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●今日の処方と明日の医学

第3回

【利益相反】の考え方と管理のポイント

芹生卓(ブリストル・マイヤーズ株式会社 研究開発部門)
藤井裕(ブリストル・マイヤーズ株式会社 研究開発部門)
監修 日本製薬医学会


 利益相反(conflict of interest:COI)とは,個人が複数の役割を果たすのに伴って,その個人の中で利害が衝突している状態と定義されます.近年,国内でも各学会で利益相反に関する議論が展開されるようになり,日本内科学会でも「臨床研究に係る利益相反(COI)指針」が策定されています1)

 本稿では,利益相反に関する議論の経緯と国内外の現状,さらに望ましい利益相反の管理のあり方について概説します.

■利益相反と議論の経緯

 例えば,ある医薬品で発現した副作用を調査する研究会の委員長に就任した研究者が当該医薬品の製薬企業から寄付金を受けていた場合,この利益相反の状態にあったと考えられます.産学連携に伴う研究では利益相反が生じることは避けられないものの,利益相反が進行した場合には研究デザインや結論に影響を及ぼす可能性が発生します2)

 米国においては1980年に産学連携強化を推進するバイドール法が制定され3),1999年に発生した「ゲルシンガー事件」4)をきっかけに医学研究における主に金銭的な利益相反が注目を集めるようになりました.

■米国と日本の現状

 2002年,米国臨床腫瘍学会(ASCO)は学会としての利益相反に関するpolicy 5)を発表し,現在2005年の改訂版6)が使用されています.このpolicyの中で公開が必要とされる利益相反としては,表1の各事項が挙げられています.

表1 米国臨床腫瘍学会が公開を求めている利益相反6)
●企業や団体の役員または取締役として,投資,ライセンスなどの商業的行為を行う場合.
●企業や団体のコンサルタントまたはアドバイザーであり,2年以内に業務を行うか報酬が支払われた場合.
●非上場の新規企業の所有権利(分散型ファンドへの投資を除く)または上場企業の株式を所有し,当該企業や団体が商業的行為を行う場合.
●商業的行為を行う企業や団体により直接個人に2年以内に謝礼が支払われる場合.
●臨床研究に関連する支払いが臨床試験のスポンサーや,その代理人によって提供される場合.
●専門家としての証言を行う場合.
●直接研究活動に関連していない旅行,旅費,贈り物,そのほかの支払いを,商業的行為を行う企業や団体から2年以内に受け取る場合.100ドル未満の受領は除外.研究関連の経費と旅費は含まれない.

 一方,国内においては1990年代中ごろより産学連携強化が図られ,米国より少し遅れて金銭的利益相反が注目を集めるようになりました.2006年,日本癌治療学会/日本臨床腫瘍学会は臨床試験の利益相反に関する共通の指針を発表し(表2)2,7),さらに2010年,日本内科学会を中心とした内科系関連学会も共通の指針を発表して1),米国臨床腫瘍学会とほぼ同じ内容の公開基準が策定されました.

表2 日本癌治療学会/日本臨床腫瘍学会が公開を求めている利益相反2,7)
●企業や営利を目的とした団体の役員,顧問職
●株の保有
●企業や営利を目的とした団体からの特許権使用料
●企業や営利を目的とした団体から,会議の出席(発表)に対し,研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料など)
●企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料
●企業や営利を目的とした団体が提供する研究費
●そのほかの報酬(研究とは直接無関係な,旅行,贈答品など)

■申告すれば済むのか?管理のポイントは?

 それでは,これらの利益相反は自己申告さえすればそれでよいのでしょうか?

 当然ながら,申告だけで利益相反の管理責任が回避されるものではありません.

 例えば臨床研究の結果の公表はスポンサー企業の意思に左右されることなく,純粋な科学的判断あるいは公共の利益に基づいて行われるべきです.また,臨床研究費とは別に,企業から大学などに支払われる寄付金に関しては,その使途が必ずしも明確ではなく,処方の誘引とみなされる可能性があります.

 この対策として,日本製薬医学会では寄付を受ける際の寄付契約として,(1)寄付行為が委託(研究成果の要求)ではないこと,(2)必要情報を開示すること,(3)処方誘引ではないこと,を明記して,利益相反の透明化を推進するよう提言しています8,9)

 近年,国内においても利益相反の問題が社会から注目されるようになってきました.利益相反自体を問題とするのではなく,利益相反を自らコントロールしながら透明性・公明性の高い臨床研究を推進していくことの重要性を広く認識することが望まれます.

文献
1)曽根三郎:臨床研究に係る利益相反(COI)申告・開示とその管理.日内会誌99:625-643, 2010
2)落合和徳:がん臨床研究と利益相反に関する指針.Cancer Fronti 10:84-89, 2008
3)三浦朋子:医学と利益相反―アメリカから学ぶ,弘文堂,2007
4)Dettweiler U, et al:Points to consider for ethics committees in human gene therapy trials. Bioethics 15:491-500, 2001
5)American Society of Clinical Oncology:Revised conflict of interest policy. J Clin Oncol 21:2394-2396, 2003
6)American Society of Clinical Oncology:Revised conflict of interest policy. J Clin Oncol 24:519-521, 2006
7)根来俊一:利益相反―医学会活動におけるがん臨床研究に関する利益相反を中心に.腫瘍内科3:346-350, 2009
8)今村恭子:医療の質を高める臨床研究の実現を目指して 日本製薬医学会の「臨床研究に関する提言」.medicina 47:334-337, 2010
9)一般財団法人日本製薬医学会:臨床研究に関する提言


日本製薬医学会(JAPhMed)とは
製薬企業の勤務医を中心に40年前に発足,現在は一般財団法人として大学・医療機関や行政に勤務する医師も含む約220名余の会員からなり,製薬医学(創薬から臨床開発・市販後のエビデンス構築にわたる医学の専門科)の確立を推進する医学会です.(http://www.japhmed.jp/