HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻1号(2007年1月号) > 連載●Case Study 診断に至る過程
●Case Study 診断に至る過程

第5回テーマ

腹痛,悩ましきもの

松村正巳(金沢大学医学部付属病院リウマチ・膠原病内科)


 さて,今回の患者さんです。

病歴&身体所見

32歳,男性

主訴:右側腹部痛,発熱
現病歴:昨日までは全く元気であった。本日明け方頃から胃のあたりが痛くなってきた。4~5時間後には食欲不振,嘔気が出現した。嘔吐はない。さらに痛みが右側腹部あたりに移動し,発熱も認められるようになってきた。痛みは持続し,咳をすると増悪するという。下痢,排尿困難,頻尿はない。症状が出現してから約16時間後に受診した。昨夜は家族と同じものを食べ,家族に同様の症状を示すものはいない。
既往歴:特記事項なし。
家族歴:特記事項なし。
嗜好:たばこは1日20本12年間,アルコールは機会があれば飲む程度である。
内服薬:なし。
最近の旅行歴:なし。
身体所見:血圧118/86 mmHg,脈拍84/分,整,体温37.6℃,呼吸数16/分。

 患者さんは比較的安楽にみえる。眼瞼結膜に貧血はなく,眼球結膜に黄疸はない。リンパ節腫脹や発疹は認めない。呼吸音異常なし。右側腹部に圧痛を認め,右下腹部にも軽度の圧痛を認めた。McBurney点の圧痛は明らかでない。筋性防御,反跳痛は認めない。右腸腰筋サインは陽性である。右肋骨脊柱角に殴打痛は認めない。直腸診では異常なし。

 では病歴,身体所見から問題点を重要なものから挙げてみましょう。

プロブレムリスト

  1. 右側腹部痛
  2. 発熱
  3. 腸腰筋サイン陽性
  4. 右下腹部に軽度の圧痛

 腸腰筋サインを診るときには以下の2つの方法があります。一つは患者さんを仰臥位にして,股関節を検者の手の力に抗して屈曲させる方法です。検者は大腿部の膝近くに手を置き,患者さんに大腿を持ち上げるように命じます。もう一つは患者さんを検査する側の反対方向に側臥位とし(右を調べるときは左下側臥位にする),股関節を検者が過伸展させる方法です。腸腰肉を屈曲させるか,伸展させて痛みを誘発させます。

 では右側腹部痛をきたす疾患を挙げてみましょう。

[memo 1] 右側腹部痛をきたす疾患

ウイルス性胃腸炎,急性腸間膜リンパ節炎,憩室炎,Meckel憩室炎,虫垂のカルチノイド,大腸癌の穿孔,胆嚢炎,膵炎,急性腎盂腎炎,急性虫垂炎,女性ならば卵管炎,卵巣膿腫の茎捻転,子宮外妊娠

 鑑別診断は以下のように考えました。

(つづきは本誌をご覧ください)


松村正巳
1986年に自治医科大学を卒業し,石川県立中央病院でローテート研修後,奥能登,白山麓など県内諸国巡業の旅に出ました。数年前にLawrence M. Tierney先生に出会ってから,仕事上の目標が大きく変わってしまいました。病歴と診察でどこまで診断に迫ることができるか修行中です。