HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻8号(2007年8月号) > 連載●Case Study 診断に至る過程
●Case Study 診断に至る過程

最終回テーマ

似て非なるもの

松村正巳(金沢大学医学部付属病院 リウマチ・膠原病内科)
北島 進(石川県立中央病院 腎・膠原病内科)


 本シリーズではCase Studyを通じて鑑別診断を挙げ,診断に至る過程を解説してきました.いよいよ最終回の患者さんです.どこに着目して鑑別診断を挙げるか,次に必要な情報は何か,一緒に考えてみませんか.

病歴&身体所見

42歳,女性

主訴:発熱,発疹
現病歴:バセドウ(Basedow)病,関節リウマチで通院中であったが,3日前から40Cの発熱,嘔吐,下痢(1日3~4行)が出現した.2日前の夕方に救急外来を受診し,細胞外液補充液(ヴィーンD®)500mlの点滴をうけ,ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®)坐薬が処方されたが,症状は改善しなかった.さらに,同日夜から顔から体にかけて発疹が出現した.翌日には動けなくなってしまい,救急車で搬送され入院となった.
既往歴:28歳からバセドウ病,41歳から関節リウマチの治療をうけている.36歳時には甲状腺クリーゼを発症している.41歳時に胸膜炎と原因不明の蕁麻疹の既往あり.
薬剤アレルギーの既往はなし.輸血歴はなし.
家族歴:特記事項なし.
嗜好:たばこは吸わない.アルコールは機会があれば飲む程度.ペットはいない.海外渡航歴なし.主婦である.
内服薬:シメチジン(タガメット®)200mg/日,ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®)50mg/日,プレドニン2.5mg/日,サラゾスルファピリジン(アザルフィジンEN®)1,000mg/日,チアマゾール(メルカゾール®)5mg/隔日投与
アザルフィジンEN®は,10日前から関節リウマチに対して処方開始された.メルカゾール®は飲み忘れることなく服用していた.
身体所見:血圧86/40mmHg,脈拍120/分,整,体温40.5℃,呼吸数24/分.
体格中等度.意識清明だが,かなり消耗している.顔面,体幹,大腿部にびまん性の紅斑を認め,紅皮症の状態である(図1).黄疸なし.両側の眼球突出を認める.耳,鼻は異常なし.咽頭, 扁桃に発赤,出血斑,白苔などの所見はなし.両側後頸部に径1cmのリンパ節をおのおの2ヶ触知する.消しゴムくらいの硬さで圧痛,癒着なし.左右対称性の甲状腺腫大を認める.頸静脈の怒脹はなし.呼吸音に異常なし.心拡大なし.I音やや減弱,心尖部にgrade2の汎収縮期雑音を聴取する.III音は聴取しない.腹部に圧痛なし.肝を右季肋下に2cm触れる.脾臓をわずかに触知する.腋窩,鼠径部のリンパ節は触知しない.四肢の関節の変形なし.項部硬直なし.その他,神経学的異常は認めない.

 さて,いかかがでしょうか.まず病歴,身体所見から問題点を重要なものからすべて挙げて,鑑別診断を考えてみたいと思います.検査をオーダーする前にどこまで診断にせまることができるかチャレンジしましょう.

プロブレムリスト

  1. 発熱(高熱)
  2. 頻呼吸
  3. 頻脈
  4. I音減弱,心尖部にgrade2の汎収縮期雑音
  5. 頸部のリンパ節腫脹
  6. 肝,脾腫
  7. びまん性紅斑
  8. バセドウ病,甲状腺クリーゼの既往
  9. 嘔吐
  10. 下痢
  11. 関節リウマチの既往
  12. 胸膜炎の既往
  13. 原因不明の蕁麻疹の既往

(つづきは本誌をご覧ください)


松村正巳
1986年に自治医科大学を卒業し,石川県立中央病院でローテート研修後,奥能登,白山麓など県内諸国巡業の旅に出ました.数年前にLawrence M. Tierney先生に出会ってから,仕事上の目標が大きく変わってしまいました.病歴と診察でどこまで診断に迫ることができるか修行中です.