巻頭言
特集病院再生はドラマだ!

病院をめぐる環境は厳しいものがある.どの病院も,いつ自院が存続できない事態に追い込まれてもおかしくないのが現状である.病院が右肩上がりで成長できていたのはいつ頃までであっただろうか.

高齢化の進展により,国民医療費が急増し,その抑制が国を挙げた課題となった.医療費抑制の必要性はあるものの,病院現場の事情を考えないような診療報酬改定が続き,病院の財務状況は急激に悪化している.

医療の高度・専門化に対応するために,初期研修制度や専門医制度が大きく変更された.医療の質向上のために必要なことであるとは思うが,医師の勤務先の選択が流動化し,地方の病院や中小規模の病院には医師が勤務しないという流れが一層強まった.2024年には,医師の働き方改革による労働時間の規制が始まる.全国の病院に対してどのような影響があるか予測は難しいが,大きな混乱が起きる可能性が高い.

そこへきて,今回の新型コロナウイルス感染症の蔓延である.職員・患者が感染し,その対応に追われる病院が相次いだ.職員の負担が増大し,限界に直面している病院も少なくない.その一方,入院・外来患者が減少し,多くの病院が収益を悪化させている.

厳しい環境に置かれている病院現場であるが,嘆いていても始まらない.自院の生き残りのために知恵を絞り,できることを行っていくしかない.

筆者は,これまで公立・公的病院を中心に数多くの病院の経営再生の支援をしてきた.「もはやこれまで」という修羅場にいくつも直面してきた.現場に入って感じることは,病院再生のカギとなるものは,やはり「人」であることだ.病院職員が本当に変わろうと考えた時に病院は変わる.人が動く時にドラマは生まれる.本特集は,危機的な状況から経営を再生した病院関係者の皆さんから報告をいただいた.気持ちが滅入りがちな毎日であるが,本特集が病院現場の皆さんの元気につながれば幸いである.

なお,本特集は筆者が『病院』編集委員の任期を終える最後の企画である.10年間に及ぶ任期を無事に終えることができた.読者の皆様に心から感謝を申し上げたい.

城西大学経営学部教授伊関 友伸