題が医療ないし健康の領域にも及んでいる」ということのみを論じているのではない。むしろ,(平等問題と並んで)著者の根底にある関心は,そもそも人の健康のあり方や病気の発生が,個体内部の物理的ないし生物学的なプロセスに還元されるものではなく,社会やコミュニティのあり方と深く連関しているという認識ないし主張にある。自ずとこうした関心は,そもそも「病気とは何か」「治療とは何か」「科学とは何か」等々といった,医学や科学のあり方をめぐる根底的な問いへとつながり,また他方で,「心」の意味,コミュニティのあり方を示す「ソーシャル・キャピタル」論と健康の関係,社会保障や雇用を含む「健康によい社会政策」等々といった広範な領域へと大きく展開する。

 私は本書のベースになった『公衆衛生』誌での連載を当時から拝読して強い感銘を受け,所属する大学院の演習でのテキストに使ったりもした。冒頭に記したように,この本はまさにいま求められている本であり,医学や健康,そして社会というものの意味を根源から問いなおす内容となっている。本書にあえて注文をつけるとすれば,『健康格差社会』というタイトルは,読者に一定のアピールをもつ半面,上記のように本書の全体像を必ずしもすべて表現していないのではないかと評者自身は感じたという点がある。また,このような先駆的かつ学問分野横断的な試みは,既存の学問領域その他からはさまざまな批判をも受けることになるかもしれない。しかしそれはひとえにこの本の内容の革新性によるものであり,本書が今後「医学・科学の意味」,「健康・医療と社会との関わり」,「健康格差の現状と今後の政策」等といったテーマに関心を持つ人々にとって必読書となることは間違いないと思われる。

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