巻頭言
特集医療経済からみた病院経営

新型コロナウイルス感染症による財政支出の拡大以前から,日本の財政状態はかなり厳しい状況にあった.これに加え,新型コロナウイルス感染症による財政支出や景気の冷え込みにより,医療を取り巻く経済環境はさらに厳しくなるものと予想される.

このような状況下,病院経営はどのように医療経済と向き合っていけばよいのか,識者の識見を伺った.

小黒氏は巻頭対談において,医療費は総額ではなくGDP比で考えるべきであり,医療の社会保障給付費もGDP比で2018年度は約7%,2040年度は約9%と2%ポイント膨らむ程度であると指摘.また持続可能な医療制度構築の観点から,後期高齢者医療制度へのマクロ経済スライドの導入を提案している.

一松論文では,現在は保険料より公費への依存が増えており,公費負担の伸びの抑制が求められるとした上で,後期高齢者の2割負担,定額負担の拡大,毎年薬価調査・薬価改定,地域医療構想の推進について必要性を述べている.

中村論文では,患者の治療上の恩恵を高めつつ医療費の節約につながる施策を推進することが求められるとし,具体的な施策にも言及している.また,他の医療提供者との役割分担および連携も必要であり,その基盤となるのが危機意識の共有と小さな成功の積み重ねであるとしている.

伊藤論文では,病院は自己保身に走るのではなく,地域の実情に合わせて自己変容することが必要であるとしている.病床再編が地域の医療機能の分化を適切に促せるかの客観的なモニタリングの必要性を論じている.

加納論文では,“輪廻転「床」”というユニークな造語によって高齢者の在宅と病院との関係を表し,高齢者救急を担う民間病院が地域医療を担えるだけの評価体系を求めている.また,病院は労働集約型産業でありながら資本集約型産業の一面もあると説く.

原論文では,医療もGDPを形成する消費であり,医療と介護の消費が増えた方が経済的には良いとしている.医療費の増加を賄うために保険料・税・自己負担を増やすより,デフレ脱却によるGDPの増加が望ましく,生産性の向上を図るべきとしている.

山崎・佐原論文では,病院の産み出すGDPを推計している.また,医療は地域経済において生産・分配・支出の全てに影響を与えており,地域経済に大きな影響を持っているとしている.今後は,病院を核とした他産業との連携による収益改善を求めている.

医療は経済と隔絶して存在できるものではなく,病院経営に携わる者として,病院と医療経済との関連を念頭に置く必要があろう.

川原経営グループ代表川原 丈貴