今月の主題●座談会
酸塩基平衡・電解質異常
治療につながる診かた・考えかた
柴垣 本日の座談会は「酸塩基平衡・電解質異常―治療につながる診かた・考えかた」ということで,この話を進めるにふさわしい3人の先生方にお集まりいただきました. 横井先生には,特に開業医の立場からの意見をうかがいたいと思っています.また,若い人がいかに酸塩基・電解質を学んでいくかは,非常に重要なポイントですので,相馬先生にはその代表として来ていただきました.そして,アメリカでは,電解質が腎臓内科の1領域として重要視されており,教育も非常に進んでいますので,田川先生には,アメリカでの教育・臨床経験からご意見をいただければと思います. それでは,自己紹介を兼ねて先生方のバックグラウンドと,先生方がお若いとき,特に研修医のときに電解質に対してどのようなイメージをおもちだったのか,どういう勉強法をされてきたのかをお話しください. 横井 香川で開業しております横井です.卒後23年,勤務医として12年,開業医になって11年半になります.8年間,基幹病院の腎臓内科医を務めたのですが,実は,学生のときに最も嫌いだったのが電解質です.最初は消化器内科医を目指しておりましたので,結果的に回り道をして腎臓内科医になったためか,その後も電解質は正直苦手です. 開業医になってみると,緊急性があるかどうかは別にして,身近には電解質異常の方がたくさんおられます.ですから,昔もっと勉強しておけばよかったなと思い,いろいろな本を読んでいます.ですから,私のように若いうちから毛嫌いせずに,一度はしっかり勉強しておいたほうがいいと思っています. 相馬 東北大学の腎高血圧内分泌分野で大学院生をしている相馬です.医学部生のときから,腎臓の生理学は難しくてわかりにくく,だから「何とかわかってやりたい」と思ったのが,電解質の勉強を頑張ろうと思ったきっかけです. 電解質について,最も衝撃を受けたのは,米国集中治療専門医の指導医に「君の輸液はムチャクチャだ.維持輸液というが,何を維持したいのだ?」と言われたことでした. その言葉で,“自分は間違えている”と意識させられたわけです.その後,カナダのトロント大学のHalperin教授のもとで,電解質異常のアプローチの基本を短期間学びました. このように,電解質を学ぶ機会に何度か恵まれましたが,学生時代から研修当初はいろいろな本を読んだものの,実地で臨床に即して学ぶ機会はあまりありませんでした.それが苦手意識を当初もった原因だと思っています. 田川 京都桂病院腎臓内科の田川です.私は,大学のときに,幸いにしてとてもわかりやすく酸塩基平衡を教えてくださる腎臓内科の先生に出会いました.基本的には,酸塩基をacidemiaかalkalemiaから順番にステップを踏んでいくやり方で,酸塩基の考え方を教えてくださいました.そして,アメリカで出会った腎臓内科の先生も,とても電解質異常をわかりやすく教えてくださり,それらの出会いが,腎臓内科に進むきっかけになりました. ところが,すごくわかりやすい教科書があるかというと,残念ながら印象に残っているものはないですし,私も研修医に,酸塩基や電解質について頑張って話しますが,「難しい」と言われてしまうことがあって,教えるのは非常に難しいと感じています. ■臨床で困る電解質異常はどんなものが多いのか柴垣 次に,横井先生には開業医の立場から,相馬先生には最近まで大学病院・基幹病院に勤めていた研修医の立場から,電解質・酸塩基に関して実地臨床上困っていることをお話しください. 横井 第一に,開業医は使える装備が限られていて,電解質・酸塩基にかかわるデータをすべて把握できないことです.その代表が血液ガス分析です.データが隠された状況でどのような病態・疾患かを考えなければならないことが開業医にとってつらいところです. (つづきは本誌をご覧ください)
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