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今月の主題●座談会

メタボリックシンドロームと
仮面高血圧を考慮した
高血圧個別診療の展開に向けて

苅尾七臣氏=司会
自治医科大学
循環器内科
山口 徹氏
虎の門病院院長
灰本 元氏
灰本クリニック
志水元洋氏
萩市国民健康保険
福川診療所


メタボリックシンドロームと冠動脈の関連は?

苅尾 現在,糖尿病が指数関数的に増えつつあり,それを背景にした糖負荷による昇圧というものが問題になってきています。特にメタボリックシンドロームは,冠動脈との関連性が非常に重要であると考えられますが,循環器ご専門の山口先生は,そのインパクトについて,どのような印象をおもちですか。

山口 冠動脈疾患にとっての危険因子は,従来からたくさん挙げられていますが,メタボリックシンドロームの危険因子として挙げられているものは,コレステロールを除いて,冠危険因子とほとんど一致します。冠危険因子の肥満に関連する部分をとりあげて,わざわざメタボリックシンドロームとする意義は何なのか,疫学的なデータの面ではどこに根本的な違いがあるのかとの印象はありますね。従来の冠危険因子が重積した状態だと考えてはいけないのかと思うのです。

 冠動脈インターベンションやバイパスの進歩によって,心筋の虚血を改善することは非常にやりやすくなりました。したがって冠動脈疾患の患者さんの外来での治療の大きな目的は再発防止であり,二次予防になります。冠危険因子のうち,高血圧と高コレステロールは,比較的薬物治療でコントロールできますから,肥満と糖尿病が問題の中心にあるわけです。

 その意味でメタボリックシンドロームを考えてみると,そのケアを考えるうえで,ただ単に個々の因子を薬物治療でコントロールするだけではなく,その元にある肥満に対して,食事療法や運動療法という生活指導をさらに強調し,従来の並列的な冠危険因子という概念から,生活習慣というところに視点を移させた点ではメタボリックシンドロームのインパクトは大きく,意義があるのではないかと思います。

 特に病気の大元が運動不足や食生活であるということに患者さんの関心を向けさせたという点では貢献していると思います。

苅尾 一次予防でもそうですし,先生が言われているような患者さんの二次予防に関しても,いえるということですね。

肥満との相関関係は糖尿病以上

苅尾 開業医の代表として,灰本先生はいかがですか。

灰本 私も山口先生に同感で,今ごろなぜこの症候群が登場したのかよくわからないところがあります。個別にいえば,どれも以前からわかっていたことです。

 しかし,最近Tannno-Sobetu studyのデータでは高血圧値を調整すれば,メタボリックシンドロームのほかの因子だけでは死亡率は上がらないと聞きました。やはり一番重要なのは高血圧という点では皆さん一致していると思うのです。

 それから,肥満と高血圧の関連についてですが,当院の高血圧患者400人を腹部CTで内臓脂肪と皮下脂肪を測定してみると,男性の実に2/3,女性の1/3が内臓脂肪100cm2以上です。女性では男性とは逆に皮下脂肪型肥満が2/3を占めています。肥満は糖尿病よりもむしろ高血圧と強い相関があります。メタボリックシンドロームでは最も重要なのは高血圧を治療することですが,肥満をコントロールすることによってできるだけ高血圧の薬を減らすことを,常々心がけています。

苅尾 一次予防の観点からですね。

灰本 そうです。体重を3~4kg落しただけでも薬は減らせます。血圧を下げるために肥満をコントロールすると,薬は減らせるんです。そこに重点を置いて外来をやっています。

運動療法は一次予防で壮年期に

苅尾 志水先生は自治医大の卒業生で,現在は僻地診療をされていますが,メタボリックシンドロームをどのように捉えておられますか。

志水 私のところでもそういった危険因子の集積している患者さんは多いです。食事に関しては,炭水化物や脂質の摂取を控えていただいたり,規則正しい食生活をしていただいたりすることで,ある程度の改善はみられるように思います。しかし,受診される方の年齢層が高く,変形性膝関節症などで膝を痛めていたり,腰痛症を患っていたりする方が多いので,運動療法についてはどういったアプローチをすべきか悩むことがあります。

灰本 高齢者に運動療法は無理ですよ。ここにいる私たちがどのくらい運動をしているかを考えてみたらわかることです(笑)。それに,運動をやめたとたんに体重は戻りますでしょう?

山口 高齢者にとって,運動というのは,そう簡単な話ではないですよね。むしろ一次予防で,中年の人に対してもっと強調すべきでしょうね。

 高血圧は薬である程度は下げられますが,薬物で下げてそれでこと足れりとしていたわけではなく,これまでも「運動指導,食事指導が大切」だとは言ってきました。でもやはり薬で下がってしまうと「まずは薬を飲みなさい」「血圧を測りなさい」になる。そこをもう一歩踏み込んで,「運動と食事が問題ですよ」というところにピントを合わせさせたのは,メタボリックシンドロームの功績の1つであると思います。

苅尾 メタボリックシンドロームの高血圧基準も,ちょっと低めにされていますよね。いわゆるpre-hypertensionの状態で,人生の後期ではなく,もう少し壮年期にフォーカスを当てて,そこから肥満を抑制しようということがあると思います。

診察室の情報でわかること,やるべきこと

苅尾 では,実際に高血圧の人が外来に来られたときに,どう診ていったらよいかについてディスカッションをしたいと思います。

(つづきは本誌をご覧ください)


苅尾七臣氏
1987年自治医科大学卒業,1988年国保北淡診療所,1996年自治医科大学循環器内科学講座助手,1998年コーネル大学循環器センター・ロックフェラー大学Guest Investigator,NYマウントサイナイ医科大学循環器センター助教授。帰国後,自治医科大学循環器内科学講座講師を経て,2005年よりコロンビア大学メディカルセンター客員教授,自治医科大学COE/内科学講座循環器内科学部門教授,専門は循環器内科,高血圧。

山口 徹氏
1967年東京大学医学部卒業。71年東京大学第1内科に入局。三井記念病院を経て,73年東京大学医学部助手,76年筑波学園病院内科医長,79年筑波大学臨床医学系内科講師(循環器内科),82年三井記念病院循環器センター内科科長,84年同部長。92年東邦大学第3内科主任教授,2002年より現在の虎の門病院院長。日本循環器学会理事長。専門は虚血性心疾患の診断と治療。

灰本 元氏
1978年名大卒,関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)内科レジデント,名大大学院病理学,愛知県がんセンター研究所病理部,中頭病院(沖縄市)内科勤務などを経て,1991年愛知県春日井市に灰本クリニック開業。高血圧,胃大腸内視鏡,炭水化物制限食による糖尿病と肥満の食事療法,アトピー性皮膚炎,カウンセリング,漢方治療などに診療の特徴。毎月の高血圧患者数は1100人。

志水元洋氏
2003年自治医科大学医学部卒業。山口県立中央病院(現,山口県立総合医療センター)にて2年間研修。2005年より,萩市国民健康保険福川診療所に勤務している。卒後3年目で僻地診療所に赴任し,診療面で思い悩むこともあるが,日々充実した時間を過ごしている。