第5版 序
近年の神経疾患の診断,治療,リハビリテーションは大きな変貌を遂げつつある.顕著なものでは,遺伝子診断や機能画像など多くの診断技術の進歩,遺伝子治療や神経系の再生医療などの治療の進歩があった.それを受けて,リハビリテーションを含め,これまでの治療成績に基づいて優れた治療を推奨する治療ガイドラインが多くの疾患や障害について策定されてきている.
本書はリハビリテーション医療の対象となる神経疾患の病態と診断,治療についての知識を提供し,さらに個々の障害に対する評価法と基本的なリハビリテーション治療への理解を深めることを目標にして,PT・OTを目指す学生諸氏が学習すべきポイントを明確にすることに努めている.
今回の改訂にあたっては,新たに鹿児島大学リハビリテーション医学の三浦聖史先生,河村健太郎先生に分担執筆をお願いして,これまでにない大幅な改訂となった.特に神経疾患各論の「脳腫瘍」,「外傷性脳損傷(軸索障害を含む)」,「てんかん」などの章は一から内容を見直した.また,付録「セルフアセスメント」は全面新規原稿となり,内容的にもアップデートされて充実している.さらに高次脳機能障害の項目には,総論的な記述を追加して,その概念をわかりやすく伝えるよう心がけた.
脳血管障害,認知症,頭痛,Guillain-Barré(ギラン・バレー)症候群など,診療ガイドラインのある疾患は,それらのガイドラインに沿った記述を追加しているが,特に認知症と脳卒中リハビリテーションについては大きな追加や変更を加え,科学的で客観的評価に基づく治療法の選択を強調した.
医療の高度化,専門化のなかで,医療スタッフに求められる知識は著しく増加し,リハビリテーション医療にかかわるスタッフもその例外ではない.リハビリテーションスタッフはこのような最先端の知識はもちろんのこと,社会福祉までに関する幅広い知識が求められている.
初版の序文にもふれたが,リハビリテーション関連のスタッフが修得すべき知識に関しては,どこまでが医師の領域で,どこまでがPTあるいはOTの領域であるかを,明確に区分することは困難である.あえて区分するのであれば,PT・OTが主に受け持つ領域は,病因・病態への対処よりも疾病がもたらす機能障害や活動制限とそれらに対するリハビリテーション的治療であろうと考える.しかしながら,それらの治療を安全に実施するためには,疾病の病因,病態の理解も必要であるし,何よりチーム医療における職種間の情報共有,たとえばリハビリテーションカンファレンスなどの際に,これらの医学的知識が不可欠なものとなることは疑いようがない.
今後の超高齢社会の医療においてリハビリテーション医療はすべての領域にかかわる基盤的医療である.リハビリテーションにかかわるスタッフは,多忙ななかにあってもリハビリテーション医療が目指してきた本来の目標を念頭において,積極的な姿勢で障害に対応することをお願いしたい.
最後に,貴重な資料を提供いただいた倉津純一先生,鄭忠和先生,粟博志先生,松田幸久先生ほかに深く感謝を申し上げる.
2019年1月
川平 和美