今月の主題

ウイルス肝炎 日常診療のポイント

四柳 宏(東京大学医学部感染症内科)


 C型肝炎ウイルスの遺伝子配列が初めて公表されたのは1989年のことである.20年経った今日,C型肝炎に関する研究は急速に進歩し,臨床に大きな恩恵をもたらした.これらの研究の多くの部分が日本人によって行われた点も特筆すべきことであろう.目立った症状,徴候を示さないまま多くの人を肝硬変,肝細胞癌まで追いやるこの病気を有効に抑え込む方法が少しずつ明らかにされつつある.

 C型肝炎の四半世紀前に発見されたB型肝炎ウイルスは,抗ウイルス療法もワクチンも整ったものの,全世界で3億人が感染しており,撲滅にはほど遠い現状である.ウイルスそのものに関してもC型肝炎同様,新しい事実が明らかにされ,それに応じた対策が立てられつつある.

 これらのほかにも経口感染するウイルス肝炎としてA型,E型がある.今,隣の韓国ではA型肝炎の流行が起きており,免疫を保有しない年代層が重症の肝炎にかかっている.また,E型肝炎も重症例が発生している.数は少ないものの,これらの肝炎に対してよく理解しておくことも大切である.

 生活習慣病が最近話題になっているが,その肝臓における表現型が“NAFLD(non-alcoholic fatty liver disease)”である.その病態にはC型肝炎との類似点が多く,ウイルス肝炎の視野がさらに広がりつつある.

 『medicina』誌では,およそ3年に1度ウイルス肝炎に関する特集が組まれている.本号では以上のような進歩を中心に,ウイルス肝炎の分野の若手のリーダーの先生方に執筆をお願いした.企画にあたっては,ウイルス肝炎を専門としない先生方にも最近の進歩が理解していただけるように心がけたつもりである.

 本号が読者の方々の明日からの診療に役立つことを心から願っている.