今月の主題

動脈硬化のトータルマネジメント

前村浩二(東京大学循環器内科)


 近年,ライフスタイルの欧米化に伴い,肥満,高脂血症,糖尿病,高血圧などの生活習慣病が増加し,その結果,虚血性心疾患,脳梗塞,閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化を基盤とする疾患が増加している.血管を臓器としてとらえた場合,その占める体積は体内のどの臓器よりも大きく,血管は全身で最も大きな1つの臓器とも考えられる.実際に虚血性心疾患,脳梗塞,閉塞性大動脈硬化などの動脈硬化性疾患は同一患者に合併することが多いため動脈硬化を全身病として捉え,個々の疾患を別々に扱うのではなく,全身の動脈硬化の予防,治療を念頭に置いた診療が必要であるといえる.

 動脈硬化の進展には高脂血症,糖尿病,高血圧,喫煙などの危険因子が関与していることはよく知られているが,最近,メタボリックシンドロームや炎症,酸化ストレスの観点から動脈硬化のメカニズムが明らかにされてきている.このことから,動脈硬化予防のためには危険因子に個別に対応するのみでなく,動脈硬化に至る過程のなるべく上流で予防,治療をするように流れが変わりつつある.実際に糖尿病に対して,単に血糖のコントロールのみでなく,インスリン抵抗性を改善するPPARγアゴニストなどの新しい治療薬を用いることで,心血管イベントの発症が抑制されることが明らかになっている.

 動脈硬化は,青年期からすでに始まっており,加齢とともに進展することが知られている.したがって,いかに血管を若く保つかが,動脈硬化性疾患の発症予防につながると考えられる.動脈硬化の検査法は最近大きく進歩し,脈波伝搬速度(PWV)などの機能検査や頸動脈エコーなどの画像検査は人間ドックのレベルでも普及している.そしてその確度にはまだ改善の余地はあるものの,全身の「血管年齢」として表示されることで,患者が自身の動脈硬化の進展度に関心をもち,早期から動脈硬化予防に取り組むことに貢献している.

 このような最近の変化に対応して,本特集では動脈硬化を全身病として捉えて診療していくことを目指し「動脈硬化のトータルマネジメント」として企画し,動脈硬化診療と研究の第一線でご活躍の先生方に解説をお願いした.この特集により,動脈硬化のメカニズム,診断,検査法の進歩とその解釈,予防,治療法の最近の動向について理解していただければ幸いである.なお,個々の虚血性心疾患,脳血管疾患,大動脈疾患などの動脈硬化性疾患の診療については本特集号で網羅するのは困難なので,過去の『medicina』のそれぞれの特集号をご参照いただきたい.