今月の主題

酸塩基・電解質
日常で出くわす異常の診かた

柴垣有吾(聖マリアンナ医科大学病院腎臓・高血圧内科)


 「酸塩基・電解質」というタイトルで,この雑誌を手にとられた方の気持ちはどんなものなのであろうか?「うわっ.苦手だけど,よく遭遇するしなぁ.少しはためになること書いてあるかな??」という感じだろうか.

 酸塩基・電解質に初めて触れたときのことを思い出すと,確かにとっつきにくい印象を感じたのを覚えている.

 しかし,私がラッキーだったのは,カナダ・トロント大学のHalperin博士の“Fluid, Electrolyte, and Acid-Base Physiology”(Saunders)という本に出合ったことだと思う.

 その本は病気からではなく,まずは正常の生理学(体液恒常性の維持機構)から始まり,症例を紹介するなかで,病態生理に進んでいくという構成だった.Halperin博士の本はやや極端ともいえるアプローチで独自の世界をもっていたこともわかりやすかった理由の一つであるが,生理学で自分自身の体で起こっていることに関連づけて興味をもたせ,患者の病態を説明する方法がすばらしいのだと思う.

 本特集ではそういう意味も込めて,まず最初に生理学の基礎的な解説にページを割いている.これは,いきなり病態ではなく,自分たちの腎臓がどのようにして体液恒常性を維持しているかを知るほうがとっつきやすいと思うからである.

 それ以降の構成に関しても,身体所見や検査についてもあえて独立させ,治療については各電解質別でなく,遭遇する場面別(診療科別)の構成にすることで,より実践的なものにするよう心がけた.

 また,最近の電解質異常に医原性のものがいかに多いかを知っていただき,このような防げる病気を減らしたい意図から,医原性の電解質異常にかなりのページを割いた.

 本特集がHalperin博士の本のような独自の世界感をもった魅力ある特集と受け止めていただけることを願っている.