今月の主題

高血圧の臨床
焦点の合った個別診療へ向けて

苅尾七臣(自治医科大学循環器内科)


 高血圧は脳卒中や心筋梗塞をはじめとするあらゆる循環器疾患の強力なリスク因子である。降圧療法により,そのリスクが明確に減少することが証明されており,近年,国内外の多くの高血圧治療ガイドラインが発表されている。

 これまでに蓄積されつつある高血圧の臨床研究のエビデンスから得られる重要なポイントは,(1)24時間にわたる厳格な降圧の重要性と,(2)高血圧をメタボリックシンドロームの一つとして捉えるという2点である。

 一点目に関して,血圧レベルは24時間にわたり絶えず変動しており,診察室の一時点で測定した血圧レベルよりも,診察室外で測定した血圧レベルの平均値のほうが,より正確に心血管リスクに関連していることが知られている。家庭血圧測定や24時間血圧モニタリングを用いて診察室外の血圧の測定が行われるに至り,そのレベルと診察室血圧との差から,「白衣高血圧」や「仮面高血圧(逆白衣高血圧)」などの日常高血圧診療に直結した臨床概念も生まれてきている。また,診察室外の特定時間帯の血圧レベルが他の時間帯よりも高値を示す「夜間高血圧」や「早朝高血圧」などの病態が,高血圧患者のなかでもさらに心血管予後の悪いハイリスク群であることが明らかになりつつある。

 二点目に関して,メタボリックシンドロームは近年の生活習慣の欧米化とともにわが国においても増加してきており,高血圧のリスクも他のメタボリックリスクと相乗的に考える必要が出てきた。臓器障害やメタボリックリスク因子を有する患者の血圧レベルはさらに厳格に管理する必要があるが,個々の高血圧患者の病態の把握なくして,厳格な24時間降圧と最大限の循環器疾患のイベント抑制は達成し難い。

 本号では,これらの現状を十分に認識され循環器領域の臨床ならびに研究でご活躍中の先生方に,高血圧の臨床に必要な基本的知識から,個別病態把握につながる最新の知見までを幅広く整理していただいた。本号内容を明日からの焦点の合った個別高血圧診療の実践に生かしていただければ幸いである。