今月の主題

内分泌疾患を診るこつ

出雲博子(聖路加国際病院内分泌代謝科)


一般病院で,一般内分泌代謝外来をやっていると,いろいろな内分泌疾患の患者さんが紹介されてくる.初めから自分が内分泌代謝疾患をもっているのではないかと思った患者はほとんどいない.どこか悪いので医者にかかりたいのだが,何科にかかったらよいのかわからなかったというケースが多い.そして,たまたま最初に受診した医師が内分泌疾患を疑ってくれれば運が良くて,すぐ内分泌科に紹介され,われわれ内分泌専門医は“2番目にかかった医者”となる.しかし,多くの患者さんが「4つか5つの科にかかってみたのですが,何ともないと言われ,先生は5人目です」などとおっしゃる.それは,医師であっても,症状から内分泌疾患を疑うのが苦手な医師が多いことを意味するのだと思う.

病気には,癌などのように発見するのは比較的ストレートにいくが治すのが難しいタイプの病気と,いったん発見されさえすれば治療はストレートだが発見されずに見逃されやすいタイプの病気とがある.内分泌疾患は後者に入るものが多い.

その理由は,ほとんどの内分泌疾患で,病気のある場所と症状の出る場所が異なることにあると思う.すなわち,心筋梗塞では心臓のある部分が痛むことが多く,胃潰瘍では胃の部分が痛むことが多いが,副甲状腺腫で副甲状腺が痛むことは皆無であり,プロラクチノーマでも下垂体が痛むことは皆無である.それは,内分泌臓器が機能を有するホルモン産生臓器であり,その臓器の異常は,その臓器が産生するホルモンの作用部位の症状として現れるからである.したがって,各ホルモンの作用機序をよくわかっていなければ,症状から,病巣部位を判断することができないのである.

内分泌疾患は決して珍しくない.特に女性においては冠動脈疾患よりずっと頻度は高い.内分泌疾患は一度診断さえ正しくすれば,治療可能なものが多く,かつ,患者のQOLは治療により著明に改善するのが普通である.精査をいろいろしても治らない病気とは異なり,医師として,治療し甲斐のある病気が多いのである.それには,まずは見つけることである.

内分泌専門以外の医師が,そのための“こつ”を学ぶのに,この特集がお役に立てば幸いである.