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不整脈治療デバイスのリード・マネジメント

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リード抜去術の実際、長持ちするリードの選び方、感染予防法に加え、世界のガイドラインや大規模研究に基づく最新情報の提供など、臨床で必要となる実践的な知識・知見を漏れなく収載した国内初のテキストブック。QRコードによる動画配信で手術の実際を確認できるほか、研修会などで話題となりやすいテーマを抽出してまとめた「Tips & Tricks」のコーナーも充実。不整脈治療に携わるすべての医師必携の一冊!
編集 庄田 守男
発行 2020年06月判型:B5頁:288
ISBN 978-4-260-04129-4
定価 9,350円 (本体8,500円+税)

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 2008年7月30日,日本で経皮的リード抜去用のエキシマレーザシースが初めて薬事承認された.それ以前は,世界中で使用されている経皮的リード抜去手術用の医療機器が日本では認可されず,ペースメーカ感染に陥った重症患者に対して開心術を強いる状況が続いていた.当時,ペースメーカ診療に携わっていた多くの医師たちには,この重要な医療を何とかして日本に導入したいという強い思いがあった.当時の私の上司であった笠貫宏先生(元東京女子医科大学循環器内科・教授)も同じ気持ちを人一倍強く感じ,その薫陶を受けた私はリード抜去用システムを日本に早期導入するというミッションに駆り立てられた.
 当時,世界で使用されていた経皮的リード抜去ツールは,Byrdメカニカルシース(Cook Medical社),第2世代レーザシースSLSII(Spectranetics社),第1世代Evolution(Cook Medical社)であった.私は欧米に渡航し,Pisa大学のBongiorni先生,Cleveland clinicのWilkoff先生,Miami大学のCarrillo先生,Harvard大学のEpstein先生の手術室に行き,それぞれのデバイスが実際に使用されている現場を見学した.特にBongiorni先生には3日間の滞在中にリード抜去症例を6例準備していただき,抜去手術の直接指導を受けたことは忘れることができない思い出である.
 ちょうどこの時期に,日本のある会社がリード抜去用レーザシース導入に前向きで,日本での薬事承認取得への活動がスタートした.日本不整脈学会(現日本不整脈心電学会)のK先生,N先生,M先生に叱咤激励され,日本心臓ペースメーカー友の会副会長のHさんは患者代表として厚労省副大臣への陳情にも同行していただいた.ところが,当時はdevice gap,device lagが医療分野全体の問題であり,欧米では普通に使われている医療機器が日本では使用不可(device gap)または認可されるのに時間がかかる(device lag)状況が蔓延していた.この状況を打破しなければならないという動きは厚労省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)などの行政側にもあり,薬事承認への旅は順調に最終段階を迎えていた.しかし好事魔多し,2006年秋のPMDA最終ヒアリングを前にして私に劇症肝炎が発症,連日透析治療を受ける羽目に陥ってしまい,この重要な会議に出席できなくなってしまった.この大ピンチに小坂井嘉夫先生(元国立循環器病研究センター),Epstein先生が東京まで駆け付けてお見舞いをいただき,代理として行政との交渉を乗り切ってくださった.その後,厚生労働省との医療機器価格,手術手技料などの交渉に少し時間を要したが,2008年夏に経皮的リード抜去医療を日本に導入することができたという件である.
 それから10年あまりが経過し,日本では約50施設で年間500例以上の経皮的リード抜去手術が行われるようになった.また最近では「リード・マネジメント」という言葉が浸透し,進化しつつある心臓植込み型電気的デバイス(Cardiac Implantable Electric Device:CIED)におけるリードの選択・植込み手技・管理・トラブルシューティングが,重要な医療であることが認識されている.この『不整脈治療デバイスのリード・マネジメント』という新しいテキストブックが上梓されるのは時代のニーズであり,必然である.
 この著作は,私がまとめ役をしている日本不整脈心電学会植込み型デバイス委員会リード関連検討部会とリード・マネジメント研究会のメンバーを中心に分担執筆した.執筆者のほとんどが,臨床現場で実際にデバイス診療をしている現役バリバリの医師である.忙しい時間の合間を縫いながら,短期間で原稿をまとめていただいたことにこの場を借りて感謝したい.とくに形成外科医の森島容子先生は,その素晴らしい教育講演を出版直前に私が聴講し,無理をお願いして1か月でご脱稿いただいた.なお,今回の初版にあたり,構成は試行錯誤を繰り返しながら各先生に執筆をお願いした.その結果,内容が若干重複する部分があったが,各先生の臨床家としての哲学,考え方が伝わる部分は可能な限り削除せずに残したので,読者にはその旨を了承していただきたい.
 経皮的リード抜去手術の必要性を強く思い,薬事承認取得のために行動し,認可後は経皮的リード抜去術者として邁進しているうちに,早20年が経過した.この間,多くの先輩・同僚・若手医師の先生方だけではなく,患者さんたち,行政の方々,内外の関連会社の職員らの協力と応援をいただいた.このテキストブックが「集大成」ではなく「はじめの一歩」として新しいリード・マネジメント医療が日本に浸透することを願う.

 2020年3月
 東京女子医科大学循環器内科
 信州大学医学部循環器内科
 庄田守男

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第1章 リードマネジメントとは

第2章 デバイス植込みのリードマネジメント
 1 リードの構造
 2 デバイスの構造
 3 リードとデバイスの選択:ペースメーカ
 4 リードとデバイスの選択:植込み型除細動器
 5 リードとデバイスの選択:心臓再同期療法
 6 デバイス植込み時の感染予防:薬物治療
 7 デバイス植込み時の感染予防:手術手技
 8 デバイス新規植込み手技の要点

第3章 デバイス交換時のリードマネジメント
 1 デバイス交換後の感染症
 2 デバイス交換時の感染予防
 3 リード交換
 4 デバイス交換手技の要点

第4章 デバイスアップグレード時のリードマネジメント
 1 デバイスアップグレードの適応とデバイス選択
 2 デバイスアップグレード後の感染症
 3 デバイスアップグレード時のリード抜去

第5章 リードリコール
 1 リードリコールの歴史
 2 リードの寿命
 3 リードリコールへの対策

第6章 デバイス感染症
 1 デバイス感染症の微生物学
 2 デバイス感染症の画像診断
 3 デバイス手術時の予防的抗菌治療
 4 デバイス感染症の抗菌治療
 5 デバイス再植込み
 6 細菌性疣贅への対応
 7 心筋リード感染症

第7章 リード抜去術
 1 リード抜去術の歴史
 2 リード抜去術の適応
 3 リード抜去術の術者施設要件
 4 リード抜去術の術前検査
 5 メカニカルダイレーターシースによるリード抜去術
 6 レーザリード抜去術
 7 その他のパワードシースによるリード抜去術
 8 スネアリング法
 9 外科的リード抜去術
 10 リード抜去技術を用いた異物除去

Tips & Tricks
 ① SelectSecure リードの抜去
 ② リードレスペースメーカの抜去
 ③ 左室リード抜去
 ④ StarFix リードの抜去
 ⑤ 皮下植込み型除細動器(S-ICD)感染症
 ⑥ 小児デバイス治療の考え方
 ⑦ リードマネジメントにおける遠隔モニタリングの役割
 ⑧ Riata リードの抜去
 ⑨ リード抜去手術時の抗凝固抗血小板薬
 ⑩ ブリッジバルーン
 ⑪ ゴースト

索引

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不整脈専門家が必読すべき優れた画期的なテキスト
書評者: 笠貫 宏 (早稲田大特命教授/医療レギュラトリーサイエンス研究所顧問/元東女医大日本心臓血圧研究所所長)
 「リード・マネジメント」という初めて耳にするタイトルから,ペースメーカリードのトラブルシューティングの解説書と思われるかもしれない。しかし,本書は心臓植込み型電気的デバイス(CIED)療法のリードにかかわる基礎から臨床,そして社会問題まで,最新の知見と経験を体系的にまとめられた不整脈専門家が必読すべき優れた画期的なテキストである。

 1960年代,完全房室ブロックに対する革新的治療機器として開発されたペースメーカ本体は急激な進歩を遂げ,さらに植込み型除細動器や両室ペースメーカなどのイノベーションをもたらした。CIED本体の進歩に比較して,エネルギーを心臓に伝えるリードに関する関心は低かったが,編集者の本体とリードの進歩が車の両輪だとする高い見識のもと,本書は21世紀におけるリードにかかわるイノベーション註)のテキストとなっている。

 植込み型機器としてのリードは抜去困難であり,開胸手術の侵襲も高い。当初単純牽引法,持続的段階的牽引法が行われていたが,1980年代以降,経皮的リード抜去手術(ロッキングスタイレット,種々の癒着剥離法)の進歩は目覚ましい。しかし,当時はデバイス・ラグが社会問題化した時代である。わが国の薬事行政が完成したのは2004年のPMDA設立以後であり,編集者らの苦労・努力は想像を絶するものであったと思う。

 デバイス新規植込み時・デバイス交換時・デバイスアップグレード時・デバイストラブル時のリード・マネジメントとして,適切なリード選択・植込み方法に始まり,デバイス防感染,リード交換・抜去の適応・手術手技など詳細に記載されている。

 それらの中で,特に重要と思われる4つの点について紹介する。

(1)リードのリコールでは,1992年Telectronics社の革新的心房リード(Accufix J)は不具合による損傷・塞栓症のみならずリード抜去による死亡例という甚大な被害をもたらしたこと,その後のリコール例も記載されている。医師にとって,リコールの歴史を知ることは不可欠であり,原点であろう。

(2)リード交換はデバイスアップグレード時やリードトラブル発生時に行われるが,リード抜去のリスクが高かったため,リードは残留されていた。しかし残存リードによるリスク(血栓,静脈閉塞,三尖弁逆流など)が問題となり,経皮的リード抜去手術の進歩により,21世紀に入ると不要リードに対する抜去の適応は拡大されている。残存リスクと抜去リスクの比較考量が必要になり,その際には患者側の要件,リード要件,術者の要件によって異なると記されている。今後,患者のインフォームドコンセントが重要となり,セカンドオピニオンも求められるであろう。

(3)デバイス感染症に対しては,リード抜去が必須であり,わが国のガイドライン(2018年)でもクラスI適応となっているにもかかわらず,抜去されない症例が44%存在するという調査もあると述べられている。看過できない状況であり,デバイス感染症患者にとって,リード抜去の選択肢を知る権利があり,認定施設以外では必ずセカンドオピニオンを薦めるべきであろう。

(4)わが国における経皮的リード手術は50施設で年間500例以上と記載されているが,リード抜去は重篤な合併症を来す手技である。日本不整脈心電学会では2018年からリード抜去登録制度が始まり,ステートメント(2020年改訂)での術者(認定医,指導医)および施設に求められる要件が示されているが,今後その重要性は増し,充実されていくであろう。

 最後に,編集者を中心とした著者グループがpatient centered medicineという認識を共有しており,読者は本書を通してその考え方を学べるはずである。臨床現場の医師が利活用しやすいように付録にWeb動画がついているのもその現れであろう。

 本書が不整脈専門家のみならず,循環器専門医に広く読まれることを願い,本書の著者たちの今後の活躍に心からエールを送りたい。そして「リード・マネジメント」の健全な発展を期待する。

註)イノベーションとは,「技術の革新にとどまらず,これまでとは全く違った新たな考え方,仕組みを取り入れて,新たな価値を生み出し,社会的に大きな変化を起こすこと」(2007年 長期戦略指針「イノベーション25」から)
不整脈デバイスの“リード”に着目した稀有な医学書
書評者: 小坂井 嘉夫 (医療法人協和会顧問/市立川西病院)
 不整脈治療デバイスに関する医学書は多数存在するが,ほとんどはジェネレータが主の医学書であった。本書のようなリードを主に取り上げた医学書は初めてである。本書では,リードの発達の歴史,リードの詳細な構造,ジェネレータに対応したリードの特殊性,リードの植込み手技,リードのトラブルの原因,リードの管理,リードトラブルの回避法,リードトラブルの対処法などが書かれている。

 1960年に世界初の完全植込み型ペースメーカ(VVI)が植え込まれた。その後,リチウム電池やCPUの開発発展に伴い,生理的ペースメーカ(AAI,DDD,レートレスポンス),頻脈治療の植込み型除細動器(ICD),心不全を治療する心臓再同期療法(CRT),究極のリードレスペースメーカなど,ジェネレータは素晴らしい発展をしてきた。ジェネレータは開発当初から電池寿命の予想は可能であった。それに反して,リードは形状や材質が改良されたが,リード寿命は全く予想ができない。リードは感染や不具合が生じても以前は簡単に摘出できなかった。ところが私は1998年にBritish Columbia大でエキシマレーザシースを用いた抜去手術を見学し,約30分で非常に簡単に,安全にリード抜去ができたのに仰天した。庄田守男先生も同じ経験から本書を編集されたと思う。不整脈治療デバイストラブルの多くはリードトラブルである。ジェネレータトラブルは製造メーカが関与する領域であり,医師が全く関与する余地がない。しかし,リードトラブルは医師の技量にかかわる領域がかなりあり,医師の技量によってリードトラブルが回避できるのである。したがって,本書は循環器医師に非常に役立つ医学書である。

 本書では53名のエキスパート医師が,自身の経験に文献的考察を加えてリード・マネジメントを詳細に記述している。最近の外科医学書に用いられ始めた動画の採用も素晴らしい。QRコードにスマートフォンをかざせば直ちに手技や心エコーの動画が見られる。また,通常は紙面の10%を占める引用文献もQRコードで見られるように省略されているので,本書は288ページでもかなり充実した医学書になっている。

 一方,本書ではページ数を減らすために略語が多用されている。多くの略語は臨床医学略語集に載っている略語であるが,普及していないものや自己設定の略語もあり,慣れれば問題ないが,一部は読みづらい個所がある。医学書は学生や初心者のための本であり,経験者も途中読みすることがあるので,改訂版には略語の使用法を工夫されることを助言したい。

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