今月の主題

肺血栓塞栓症
-見逃さず迅速かつ的確な対応を

山田典一(三重大学大学院医学系研究科循環器内科学)


肺血栓塞栓症は,わが国で増加していることが指摘されている.また,本疾患の原因である深部静脈血栓症の入院患者における発生頻度は危険因子を有する場合には,日本人でも欧米人と大差のないことが明らかにされてきている.

増加している病院内発症を減少させるために,2004年にはわが国でも予防ガイドラインが公表され,厚生労働省により肺血栓塞栓症予防管理料が承認された.以降,入院患者に対する一次予防が急速に普及したものの,日本麻酔科学会のアンケート調査では周術期の肺血栓塞栓症による死亡率は予防策導入後にも改善していないこともわかってきた.今後,本症による死亡率を減少させるための対策としては,さらに各症例に適した一次予防を普及させるとともに,発症後の早期診断と早期治療の徹底が不可欠である.

これまでにも肺血栓塞栓症を診断するには,とにかく疑ってみることが重要であることは繰り返し言われてきているが,いまだ十分に認識されているとはいいがたい.

本特集では,肺血栓塞栓症の病態や危険因子といった基礎知識をはじめとして,早期診断につなげるための本疾患を疑うべきポイント,的確に確定診断へつなげるための診断のコツ,診断後の初期治療の選択方法から慢性期治療,さらには一次予防の現状と将来展望に至るまで,一般内科医を含めた読者に十分ご理解いただけるように内容や構成に工夫した.また,いまだに原因が十分には解明されていない慢性肺血栓塞栓症と急性肺血栓塞栓症との関係や診断法,治療法についても解説いただいた.

本特集をご通読いただくことで,少しでも肺血栓塞栓症の発症率や死亡率減少につながる新知見を見いだし,日常臨床にお役立ていただければ幸いである.