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今月の主題●座談会

しびれ・痛みをどう見切るか?

発言者●発言順

大生 定義氏(立教大学社会学部教授・診療所長)=司会
長谷川和宏氏(新潟脊椎外科センター副センター長)
福武 敏夫氏(亀田メディカルセンター神経内科部長)
関谷 紀貴氏(都立駒込病院感染症内科レジデント)


 「しびれ・痛み」は,患者ごとに多彩な訴えがされること,原因が多岐にわたること,心因性を疑わせる場合の対応が難しいことなど,苦手意識を抱きやすい症状の代表であろう.

 主治医としてどこまで診るべきか,どこから整形外科や神経内科など専門医に委ねるべきか.緊急を要する「しびれ・痛み」から,知っておきたい「しびれ・痛み」,原因を解きほぐして診断に迫る専門医のコツ,長い経過をたどる患者との付き合い方まで,幅広く語っていただいた.


大生 しびれや痛みが原因で受診する患者さんは多いのですが,この感覚で表現される症状は,体の病気からかもしれませんし,心の病気からかもしれません.このメッセージをうまく捉えきれないと,いろいろな問題が起きますし,逆に,うまく捉えることができれば,患者さんのQOL向上の助けになり,そこが臨床医の喜びとなります.

 本日は,神経内科の専門医,整形外科の専門医,そして研修医の先生にお集まりいただきました.まず自己紹介を兼ねて,先生方のお立場や,診療場面でよく出遭うしびれ・痛みについて,お話しいただきたいと思います.

長谷川 整形外科とご紹介いただきましたが,現在は脊椎外科を専門に診ております.当センターでは,脊椎外科外来が独立しておりまして,一般開業医や一般病院で治療を受けても治らない患者さん,つまり半分以上が紹介の患者さんで,ほとんどが手術適応になります.

 患者さんの訴えの多くが,しびれか痛みのどちらかで,ごくわずかに運動麻痺があります.われわれが治せる疾患は,基本的に神経の圧迫性病変です.何かが神経を圧迫しているために症状が出ていることが確定的になったときに,その圧迫を取る,というのが基本的な考えです.末梢神経,脊髄レベル,脳の直下の橋を含めた部位の圧迫性病変を診ます.

 いろいろ調べても圧迫性病変はないという場合があります.そのときにかかわるのが,神経内科領域の病気である多発性硬化症などの変性疾患ですが,これはごく稀です.

福武 私は神経学が好きで,神経しか診ません.とはいえ,general neurologyといって,神経については頭の先から足の先まで,さらには神経以外の臓器も対象とし,なるべく総合的に診ようとしています.

 もうひとつ,正しい診断をしないで薬物治療をしても仕方がありませんし,整形外科など他科へ送るにしても診断が誤っていれば戻されますから,正しい診断を心がけるという,当たり前のことをモットーに診ております.

■患者さんが訴える「しびれ」をどう解釈して診断につなげるか

福武 患者さんが「しびれる」と言ったときには,私たち医師の想像するしびれとは食い違っていることがままあります.ですから,第一関門は患者さんの「しびれ」という言葉を疾患に結びつける作業です.大半は感覚神経が舞台になっており,そのほかのものが影響していても結局は感覚神経の問題に戻ることが多い.しかし,それ以外のもの,例えば“こむらがえり”を患者さんは「しびれる」とおっしゃったりします.「しびれ」の範囲で物事を考えていると,こむらがえりには至りませんね.また,リウマチの“こわばり”なども,「しびれ」と表現しますし,力が入らないことを「しびれ」と言う方もいます.運動麻痺の「痺」の字は「しびれ」ですから,正しいのです.

 そのように「しびれ」は幅の広い言葉ですので,話をよく聴いて,ちょっとした手がかりから診断をしぼっていく必要がある.感覚系なのか,周辺なのか,またその外側に位置するのか,と考えながら診ています.commonなものと稀なものがあり,稀なもののなかには,治りにくいものと,治せるものとがあります.commonなもの,治せるものは見逃さないという立場で,難治性のものはちょっと後回しにするという考え方で診療しています.

 神経内科で診るしびれで最も多いのは,手根管症候群です.次に救急の場面なども入れますと,脳血管障害によるしびれがあります.

 それから,比較的多いもので,よそで診断がつかなくて患者さんが悩んでおられるのはmeralgia paraesthetica(異常感覚性大腿痛)です.知っているとすぐに診断がつくのですが,わからないといろいろな科を回ってしまいます.

 また,最近目立つのはrestless legs syndrome(RLS;下肢静止不能症候群)です.「むずむずする」「アリが這う」という,ある意味で真性のしびれなのですが,問題の根幹は,そのために動き回ってしまうとか,寝られないという点にあります.この場合は,不眠としびれが重なっているかどうか,つまりしびれの周辺に着眼しないと,なかなか診断できません.

 痛みでは,polymyalgia rheumatica(PMR;リウマチ性多発筋痛症)が高齢者では多いです.知っていれば一発でわかりますので,「いままでいろいろな検査や治療を受けたけれども,ちっともよくならなかった」のが,ササッと治せる代表的な病気です.

大生 ありがとうございました.長谷川先生からは,圧迫に関する治療のポイントをお話しいただき,福武先生からは,しびれの解釈をきちんと行う重要性と,見逃しがちな病気を挙げていただきました.続けて関谷先生,お願いします.

関谷 私はいま,東京都立駒込病院の感染症内科でシニアレジデントの研修をしております.しびれは,入院中の患者さんで脊髄炎を合併しているような方にあったりしますが,どちらかというと救急外来で出会う場合が多いです.

 救急外来のしびれでは,緊急性のないものが多いとはいえ,自分1人しかいない場合には,それが緊急性の高いしびれかどうかの判断ができなければいけないと思っています.判断のポイントとなる所見や,手際のよい診察,診断の仕方についてのコツみたいなものを,先生方からうかがいたいと思います.

大生 では,長谷川先生,そのポイントを教えていただけますか.

■急性のしびれ・麻痺をどう診るか

長谷川 大事なことは,処置を急ぐべき疾患かどうかという判断です.脊椎外科の立場から言いますと,すぐに処置をしなければいけない疾患は稀です.当院では,年間四百数十例の脊椎の手術をしますが,そのうち緊急性を要するものは1%くらいです.それが,急性の麻痺です.頸髄,胸髄,腰椎,馬尾でもそうなのですが,急性の麻痺は早く処置をしなければ非可逆的になってしまいます.

(つづきは本誌をご覧ください)


大生 定義氏
1977年北大卒.聖路加国際病院で研修開始.同院内科副医長・医長を歴任.1995年3月の地下鉄サリン事件では緊急治療・対処の計画策定,実施に関与.同年8月に産業医に転身,その間に豪・ニューキャッスル大臨床疫学大学院(通信制)修士課程修了.1999年より,横浜市立市民病院.同院神経内科部長・臨床研修委員会委員長として,診療・教育に従事.2006年より現職.横浜市立大学医学部臨床教授,米国内科学会上級会員(FACP),日本神経学会・神経治療学会・頭痛学会の評議員なども務める.

長谷川和宏氏
1987年新潟大学医学部卒業,1992年米国インディアナ大学生体力学研究センター留学,1999年新潟大学整形外科助手,2002年同講師,2004年聖隷浜松病院せぼねセンター長.2005年より現職.聖隷浜松病院顧問,北京首都医科大学客員教授.専門領域は全脊椎領域における変性疾患,脊柱変形(側弯症),最小侵襲手術(内視鏡手術).日本整形外科学会,日本脊椎脊髄病学会,Scoliosis Research Society,SICOTなど国内外学会所属,各種委員.

福武 敏夫氏
1981年千葉大学医学部卒,同年同大神経内科(平山恵造教授)に入局.関連病院勤務の後,同科助手,講師を経て,2000年助教授.2003年から現職.千葉大臨床教授,同大フロンティアメディカル工学センター研究員を兼務.日本脊髄障害医学会理事,神経学会・脳卒中学会・高次脳機能障害学会などの評議員.専門は神経症候学,脳卒中,頭痛,脊髄疾患.いくつかの新症候の発見,症候空白領域の症候の発見ほか,単一遺伝子による脳血管性白質脳症CARASILを臨床的に確立.

関谷 紀貴氏
2005年,横浜市立大学医学部を卒業.同年4月から横浜市立市民病院で初期臨床研修を開始した.2007年4月からは東京都立駒込病院で内科系シニアレジデントとして,感染症内科を中心に研修中.