今月の主題

認知症のプライマリケア

宇高不可思(住友病院神経内科)


 認知症(痴呆症)とは,一定水準にまで発達した知能が後天的な疾患により障害され,生活に支障をきたすようになった状態である。原因疾患のうちで最も多いものは神経変性疾患であるアルツハイマー病,脳血管障害による血管性認知症の二者であり,レビー小体型認知症がそれに次ぐ。治療可能なものもあるが,大部分は緩徐進行性で,生命予後も数年ないし十年程度に過ぎない。進行につれて周辺症状やADLの低下をきたすため,周辺症状の緩和,ADLを少しでも長く維持すること,介護負担の軽減が主な課題となる。

 85歳ぐらいまで長生きすると1/3ないし半数もの人がアルツハイマー病を発症するといわれる。その原因はまだ完全には解明されていないが,注目されるのは,生活習慣病としての側面,すなわち脳血管障害の危険因子である高血圧や糖尿病,高脂血症などがアルツハイマー病の危険因子でもあるらしいことである。アミロイド仮説に基づく原因療法のほかに,血管系危険因子への治療介入によって発症,進展を多少とも抑制できる可能性が開けてきたことは,大いに期待されよう。

 少子高齢化が未曾有のスピードで進みつつあるわが国において,認知症の診療と介護は大きな社会的課題である。医師は必ず何らかの形で認知症の診療にかかわることになるので,新医師臨床研修制度のカリキュラムにおいても認知症のプライマリケアを重点的に学ぶ必要がある。認知症は,私たちや家族も含め,誰でも罹患しうる疾患であり,身近な問題として関心をもっていただくよう読者の皆さんに期待したい。