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今月の主題●座談会

日常診療・当直で遭遇する
水・電解質異常患者への対応

発言者●発言順

藤田芳郎氏(藤田保健衛生大学腎臓内科=司会)
岩田充永氏(名古屋掖済会病院救急救命センター)
須藤博氏(大船中央病院内科)
徳田安春氏(聖ルカ・ライフサイエンス研究所臨床実践研究推進センター)


 とかく難しい,理解しづらいと敬遠されがちな水・電解質異常。しかし,日常診療および当直で診る機会も多い。本座談会ではMg,P,Na,Kを中心に,2~3年の研修の間に知っておいてほしい知識の『minimum requirement』と,知っておくと便利,こういう覚え方をすると便利ということを,豊富な経験を交えながら総合内科,救急,腎臓内科の各先生にお話しいただいた。


藤田 本日は,研修教育病院においてきわめて臨床経験豊富な総合内科,救急,腎臓の専門家の先生方にお集まりいただきました。水・電解質の知識を実地臨床上どう役立てているかについて,話し合っていただきます。私も勉強させていただこうと思って,大変楽しみにしております。

 岩田先生,研修医は救急で働く機会が多いと思いますが,ご指導なさっている注意点にどのようなものがございますか?

■救急外来で疑うべき電解質異常-マグネシウム(Mg)・リン(P)

岩田 救急外来で,状況から推測し疑わなければいけないのは,Mg異常だと思っています。Mgは時間外では測れないのです。公園で寝ているやせ細った人が運ばれてきて,Kが低い,心電図でQTが延びていて,ときどき心室性期外収縮が多発している場合,背後にMg欠乏の存在を考慮しなければなりません。そのような人には,迷わずにMgを投与するように指導しています。

 時間外で測れない電解質の異常は,臨床症状で疑うしかないのですが,そのなかで特に致命的になるのが,Mgかなと日々感じていますが,いかがでしょうか。

藤田 非常に鋭い点ではないかと思います。低Mg血症,低K血症,低Ca血症,低P血症は,セットになってくることが多いですね。アルコール中毒の方など特に注意しなければなりません。Mgを補正しないと低K,低Caがよくなりません。「救急の現場で測定できない電解質異常を臨床状況から疑う」というのは,臨床における水・電解質の盲点であり臨床の醍醐味ともいえます。

 また,Pも案外忘れやすく,P異常とMg異常は,隠れた注意しなければならない電解質異常ですね。

 岩田先生に,救急外来における盲点を指摘され感銘を受けました。水・電解質異常は通常,採血結果に驚いて「さあ,どうする」と始まることが多いのではないでしょうか?

須藤 そうですね。慣れてくると病歴から予測することもできますが,確定できないことが多いので,採血から始まるのではないかと思います。

■水・電解質異常の診断

1. 身体所見の重要性

徳田 総合内科の立場からお話ししますが,外来,救急,入院を問わず,やはりhistory (病歴), physical (身体所見)を注意深く評価することが,最初のステップだと思います。なかでも,鍵になるのはphysical examination(身体診察)でしょう。細胞外液については,血管内と血管外と3rdスペースがあるので,3rdスペースにけっこう水がたまっていても,血管内は血管内容量低下になっている状況は,一般内科領域で多い。そうなると,かなり全身に浮腫があっても,血管内容量が低下しているという状態がありえる。それを確実に評価するには,やはりphysical examination,なかでも頸静脈と浮腫の性状の評価が重要です。

1)浮腫の評価
 浮腫(edema)の評価について,pitting edema/non-pitting edemaという分類はよくありますが,さらにpitting edemaについてはfast edema/slow edemaという分類があります。pit recovery timeを測り,それが短いedemaをfast edemaといいます。fast edemaのほとんどが低蛋白血症に伴うedemaであるという文献が,1978年の“BMJ”に掲載されています1)。心不全など静脈圧の上昇により起こるedemaはpit recovery timeが長いslow edemaです。

須藤 40秒以上でしたね?

徳田 ええ。pit recovery timeを測りedemaを鑑別して,血管内容量もきちんと評価します。

2)内頸静脈圧の評価
須藤 内頸静脈波の診かたは普段からトレーニングを積み重ねていくことが重要ですが,教えてくれる人が身近にいないと,かなり難しい手技だと思います。イギリス系のphysical examinationのある教科書には,「静脈波形の成分を見つけることは事実上不可能である」と書いてあるくらいです(笑)。

 そこで,特に脱水の患者さんを診たときに「臥位でみえなかったら足りない」,「座位で明らかにみえたらやはり異常」の2つは,研修医に最初に教えるにはよいのではないでしょうか。

外頸動脈で代用できるか
須藤 内頸静脈圧は,外頸静脈で代用してもよいのではないでしょうか。

徳田 そうですね。“Archive of Internal Medicine”に,ICUの患者で外頸静脈でも,中心静脈圧の測定と,かなり一致しているというのが出ていました2)

須藤 ちょうど一昨日当直で,心不全で診た患者さんが,外頸静脈がバンバンに張っていて,内頸静脈波はあまりよくみえなかったんです。それで1日半経って診たら,外頸静脈はそう目立たないけど,今度は内頸静脈の拍動が確かによくみえるようになりました。ほんとうに苦しがっていたときには,あまりよくみえなかったのです。

徳田 外頸静脈波がきちんとみえる人は代用できると思います。しかし,外頸静脈の場合は,静脈弁があって,解剖学的な静脈アングルも2つあるので,圧のtransducingの作用が外頸静脈では不正確になります。実際,外頸静脈,内頸静脈におのおのtransducerを入れて,比較したスタディがありますが,確かに外頸静脈は頸静脈波を評価するにはかなり厳しい。

 ただ,弁が機能不全を起こしている場合には,血管内容量の減少があっても張っていることが意外とあるので,必ず内頸静脈波をきちんと確認する必要があります。しかしながら,収縮性心膜炎や肺疾患があると血管内容量の評価に頸静脈は使えません。たとえばCOPDで重症の場合,肺性心があることが多く,肺性心があるとほぼ全例,三尖弁逆流(TR)がある。ここでTRの重症度をみるのは,やはり内頸静脈圧波形の評価が有効です。しかも,きちんとしたCV mergerがあるかどうかが大事ですので,そうなると波形をみないといけない3)4)

藤田 後ろのv波が高くなるというですね。

徳田 ええ。エックスプライム波(x wave)がなくなります。

 physical diagnosisで有名なSapira先生の理論に「ショパンの法則(Rule of Chopin)」というのがあります。一般の人がショパンのレベルまでのピアノ演奏をすることは無理ですが,だからといって,ショパンの曲はだれにも演奏できないということはないでしょう。事実,ショパンの曲を演奏することができる人は多数います。つまり,physical examinationは医師個人の能力差が大きいため,一般の医師ができないからといって,そのphysical diagnosisの重要性を否定することにはならないというものです。繊細かつきらびやかなショパンの曲のように,内頸静脈を使用したphysical diagnosisには美しさがあります。

エコーを利用する
岩田 救急領域では最近,拍動がみえない分,エコーを活用しています。まず内頸静脈を描出しておいて,ストレッチャーを使って45度座位で細く見え出すところが拍動の最高点になります。そこをエコーで見つける努力をしましょう,という論文があり,研修医はとても興味をもってやっています。

徳田 それを見て,心エコーを見せます。そして,心エコーをやって,また聴診も取る。

須藤 答えあわせですね。

徳田 エコーだけやって聴診をしないと,スキルは依然としてpoorなまま(笑)。そういう訓練もやると,日々のラウンドが面白くなるのかなと思います。

藤田 そうですね。病気を発見するのに,観察力が鋭くなることはとても大事ですね。

 まず患者さんを診るときには,頸静脈からみようというぐらいのつもりで,少し診察しにくいですが,訓練を積む必要があると思います。

■ナトリウム(Na)

1. Na異常の考え方-Naの“量の異常”と“濃度の異常”

藤田 Na異常をみたら,「Na濃度の調節系が異常なのか」,「Na総量の調節系が異常なのか」,それとも「両方が異常なのか」と考えるのが,思考のとっかかりとなります。

須藤 日本語の「脱水」という語は誤解を招きやすく,使い方に注意が必要ですね。よく,「この人,水足りてるのかな」と言いますが,「体液量が足りているのか」ということです。

藤田 とても大事なことです。皆,わりと「脱水,脱水」と言いますが,私はいつも研修医には,「脱Naと言い換えろ」と言っています。もちろん,水が主に喪失していく場合もありますが,ほとんどの場合,脱水は「脱Na」のことで,NaClを入れなければいけない状況です。

須藤 英語の教科書では,水の不足が“dehydration”,Naの不足が“volume depletion”ときちんと分けています。どちらが足りないかを意識して会話をしないと,医師同士が互いに違うことを想定することもあり得ます。

藤田 それが,だんだん「脱水」というあいまいな語になって,薄い液を入れればいいという認識になってきてしまいます。それは間違いではないでしょうか。

須藤 先ほど藤田先生は,「Na濃度の異常」と「Na量の異常」と言われましたが,私は「電解質でNa,K,Clというが,水も電解質の一つと考えるように理解しなさい」と教えます。そうすると,「Na濃度の異常(低Na血症,高Na血症)」は水(という電解質)の出し入れの異常である。「Na量の異常」はNaの出し入れの異常で,これが浮腫や,いわゆる脱水症(volume depletion)である,というふうに二次元で考えればすっきりします。

 この部分はすごく理解しにくいところで,研修医もなかなかわからないのですが,その山を越えると同時に輸液のこともわかるようになると思います。

藤田 いまの須藤先生のお話,「水は電解質の一つと考えるように理解しなさい」というのは卓見で驚きました。

須藤 自分なりに「こうやって理解したらいいんだ」ということがわかって作ったマトリックス(図1)があります。「Na量の異常」は,実は身体所見がいちばんのマーカーになるんですね。そして,「Na濃度の異常」,つまり水の出し入れの異常は,簡単にいうとNa濃度をみればいいのです。

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)Henry JA, Altmann P:Assessment of hypoproteinaemic oedema;A simple physical sign. Br Med J 6117:890-891, 1978
2)Vinayak AG, et al:Usefulness of the external jugular vein examination in detecting abnormal central venous pressure in critically ill patients. Arch of Intern Med 166:2132-2137, 2006
3)Cha SD, et al:Diagnosis of severe tricuspid regurgitation. Chest 82:726-731,1982
4)Emi S, et al:Relationship between regurgitant flow dynamics and cardiac physical in tricuspid regurgitation;A phono-, mechano- and Doppler echocardiographic study. J Cardiol 20:669-683, 1990


藤田芳郎氏
1984年名古屋大卒。慶応大内科研修後,中京病院で腎臓内科研修。1999年から中部労災病院で感染症,リウマチ,救急医学,循環器,水電解質を中心として,日本内外のすばらしい先生から内科全体の教えを受けながら内科臨床に従事。2007年1月から,藤田保健衛生大学腎臓内科で腎臓内科勉学中。

岩田充永氏
1998年名古屋市大卒。2年間のローテーション研修後に,内科全般および老年医学を研修。現在,名古屋掖済会病院救急救命センターにて,小児から高齢者まで,軽症から重症まですべての救急疾患の初期診療を担当するER専従医として勤務。

須藤博氏
1983年和歌山県立医大卒。茅ヶ崎徳洲会総合病院で5年間の内科研修後に,米国Good Samaritan Medical Centerなどで腎臓内科の臨床研修。その後,指導医として勤務。1994年より池上総合病院内科,2000年より東海大学医学部総合内科。2006年4月より現職。現在の病院でよい総合内科研修システムを作ることが目下の大きな目標(一緒に新しいものを作ろうという熱意ある若手を募集中)。

徳田安春氏
沖縄県生まれ。1988年琉球大卒。沖縄県立中部病院総合内科を経て,2006年より聖ルカ・ライフサイエンス研究所臨床実践研究推進センター副センター長。ハーバード大学大学院MPH,医学博士,日本内科学会認定内科専門医,日本プライマリケア学会認定指導医,FACP,東邦大学総合診療急病講座非常勤講師。