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ペースメーカー・ICD・CRT実践ハンドブック

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ペースメーカー、ICD、CRTなど植込み型心臓電気デバイスを扱う循環器内科医、心臓血管外科医だけでなく、スタッフとして関わる技士、看護師、調整を行うデバイスメーカーの担当者にとって極めて有用な1冊。原書「Cardiac Pacing and ICDs」は、世界的に高名なDr.Ellenbogenにより版を重ねている名著。CDR認定制度に必要なIBHRE試験の対策本として最適な実践的教科書。
編集 Kenneth A. Ellenbogen / Karoly Kaszala
監訳 高野 照夫 / 加藤 貴雄
伊原 正
発行 2018年07月判型:B5頁:544
ISBN 978-4-260-03599-6
定価 14,300円 (本体13,000円+税)

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推薦の序(新田 隆)/訳者序(高野照夫,加藤貴雄,伊原 正)/(Kenneth A. Ellenbogen,Karoly Kaszala)/Mark Allen Wood博士を偲んで(Kenneth A. Ellenbogen and Karoly Kaszala)


推薦の序

 不整脈や心不全に対する植込み型デバイス治療の進歩は目覚ましい。房室ブロックや洞不全症候群などの徐脈に対するペースメーカーに始まった植込み型デバイス治療は,致死性心室性不整脈に対する植込み型除細動器(ICD)による心臓突然死の予防や心不全に対する心室再同期療法(CRT)などに発展し,今や循環器治療において不可欠の治療手段となった。
 植込み型デバイス治療に関する成書はすでに数多く出版されているが,本書の原書である『Cardiac Pacing and ICDs』(編集:Kenneth A. Ellenbogen, Karoly Kaszala)は,植込み型デバイス治療の適応と植込みや術後フォローアップにおける基本的な事項から遠隔モニタリング,MRI撮像,デバイス不具合,そしてリード抜去に至るまで,詳細かつ大変わかりやすく書かれていることで以前より極めて高い評価を得ており,すでに第6版にまで改訂が重ねられている。この度,高野照夫先生,加藤貴雄先生,伊原 正先生による日本語翻訳版が発刊されることになった。本書では適切なシェーマ,グラフ,表などが随所に用いられており,時には難解な事項の理解を助けている。諸先生方による翻訳は正確かつ大変に明確な記述であり,適切な図表とともに非常に読みやすい成書となっている。日本人にも広く読まれることで,本邦における植込み型デバイス治療のさらなる普及に貢献することが大いに期待される。
 植込み型デバイス治療は本邦でもすでに広く行われており,その治療成績も欧米と比較して何ら遜色あるものではないが,米国における植込み型デバイス治療はよりシステム化されている点が本邦と異なる。デバイス治療に限らず,医療のシステム化はそれぞれの治療の適応や治療法のスタンダードを明確に示し,その結果,治療成績の客観的な評価を可能にする。さらに医学教育や研修においても,スタンダードな治療法を系統的に習得することができ,結果として治療成績の向上と安定化をもたらす。
 高度かつ複雑に発展した植込み型デバイス治療の適切な運用には医師だけでなく,看護師や臨床工学技士らとのチーム医療が不可欠である。デバイスの植込み時はもちろんのこと,遠隔モニタリングを含むフォローアップやMRI撮像時など,院内に植込み型デバイスの専門知識を持ったメディカルスタッフが多数名常勤し,医師と協力してシステム化されたチーム医療を実践することがデバイス治療の専門施設に求められる。植込み型デバイス治療に携わる多職種のスタッフが本書を読むことで,プロフェッショナルなチーム医療が可能になるものと確信する。

 2018年6月
 日本医科大学大学院医学研究科 心臓血管外科学分野教授
 新田 隆


訳者序

 原書『Cardiac Pacing and ICDs』は,心臓植込みデバイスの進歩・発展を先頭に立って牽引してこられたEllenbogen先生が中心となってまとめられ,常に最新の内容を取り入れることで第6版まで版を重ねている,ペースメーカー・ICD・CRTに関する米国では定番といえるテキストです。電気生理学の基礎知識から様々な心疾患の病態生理,ペースメーカー・ICD・CRTデバイスの詳細と植込み手技の実際,トラブル対応まで幅広く網羅されています。また,それぞれのテーマに合わせて,その分野のトップクラスの著者が内容を深く掘り下げて執筆しています。原書は,CDR(Cardiac Device Representatives)認定試験である,IBHRE(International Board of Heart Rhythm Examiners)の参考書として指定されている実践的な教科書です。
 そのため,デバイスの植込みを行う医師だけでなく,医療スタッフとして関わる臨床工学技士と看護師,植込み後の調整を行うデバイスメーカーの担当者にとっても極めて有用な本であると確信したため,翻訳することを決意しました。記述内容が医学・医療機器の知識だけでなく,その基盤となっている工学的な技術も含めたものとなっているため,読み通すには少し時間がかかるかもしれません。しかしながら,通読すればそれだけ得るものも大きいと思われますし,逆に項目ごとのまとまりもあるため,必要に応じて各章の内容から知識を拾い集めることが可能であると考えます。
 訳者の伊原はかつて,第3章を執筆しているDr. Bruce StamblerとHarvard Medical Schoolのpostdoctoral fellowとして,Dr. Stephen Vatnerの下で一緒に仕事をし,論文を上梓した経験があります。その縁もあって,本書を日本語で紹介させて頂くことに格段の喜びを感じています。
 本書(日本語版)が日々の臨床で活躍されている医師,コメディカルスタッフの方々にとって少しでもお役に立つものになれば幸いに思います。
 最後に本書の出版にあたり,同じくHarvard Medical Schoolのpostdoctoral fellowであった木内要先生には,大変多くのご助力,ご指導を頂き深く感謝致します。

 2018年6月
 高野照夫,加藤貴雄,伊原 正




 ペースメーカーと植込み型除細動器(ICD)の基本機能を理解することは,今日,これまで以上に重要となっている.その理由は,植込み型心臓デバイスの新しい適応の広がりとデバイスを植込まれた患者の平均余命の延長により,患者の数は増加し続けているためである.
 これまでと同様,本書の改訂第6版も初級および中級レベルの心臓血管関連医療従事者に向けた内容であり,デバイス療法と管理について基礎的理解を助け,さらに包括的な理解のための参考資料となることを目的としている.この分野では,医学生,循環器内科医,心臓血管外科医,看護師,エンジニア,技士,メーカーのサービスエンジニアを含む幅広いレベルで学習する方々が患者のケアに極めて重要な役割を果たされており,本書がこれらの方々にとって有用なものであることを願っている.また,多くの読者がこの分野における専門的な資格試験を準備する際,本書の内容は非常に役立つものであると認識している.
 デバイスとその設定が複雑化し,新しい科学的知見も得られているため,改訂に際しては重要な情報について関連する章を徹底的に更新している.すべての章が大幅に改訂され,大部分は新しい著者によって書き直されている.両室ペーシング技術とデバイス適応について新しい情報を取り込み,リード技術と最近のリード勧告に関する情報が更新されている.ICDに関しても,デバイスの設定からバッテリー設計まで興味深い新しい情報を加えている.血行動態の章ではさらに包括的かつ万遍なく更新され,タイミングサイクルの章はすべて書き直され,現在利用可能なペースメーカーアルゴリズムの幅広い解説が含まれている.トラブルシューティングの章は,現在の植込み型デバイスから得られる記録に関する問題について更新されている.
 本書の改訂はすべての著者による協力がなければ上梓できなかったものであり,第6版の完成のために払われた多大な尽力について改めて感謝するものである.前版のことを考える時,私たちの親愛なる友人であり,同僚であるMark Wood博士のことが必然的に思い出される(博士はこの版の準備の非常に早い段階から関わってこられた).彼の早すぎる死によって積極的に今回の執筆,編集に参加できなかったが,彼を知る私たち全員にとって,彼の思慮深い洞察がこの本を照らしている.

 Kenneth A. Ellenbogen, MD
 Karoly Kaszala, MD, PhD


Mark Allen Wood博士を偲んで

 私たちの同僚であり親友であるMark Wood博士に別れを告げるのは,私たちにとって大きな悲しみである.第6版の計画段階で,彼は癌に対する長い戦いの末に他界された.
 Mark Wood博士はテネシー大学ヘルスサイエンスセンターで医師免許を取得し,ヴァージニア医科大学とヴァージニア大学でレジデントとフェローのトレーニングを受けた.彼はヴァージニア医科大学病院の心臓電気生理部門長の1人であり,25年間の医学部教員として,またごく最近,医学部循環器部門の教授となっている.
 彼には,非常に顕著な科学者としての業績があり,本書第5版から分担執筆だけでなく共同編集者として重要な役割を担っている.心臓病学と電気生理学の分野で300編以上の論文と多数の書籍を分担執筆しており,本書以外にも高く評価されている心臓電気生理学の書籍の共同編集として名を連ねている.
 彼は,特に患者を大事にする医師であるだけでなく,患者からも敬愛された.また有能な教育者でもあり,医学生,レジデント,フェローから多くの教育賞を受けている.彼には,学生のモチベーションを上げ,複雑な概念を簡潔にわかりやすく説明する能力があった.米国外でも高い評価を得ており,1990年代には北京で心臓電気生理学プログラムの創設に寄与し,その人道的な努力に対して北京大学病院名誉教授の称号を受けている.また,彼の患者と患者の親族に対する優しく礼儀正しいアプローチと,同僚に対する変わらぬ友情に対して2011年にはヴァージニア医科大学臨床医賞も与えられている.
 Mark Wood博士はたぐいまれな人物であり,私たちは彼を知りともに働き彼から学んだことを光栄に思っている.彼のこのような若い年齢での旅立ちは,私たちのプログラムと電気生理学グループにとって大きな損失である.彼の死がとても惜しまれる.

 Kenneth A. Ellenbogen and Karoly Kaszala

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第1章 植込み型心臓ペーシングと一時心臓ペーシングの適応
 序論
 刺激伝導系の解剖学と生理学
 植込み型ペースメーカーの適応
 洞機能不全
 後天性房室ブロック
 慢性の2枝ブロック
 反射性失神
 特発性起立性低血圧
 刺激伝導系障害に関連する特定の疾患
 遺伝性心筋症
 収縮不全のペースメーカー適応
 頻拍予防,または停止のためのペーシング適応
 小児と青年のペーシング適応(先天性房室ブロックを有するすべての患者を含む)
 心筋梗塞急性期後の植込み型ペーシング
 心臓外科手術後および経カテーテル大動脈弁植込み術後のペーシング
 一時ペーシング(体外式ペーシング)の適応
 まとめ

第2章 ペーシングシステムとICDシステムの構成:ペーシングに関する基本概念
 序論
 ペーシングに関する電気生理学
 ペーシングに関する基本概念
 ペースメーカーのハードウエア
 MRI対応ペースメーカーとリード
 レート適応型ペーシングとその他のセンサー
 結論

第3章 心臓ペーシング中の血行動態とペーシングモードの選択
 序論
 徐脈の治療
 変時性応答不全とレート応答(rate modulation)
 房室同期
 ペースメーカー症候群
 右室ペーシングを最小限に抑える戦略
 閉塞性肥大型心筋症患者のペーシング
 ペースメーカーのモード選択

第4章 一時心臓ペーシング
 序論
 心肺蘇生
 重度徐脈の可逆的な原因
 一時ペーシングオプション
 血管内一時ペースメーカーの挿入
 合併症
 臨床応用
 結論

第5章 ペースメーカーの植込みと摘出の術式
 序論
 植込み担当医の資格
 患者の検査
 考慮すべき特別な問題
 費用対効果
 インフォームド・コンセント
 植込み前の処置
 患者の準備
 植込み手順
 ペースメーカーポケット
 リード植込み
 シングルリードによるVDDペーシング
 ジェネレータの挿入
 術後管理
 植込みの合併症
 両室ペーシングの合併症
 リード抜去(lead extraction)
 テクニック
 リード抜去用ツール
 医療訴訟対策

第6章 ペースメーカーのタイミングサイクルと専用機能
 序論
 ペーシング用語体系
 ペーシングモード
 タイミングサイクル
 レート応答型ペーシング
 基本レート動作
 上限レート動作
 レートエンハンスメント(レートの強化)
 モード・スイッチ
 心房不整脈検出と心房ペーシング/センシング競合用アルゴリズム
 心房細動防止アルゴリズム
 右室ペーシングを最小にするアルゴリズム
 ペースメーカー誘発性頻拍
 両室ペーシング
 ノイズリバージョン
 マグネット応答
 まとめ

第7章 ペーシングシステム障害の評価,トラブルシューティング,および管理
 はじめに
 一般的参照事項:ペースメーカー機能と誤動作を評価するアプローチ〔総論〕
 デバイス動作不全の鑑別診断
 ペーシング・システムの機械部品の異常
 ペースメーカーシステムのX線像
 ペースメーカー誤動作の心電図
 センシングに関する問題
 キャプチャーに関する問題
 予期しないペーシングレートまたはペーシングレートの急変
 保存されたデバイスデータの分析
 まとめ

第8章 植込み型除細動器(ICD)
 ICDの適応とそれを支持するエビデンス
 細動と除細動
 ICDパルスジェネレータ
 ICDリード
 除細動波形
 不整脈のセンシング,検出,区分
 不整脈検出
 植込み手順
 まとめ

第9章 心臓再同期療法(CRT)
 心不全と心臓再同期療法のメカニズム
 適応と患者の選択
 CRTの植込み
 左室リード留置に際して生じる課題への対応
 臨床成績
 CRT非応答者へのアプローチ
 まとめ

第10章 ICDフォローアップとトラブルシューティング
 序論
 ICDフォローアップ
 ICDプログラミング
 メーカー特有の機能
 治療法
 終末期患者とICD
 電磁波障害
 トラブルシューティング
 結論
 謝辞

第11章 心臓植込み型電気生理デバイス(CIED)患者のフォローアップ
 序論
 CIED植込み患者のフォローアップ検査の目標
 植込み直後の期間
 フォローアップクリニックと記録の保管
 外来患者のフォローアップ
 マグネットアプリケーション
 デバイスインテロゲーション
 通院患者のモニター
 CIED植込み患者が遭遇する特別な状況
 デバイス勧告(警告とリコール)

索引

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入門,復習,Step upに最適な循環器病デバイスの実践書
書評者: 岩瀬 三紀 (トヨタ記念病院病院長)
 循環器病学における薬物療法は,心不全時に活性化する交感神経系とレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の薬剤が大規模臨床試験によりその効果が認められ,心不全患者の予後は著しくカイゼンしました。しかし,薬物療法だけでは限界があり,薬物不応の心不全患者も多数おられます。近年,植込み型デバイスによる治療の進歩が著しく,その普及や心疾患患者の予後のカイゼンがますます期待できます。具体的には,徐脈に対するペースメーカー,致死性不整脈に惹起される心臓突然死予防に対する植込み型除細動器(ICD),治療抵抗性心不全に対する心臓再同期療法(CRT)が代表的なデバイスです。これらの植込み型デバイスによる治療は,多くの患者さんの生命予後のみならず,生活の質Quality of Life向上への貢献は絶大です。

 不整脈と植込み型デバイスに関する実践的かつ詳細な参考書は,それぞれ個別に専門書を用意する必要があります。両領域を一つの書籍で得ようとすると,内容が広く浅くなりがちになります。コメディカルや看護師でも理解しやすく表現されている入門書は雑誌の特集も含め多く存在します。しかし,そのような入門書では専門的な用語が省かれ,根底の基礎理論の理解のためには力不足の感は否めません。

 本書『ペースメーカー・ICD・CRT実践ハンドブック』は,CDR認定制度に必要なIBHRE試験対策推薦書であり,不整脈・植込み型デバイスについての知識について,重要な心血管疾患から植込み型デバイスの基礎と原理・機能の章へと展開され,次に実践的な植込み型術の手技の話へと進み,最終的にフォローアップの章から実践的なトラブルシュートの章へと読者の向学心が燃えさかることが期待されます。内容は専門用語を汎用しており,理解し難い内容になりそうですが,表や図や写真をふんだんに配置し理解しやすくなっており,植込み型デバイスにかかわる循環器医師・臨床工学技士・看護師の入門書としても,ある程度手技に慣れてきた者の復習書,そしてStep upのための最適なハンドブックと自信を持って推薦します。

 訳者の伊原正先生は,世界的に屈指の厳格さで有名なVatner 教授の下,Harvard Medical Schoolにてpostdoctoral fellowとして,原書の著者の一人であるDr. Bruce Stamblerと研究されました。実は私も,Vatner教授の下で厳しくも楽しみながら研究に切磋琢磨した2年半のボストン留学生活の経験があります。この縁もあり,伊原先生には懇意にしていただき,先生の心臓生理学のハイレベルな知識と温厚な人柄にはいつも感服しております。先生は,教育者としても優れ,コメディカル向けの英語教本『Because We Care : English for Healthcare Professionals』(センゲージラーニング,2011)を発刊されています。このように教育に卓越した研究者が訳した本書は,植込み型デバイスに関連の深い心臓生理学の神髄を伝える心のこもった日本語訳であり,われわれに提供いただいたことに深謝します。
世界的に高名なDr.Ellenbogenによる原書を万全の体制で日本語訳
書評者: 澤 芳樹 (阪大大学院教授・心臓血管外科学)
 このほど,医学書院から上梓された『ペースメーカー・ICD・CRT実践ハンドブック』は,植込み型デバイス治療では世界的に第一人者とされるDr.Ellenbogen(バージニア医大)の編集により版を重ねている名著『Cardiac Pacing and ICDs』の第6版を翻訳した書籍である。原書の名前を聞いて,500ページを超える英文版を苦労して読み解いたことを思い出す,不整脈のデバイス治療にかかわる医師は少なくないはずである。

 原書の『Cardiac Pacing and ICDs』第6版は改訂に際し,植込み型デバイス治療に関する数多くの新知見を取り入れて大幅なリニューアルを行ったようである。随所に心電図,X線写真,シェーマを取り入れた解説は非常にわかりやすく,ペーシングモードなどの複雑で細かい内容もイメージがしやすい。米国アマゾンのレビューでは,星5つを付けているレビューアーもいるくらいである。

 いくら原書の評価が高いとしても,日本語訳が読みづらくては読者にとって役に立つ書籍にはならないであろう。しかしながら,本書については最初の数ページを読めば,その心配は杞憂に終わると思われる。というのも,翻訳は自ら医療者向けの英語の教科書も手掛ける,医用工学の研究・臨床工学の教育に長年携わってこられた伊原正先生(鈴鹿医療科学大教授)がお一人で担当されており,文章に一貫性が保たれている。その上で,循環器医として豊富な経験をお持ちの髙野照夫先生(日医大名誉教授),加藤貴雄先生(国際医療福祉大三田病院教授)が医学用語や手技の翻訳に関して監訳者としてアドバイスしたようである。ご存じの通り植込み型デバイスは医学と工学が高度に統合された技術であるため,本書の翻訳体制はとても望ましいといえる。

 循環器疾患の治療は,薬物治療,心臓血管外科手術,カテーテル検査治療と合わせて植込みデバイスが重要な役割を果たしている。その先にある循環器再生医療も単独で治療が行えるわけでなく,相互に補完して初めて有効な治療となる。中でもデバイス治療は,徐脈性不整脈から始まり,頻脈性不整脈,心不全とその適応が大きく広がった。特に心不全に関してはCRTによる心室逆リモデリングについても述べられており,本書の広汎な内容と奥行きの深さを感じさせるものである。

 デバイスは日々進歩し,臨床現場への普及は進んでいるものの,実は機器メーカーごとに仕様が異なる部分も多い。そのため,病態に応じた設定などについてはメーカーからの情報に依存する部分が大きかった。本書ではその弱点を補うため,おのおののメーカーの仕様を一覧表にまとめ,各デバイスのメリット,デメリット,植込み時のコツなど臨床的な視点からポイントを絞ってわかりやすく記載されている。さらに技術的仕様の違いだけでなく,デバイス使用による血行動態の変化,デバイスモードの選択方法なども体系的にまとめられており,最終的なアウトカムにつながる指針が示されている。

 昨今,循環器疾患の治療に際してハートチームの重要性が唱えられている。デバイスの植込みには主に循環器内科医がかかわるが,リード抜去や合併症の治療の際にはわれわれ心臓外科医もハートチームの一員としてオペ室に入ることもある。本書により植込み型デバイスに対する総合的な理解が深まり,医師,看護師,コメディカルスタッフがチームとしてよりレベルの高い医療をめざしていくことを期待する。
ハートカンファレンスに挑む多職種の知識補充に
書評者: 夜久 均 (京都府立医大大学院教授・心臓血管外科学)
 循環器疾患にはさまざまな病態があり,それに対するさまざまな治療がある。その中で中心を貫くキーワードは心不全であり,その病態解明,そして治療は循環器疾患に携わっている医療従事者にとって究極の目標となってくる。今回上梓された髙野照夫先生,加藤貴雄先生,伊原正先生が翻訳された実践的なハンドブックがカバーしている,ペースメーカー・ICD・CRTはまさに心不全の治療の一環である。

 そして,心不全の治療も含めて多くの循環器の治療の方針決定は,現在では内科医,外科医,リハビリテーション関連療法士,臨床工学士,看護師などの多職種が集まるいわゆるハートチームカンファレンスでなされることが,循環器治療のさまざまなガイドラインでクラスIのレベルで推奨されている。つまり,内科医,外科医が,目の前に現れた患者に自分たちのできる治療をとりあえず行うのではなく,多職種でカンファレンスを行うことにより,患者の人生の時間軸の中で,どのような治療をどの時点で介入させていくのかを,透明性を持った形で決定することが非常に重要となっている。

 その場合,ハートチームカンファレンスが有効に機能するためには,全ての職種の者が,循環器の治療の動向をある程度把握しておく必要がある。ペースメーカー・ICD・CRTの治療に関しても,実際に治療を施す医師はその分野に精通した専門医であるが,カンファレンスに参加する者は,非常に専門的ではなくても,ある程度その治療について知識を持つ必要がある。この書籍は,ペースメーカー・ICD・CRTに関して,まさに必要かつ十分な記載になっており,またその基礎となる原理的な内容も含まれており,非常に理解に役立つ。そういった意味で,ハートチームカンファレンスに臨むペースメーカー・ICD・CRTの専門家以外の職種の者が,ディスカッションに参加するための知識の補充にはうってつけの一冊かと思う。

 ぜひ,循環器疾患の治療に携わっておられる多くの職種の方々が本書を手元に置かれ,より充実したハートチームカンファレンスの一助になることを期待する。

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