今月の主題

炎症性腸疾患と機能性腸疾患
病態の理解と求められる対応

松本誉之(兵庫医科大学内科学下部消化管科)


 近年,生活習慣や食事習慣の欧米化に伴い,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)ならびに機能性腸疾患が増加している.狭義の炎症性腸疾患である,潰瘍性大腸炎は9万人を超える登録患者数があり,特定疾患の要件である5万人以下の希少難病という規定を超えつつあり,一般病院で診断や治療をすることが普通になってきている.一方Crohn病は約2万5000人程度とまだ多くはないが,こちらも一般病院で診療することは稀とは言えなくなってきている.他方,現代のストレス社会を反映して,腹痛や下痢便秘などを主訴とする過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)に代表される機能性腸疾患は増加が著しく,最近の調査では,一般病院の内科外来を受診する人の20~30%にIBSを疑わせる症状があると報告されている.IBDとIBSは典型例では鑑別や診断はそれほど困難ではないが,軽症例などでは必ずしも容易ではない場合もある.本特集ではその両疾患について,背景となる疫学や病態などを理解していただき,それに基づいた診断と治療に役立つような構成を目指した.

 特に,症候からIBDを疑うのか,発症初期に感染性腸炎との鑑別をどのように行うのかなどは重要な点であり,臨床診断のみならず内視鏡の点からも鑑別のポイントを理解できるようにした.診断の後の治療方針の決定に当たっては,エビデンスに基づき,かつある程度標準化を図っていくことが重要である.もちろん現在あるエビデンスだけでは実際の患者さんの治療にそのまま適用することが難しい場合もある.そこで,厚労省研究班で作成した治療指針やガイドラインを基にして,重症度や臨床病型・内視鏡像などと,これまでのデータや経験などを加味した形で適正な治療を行う必要がある.

 また,このような治療指針に従った治療法で十分な治療効果が得られないことも少なくない.内科治療の限界の判断や外科治療の実際,さらに専門医へのコンサルトのタイミングが重要である.そのためには,通常治療以外に使用される新たな治療法の実際と治療成績ならびに注意点,あるいは外科治療の方法と治療成績などを理解し,患者さんに情報提供を行って意志決定を支えるようにしていく必要がある.このような点についても専門医から解説していただいたので,本特集が,IBDやIBSの実地診療に役立つことを期待している.