臨床検査データブック コンパクト版 第10版/編集者の序
これからの臨床検査
本書初版からの私の序文を読んでいただけるとわかると思うが,臨床診断は問診,身体所見などから鑑別診断を考えるプロセスに加えて,尿・血液・血清生化学データの判読が含まれているナゾ解きなのだ.このことは臨床診断の常識になってきた.
インターネットの広がり,スピード,iPhoneという革命的なデジタル「携帯端末」によって臨床現場のありさまも変わってきた.患者さんとその家族は多くの情報を日本ばかりでなく,世界からも得ている.症状と身体所見の解釈などもある程度は知っている.患者さんを診察しながらでも,医師も多くの情報をベッドサイドで調べることも容易だ.
画像診断や癌細胞・組織検査などはどうだろう.これらは中央検査部,放射線科,病理検査(外注も含む)などで出される結果を得ているが,これからは細胞・組織検査も含めて「AI」を使った画像診断がより正確とされるようになる.ひとたび開発されればサービスは国境も越えてどんどん広がるだろう.ネット上で世界の専門家の診断・意見,ソフトウェアも簡単に使える,そんなサービスも365日,24時間,しかも内容もコストも,そしてより正確な診断が,自動的に簡単に得られるようになるだろう.
むしろ患者さんの主訴は来院以前に携帯に話せば,AIが素早く,鑑別診断を踏まえてより正確な診断を下し,そして必要な検査,資料,対応の指示を出すようになるだろう.これらのプロセスもほとんどが自動的に,デジタル・サービスによって提供されるだろう.
そんなことが普通になるのは予想以上に早いだろうね.そのつもりでこの序文を読んでいただけると嬉しい.これが私の「診(み)たて」だ.
2019年8月
黒川 清