今月の主題

糖尿病診療Update
いま何が変わりつつあるのか

小田原雅人(東京医科大学内科学第三講座)


 最近,糖尿病罹患者数は世界的に著明に増加する傾向があり,特にアジア地域は,今後とも糖尿病罹患者が著増すると考えられている.わが国も例外ではなく,2007年の国民健康・栄養調査によると,糖尿病罹患者は890万人,予備軍は1,320万人と報告されている.糖尿病患者においては,慢性合併症の予防が非常に重要な課題であり,生活習慣の改善は,すべての患者に指導する必要がある.前向きのコホート研究や糖尿病の発症予防試験も数多く報告され生活習慣の改善が糖尿病の発症抑制に有効であることも示されてきた.

 糖尿病発症後の患者においては,細小血管症と大血管障害の両方の合併症の予防が重要であることは論を待たない.近年,エビデンスに基づく治療が推奨されるようになり,糖尿病領域においても,1型糖尿病を対象とした大規模前向き臨床試験のDCCT,2型糖尿病を対象とした大規模臨床試験UKPDSをはじめとして,PROactive,ACCORD,ADVANCE,VADT,RECORDなどの無作為化前向き臨床試験の結果が数多く報告されてきている.例えば,新たに2型糖尿病と診断された患者を対象としたUKPDSでは,血糖管理と血圧管理の両方を同時に行うことが細小血管症や心筋梗塞の発症・進展抑制に重要であると明らかにされた.一方,大血管障害の発症・進展抑制には血糖管理や血圧管理だけでなく脂質異常症も含めた危険因子の多面的な管理が重要視されるようになってきている.またUKPDSの長期追跡試験の結果より,血糖管理は早期から行うことが重要であると明らかになってきた.そのほか,さまざまなメタ解析も報告されており,薬剤間の比較など,最新のデータの解釈も重要度が増してきている.

 糖尿病の治療の進歩は著しく,インスリン治療薬やデバイスの進歩によって,1型,2型糖尿病のいずれに対しても,さまざまな種類のインスリン療法が比較的早期から可能になってきている.さらに,2型糖尿病治療に関しては,既存薬に加え,新たな作用機序を有する治療薬も登場してきている.DPP4阻害薬やGLP-1受容体作動薬は,世界的にも大変期待されている新薬であり,アウトカム試験も現在進行中である.加えてSGLT-2阻害薬など,新しい機序の薬剤も数多く開発されている.

 糖尿病の罹患者数の増加により,プライマリ医にとっても研修医にとっても糖尿病患者のケアが非常に重要な課題となっているが,治療の複雑化とあいまって,どのような対象者にどのような治療を施すかについて,十分な知識が求められている.本特集は,糖尿病の分類,病態,合併症,治療法などについて包括的に理解できることを目的として企画した.投薬が必要でない糖尿病から経口薬の単剤または多剤併用が必要な糖尿病の治療,さらにはインスリン治療が必要な方への対処など,いろいろなステージの糖尿病患者の治療に役立つようできるだけ広い範囲の最新情報を紹介していただいた.座談会では,生活習慣の改善について,具体的にどのようなことが重要で,どのような効果があるのか,専門家の見解を掲載している.

 先生方の実際の診療に役立てていただければ幸いである.