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今月の主題●座談会

診療現場での
骨折リスク評価と今後の展望

発言者●発言順
細井 孝之氏(国立長寿医療センター先端医療部)=司会
藤原佐枝子氏(放射線影響研究所臨床研究部)
五來 逸雄氏(国際医療福祉大学熱海病院産婦人科)


 骨粗鬆症の予防・治療の目的は骨折予防であることが,ガイドラインにおいて示されている.骨折予防には,日常診療で骨折リスクをもつ患者を把握し,早期に治療が開始されなければならないが,内科領域ではその取り組みが遅れている.

 本鼎談では,骨折リスクの考え方および骨折リスクをどのように評価し,治療にどう活かすか,また現在開発中の骨折リスク評価ツールFRAXについてお話しいただく.


細井 本日は「診療現場での骨折リスク評価と今後の展望」というテーマで,話を進めていきたいと思います.

 さて,高齢者が増えていくなかで,骨粗鬆症の診療は重要だと言われている一方で,診療にあたる医師の絶対数は増えていないようです.特に内科医の取り組みは遅れています.そこで,骨粗鬆症を防ぐために内科医が果たすべき役割について,考えていきたいと思います.

 2006年10月に「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版」ができました.そのなかでは,骨折予防が骨粗鬆症診療の目標であることが改めて認識されました.そのために必要なこととして,薬物療法を開始するときには,骨量以外にも,骨折リスクを高めるものを考慮する必要があることが掲げられています.つまり,骨折リスクを把握することの重要性が,あらためて周知されたわけです.

■内科領域と婦人科領域における骨粗鬆症診療の現状

細井 先ほど,内科医の骨粗鬆症への取り組みが遅れていると申し上げましたが,それに関するデータがあります.2006年,長寿科学総合研究のなかで骨粗鬆症診療の実態調査が行われました.全国の内科,外科,整形外科,産婦人科の先生方にアンケートを行ったのですが,特に内科領域では,日本骨代謝学会で定められた「原発性骨粗鬆症の診断基準 2000年版」の周知度が4~5割と非常に低くなっています.これは,骨粗鬆症診療の重要性が浸透していないことの現れかと思います.そういったことも背景にして,話を進めたいと思います.

■骨折リスクとは:相対リスクと絶対リスクの考え方

細井 骨粗鬆症は「骨折リスクが高い状態」と定義されますが,まず,骨折リスクの見かた・考え方について,藤原先生,整理していただけますか.

藤原 骨折リスクの表し方には,絶対リスクと相対リスクの2つがあります.相対リスクは,危険因子をもっていない人に対して,もっている人が何倍になるかを表す方法で,危険因子の強さが評価できます.それに対して絶対リスクは,研究対象集団において,ある疾患の発生あるいは死亡の確率を示します.発生率,ライフタイムリスク,10年間の発生確率などが含まれ,危険因子のインパクトの大きさを測ることができます.

 たとえば,危険因子に曝露していない人たちの発生率を10とすると,それが2倍になったときの発生率は20になり,相対リスクは2になります.発生率が100だったものが200になったときも,同じように相対リスクは2になります.ただ,社会的・医療的にインパクトが強いのは,100が200になったときのほうで,それを測ることができるのが絶対リスクです.

細井 「骨折の起こりやすさ」という点からは,たとえば骨粗鬆症の診断を受けた人の骨折の起こりやすさが200であった場合,診断を受けていなければ100にとどまっていることもありえますね.

藤原 ええ,そうですね.

細井 診断を受けているかどうかで,絶対リスクが変わってくるということでしょうか.

藤原 診断を受けているかどうかよりも,疫学的には,むしろ危険因子をもっているかどうかが重要です.危険因子をもっていない人の発生率が100のときに,危険因子をもっていたら発生率(絶対リスク)は200になります.

細井 なるほど.疫学ではなく,診断という点ではいかがでしょう.診断をする場合には,どこかで線を引かなければなりません.

藤原 そうですね.相対リスクでは診断の線を引きにくいため,絶対リスクという考え方が導入されてきているわけです.

(つづきは本誌をご覧ください)


細井 孝之氏
1981年千葉大学医学部医学科卒業,1986年バンダービルト大学医学部血液研究部門研究員,1996年東京大学医学部老年病学教室講師,外来医長,2004年東京都老人医療センター内分泌科部長を経て,2005年より国立長寿医療センター先端医療部長.専門分野は,骨粗鬆症などの骨代謝疾患,老年医学,内科,特に内分泌・代謝疾患.

藤原佐枝子氏
広島大学医学部卒業.1992年に厚生省(現 厚生労働省)長寿科学総合研究事業によりハワイ骨粗鬆症センターに留学.2004年より,放射線影響研究所臨床研究部長.骨粗鬆症・骨折の疫学研究を中心に,日米比較研究,WHOのメタ・アナリシスなどに参加している.第5回日本骨粗鬆症学会学会賞,第3回日本骨粗鬆症学会学術振興賞,骨粗鬆症学会第1回森井賞など受賞.

五來 逸雄氏
1975年横浜市立大学医学部卒業.1985年から2年間,西独マックスプランク研究所免疫遺伝部(チュービンゲン市)に留学.1987年から横浜市立大学医学部産婦人科学講座講師,助教授を経て,2002年より現職.専門分野は,閉経後骨粗鬆症の疫学,診断,治療などの骨代謝学,婦人科腫瘍学など.第4回ノバルティスメノポーズ・アウォード,平成13年度日本更年期医学会学会賞など受賞.