HOME雑 誌medicina誌面サンプル 47巻1号(2010年1月号) > 今月の主題●座談会
今月の主題●座談会
こんな患者さんをどうしますか?

発言者●発言順
村川裕二氏(帝京大学溝口病院第4内科)=司会
山根禎一氏(東京慈恵会医科大学循環器内科)
中里祐二氏(順天堂大学医学部附属浦安病院循環器内科)
杉下靖之氏(公立学校共済組合関東中央病院循環器内科)


■心房細動のカテーテルアブレーションはどこまできたか

村川 本日は,日ごろ不整脈診療にあたっている先生方が疑問にもたれるような話題について,お話しいただきたいと思います.

 最近は非薬物療法のなかでも特に心房細動のカテーテルアブレーションの進歩がめざましく,なんとなく不整脈治療の限界まで達しているような印象もあります.最初に「カテーテルアブレーションはいまどこまで進んでいるのか,どこが限界なのか」というup dateな流れを,山根先生にお聞きしたいと思います.

■心房細動は発作性のうちに治す

山根 カテーテルを用いて心房細動を治そうという試みがほぼ実用化されたのは2000年以降だと思います.つまり,実用化から約10年が経過したわけですが,この10年間の進歩をひとことで言うと,「発作性心房細動は基本的には治せる病気だ」ということです.それは,発作性心房細動の原因は極論すれば肺静脈の中にほぼ集約されていると言えるためです.

 一方で,持続性および慢性の心房細動,すなわち進行した心房細動は,病原が心房全体に広がっているため治りにくい.慢性心房細動に対するカテーテルアブレーションもずいぶん進歩し,いろいろな方法で心房中に分散している原因を焼灼する試みが行われていますが,やはり大きな限界があります.実際,発作性心房細動は,9割以上が治る時代になってきていますが,慢性のほうは多くみても7割程度ではないでしょうか.

 まとめますと,発作性心房細動はほぼ治る病気になってきている.ただ,その時期を逸して慢性になった心房細動については,十分に治るとは言えない.だからこそ,できるだけ早いうちにその治療適用を考えていくことが大切だと思います.

■心房細動のカテーテルアブレーションにおける患者選択と適応

村川 中里先生は心房細動におけるアブレーションの適応や,患者さんの選択についてはどのように思われますか.

中里 心房細動とひとまとめにして議論されることが多いですが,患者さんの生命予後やQOLという観点から考えると,年齢によってその意味合いはかなり違います.例えば高齢者にアブレーションをすることが果たしてQOLを改善するのかという疑問がありますし,逆に若年者の発作性心房細動はアブレーションにより根治すれば,その後のQOLは著しく改善します.

 そういう意味では,発作性心房細動が根治可能な域まで達したと考えれば,若年者で基礎疾患がなく,薬物抵抗性の場合には,非常に良い適応だと言えるでしょう.

村川 虚血性心疾患の治療が専門の杉下先生は,心房細動のカテーテルアブレーション治療となると専門医に依頼されると思いますが,適応などの判断で困った症例はありますか.

杉下 1例経験があります.発作性心房細動の患者さんで,初めはシベンゾリンによる薬物治療を行っていたのですが,ある時期から発作が出ると心拍数が200/分台まで上がってしまうようになってしまいました.そこで心拍数抑制と発作予防を目的にβ遮断薬を加えたところ,逆に発作停止時に接合部調律となって40/分台まで低下してしまう,こういう極端な状況になってしまった方がいらっしゃいました.当院のほかの医師とも相談して,ほかの病院でアブレーションをお願いし,その後は発作も止まって非常にQOLよく過ごしていらっしゃいます.

 先ほどアブレーションでの発作性心房細動根治率が90~95%というお話が出ました.そこでお聞きしたいのが,これまで薬物療法で問題なくコントロールされている方が,果たして次にアブレーションに踏み切るべきかどうかということです.どういった場合に勧めるべきか,あるいは勧めなくてもいいものなのか.

 もう1つ,私たちも紹介患者を受けることがあるのですが,そういう方に選択肢として患者さんにカテーテルアブレーションのことを話すべきかどうかということです.話すときにはどういうふうに勧めるのか,あるいはどういった問題点があるのか.特に合併症について説明する必要がありますので,そのあたりについて教えていただければと思います.

山根 まず1つ目のアブレーションの適応と薬物治療との関係についてですが,心房細動は,不整脈としては基本的には良性の疾患であり,その第一選択が薬剤ということは,今後も変わりないと私も思っています.ただ,もう1つ知っておかなければいけないことは,薬剤(抗不整脈薬)には限界があるということです.

 抗不整脈薬以外の手段がなかった時代は,極端なことを言えば,それでよかったのです.心房細動は進行を止められずに慢性化しても,すぐに致命的になる疾患ではありませんから.でも今は,そのあとに控えているカテーテルアブレーションという治療がある.そういう順番で考えればいいと思うのです.あとに控えている治療が出てくるタイミングというのは,人によって大きく異なります.特に若い方では「私は,治す治療があるのなら治したいです.この薬を一生飲み続けるということは,治っているとは言えないですから」とおっしゃる方が多い.そういう思いの強い方には,早めにアブレーション治療を行うことになると思います.ただ,薬物治療が順調でご本人もその状態で満足しているような方については,そのまま継続するので全く構わないと思います.

 さらにもう1つ,心房細動は経年的に加齢とともに進行していく傾向が強い病気です.いったん薬剤でコントロールできていても,しばらく経つと同じ薬では効果が不十分になってしまうことは非常によく出合うケースです.そのような薬剤療法の限界がみえてきたときには,いまはその先に控えているアブレーション治療があります.そういう選択肢の一つとして,医師も患者も考えていいのではないでしょうか.

(つづきは本誌をご覧ください)


村川裕二氏
1981年東京大学医学部医学科卒業.東京大学第二内科入局.Johns Hopkins大学,公立学校共済組合関東中央病院内科,東京大学循環器内科助手などを経て,2004年帝京大学附属溝口病院第4内科教授.循環器の薬物治療や心電図関連の著作では「最後のページまで読んでしまう」本にすることをまず第一にしている.

山根禎一氏
1986年浜松医科大学卒業,ジェネラリストを目指して東京厚生年金病院で5年間研修.不整脈の本質を知りたくなり,1991年より東京医科歯科大学大学院(難治疾患研究所)へ.1995年不整脈の根治治療に魅せられ,土浦協同病院にてカテーテルアブレーション修行,1999年より2年間,心房細動アブレーションの聖地,仏国ボルドー大学循環器病院留学,2001年より東京慈恵会医科大学循環器内科勤務.カテーテル先端で不整脈患者と対話することが専門.

中里祐二氏
1980年順天堂大学医学部卒業.1984年同大学院卒業,1991年ドイツMünster大学,1992年フランスJean Rostand Hospital留学,帰国後順天堂大学医学部循環器内科学助手,1995年同講師,2002年助教授を経て2007年より順天堂大学医学部附属浦安病院循環器内科教授,現在に至る.専門分野は不整脈.

杉下靖之氏
1994年東京大学医学部卒業.東京大学医学部附属病院およびJR東京総合病院にて内科臨床研修,循環器内科初期研修を行い,1997年東京大学大学院医学系研究科進学.2001年学位取得後,同年より米国Case Western Reserve Universityに留学.2004年に帰国し,東京警察病院,帝京大学溝口病院第4内科を経て2006年より現職.