今月の主題

内科医が診る骨粗鬆症
防げる骨折を防ぐための骨粗鬆症診療

細井孝之(国立長寿医療センター先端医療部)


 最近,骨粗鬆症の診療実態に関する全国的なアンケート調査をさせていただく機会があり,そのなかで骨粗鬆症の診断基準に関する周知度を確かめる項目があった(厚生労働科学研究費補助金・長寿科学総合研究事業「骨粗鬆症性骨折の実態調査および全国的診療データベース構築の研究」主任研究者:折茂 肇).骨粗鬆症の診断基準があることを知っているかという問いに対して,知っているとの回答は内科医の約40%から得られたが,整形外科医の90%台とは大きな差が認められた.内科については専門分野を問わない調査であったために,例えば代謝・内分泌系に絞った調査を行えば,もっと高い数字が得られたかもしれない.しかしながら,内科領域における骨粗鬆症に対する取り組みはまだまだであると考えざるを得ない.

 骨粗鬆症の予防と治療は,骨折の予防を最大の目標としている.しかしいずれにせよ,内科診療の現場では骨折を意識した診療のきっかけを捉えることが難しい.その反面,内科診療こそが骨折予防の機会であることが望まれている.骨粗鬆症診療を意識しないで日常診療を進めることは,骨折リスクが高まっている患者を目の前にしながら,見過ごしていることでもある.

 高齢者人口の増加はわが国のみならず世界的な現象であるが,北欧や北米の各国において大腿骨頸部骨折の発生頻度がここ数年で減少傾向にある.その要因に関する詳細な検討はまだされていないものの,骨量測定を軸とする診断体制の確立とその普及,骨吸収抑制薬による薬物療法の効果などの関与が想定されている.わが国においても,骨粗鬆症における予防と治療の重要性がさらに啓発され,特に内科領域での裾野が広がることが期待される.正しい診断と治療によって防ぎうる骨折があること認識し,実行していく,という流れが確立されなければならない.

 本特集では,骨粗鬆症診療の意義,骨粗鬆症の病態,診断,予防と治療などについて,第一線でご活躍の先生方にわかりやすく解説していただいた.全体をみていただくとお気づきになることと思うが,骨粗鬆症は複数の診療科が取り組む学際的テーマである.医療機関内,また医療機関の間での連携により,骨折発生抑制を目的とする骨粗鬆症診療を前進させることが,わが国における骨粗鬆症性骨折の減少に結びつくであろう.そのなかで内科医の果たす役割は大きく,本特集が内科実地医療の現場で役立つことを期待する.