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●今日の処方と明日の医学

第1回

【重篤な副作用】って、どういう意味?

原 満良(万有製薬株式会社)
監修 日本製薬医学会


 「××治療薬に重篤な副作用が○○例発生!」といった見出し記事を,新聞や雑誌でしばしば目にします.こういう記事に触発されて,治療を中断したり勝手に服薬を調整したりする患者さんに,手を焼いている先生方も多いようです.では,そこで使われる「重篤な副作用」という言葉について,患者さんにどのように説明すればよいのでしょうか.

■似て非なる「重篤」と「重症」

 病気や怪我の程度については,「重篤」のほかにも,「重症」「重傷」「重体」など,さまざまな表現があります.新聞などでよく見る「重傷」という言葉は「中傷」「軽傷」に対応し,主に事件,事故,災害等の被害の程度を示すために,警察,消防,労災,保険などで使われています.個々の文脈で定義は違いますが,おおむね「全治1カ月以上」を意味するようです.

 これに対して,医薬品の副作用に関して通常使われるのは,「重篤」と「重症」という表現です.

 重症・中等症・軽症という分類は,疾患の予後判定や治療方針の決定のために,医療現場で用いられる表現です.肝障害ならChild Pugh,うっ血性心不全ならNYHA,意識障害ならJCS,という具合に,対象疾患・症状別の重症度判定基準があります.判定に用いられる情報は疾患によりさまざまです.

 一方,重篤という概念は,副作用報告制度を含む薬事規制の場で用いられており,日米欧医薬品規制調和国際会議の合意による国際ルールでは,およそ次のように定義されています.

(1)死に至るもの
(2)生命を脅かすもの(その事象の発現時点において患者が死の危険にさらされている場合をいい,仮にもっと重度であれば死を招いたかもしれないという意味ではない)
(3)治療のための入院または入院期間の延長が必要であるもの
(4)永続的または顕著な障害・機能不全に陥るもの
(5)先天異常・先天性欠損をきたすもの
(6)そのほかの医学的に重要な状態と判断される事象または反応

 重篤とは,基本的に,患者さんに発現した事象によって引き起こされた死亡,入院,障害,先天異常といった結果に対する外形的な評価で,どのような副作用でも同じ基準となっており,個々の症状・所見に依存するものではありません.薬剤の副作用にはさまざまなものがありますので,どのような副作用にも適用できる一律の基準が用いられているわけです.

 したがって,重症だが重篤ではない,あるいは重症ではないが重篤,ということがありえるのです(表1).例えば,頭髪の20%が失われる重症の脱毛でも,日常生活に支障がなければ必ずしも重篤ではありません.また,便潜血の精査目的で入院して大腸ファイバーで発見・切除された良性ポリープは,重症ではなくても入院のため重篤です.

表1 重症と重篤の違い
(写真は本誌をご覧ください)

■「重篤」な副作用報告の重み

 しかし,実際の市販後副作用報告で重篤か否かの評価は必ずしも適切に行われてはいません.例えば,薬疹が重症ゆえに重篤と判断されたり,無症状の高カリウム血症が「生命を脅かす」として重篤とされる,といったことがよくあります.副作用情報を収集する製薬会社の医薬情報担当者(MR)が,重篤の定義を十分に説明できていないことが大きな原因と考えられますが,ご報告される先生方も十分にご理解くださるほうが望ましいと思います.ときには,その副作用に罹患すること自体がすでに重篤な事態を意味する場合(Stevens-Johnson症候群や横紋筋融解症など)があり,報告された病名の診断と重篤性の評価が食い違うと,混乱して適切な安全対策がとりにくくなる場合もあるのです.

 制度上,報告医師が重篤ではないと判断しても製薬企業は重篤として報告することが許されているのですが,逆に医師が重篤とした評価を非重篤に変えることはできません.また,報告医師が因果関係を不明と考えている場合でも,因果関係「なし」でない限り,副作用として取り扱うことになっています.今日の医薬品は往々にして国際的に販売されるため,正確な診断と適切な評価を蓄積していかないと,日本国内の医師,薬剤師,患者さんのみならず,全世界に誤ったメッセージを発信するリスクとなってしまいます.

 世界中の医薬品の安全の確保が,臨床現場の第一線で活躍する医師一人ひとりによる副作用報告に大きく依存していることを心に留めて診療にあたっていただければ幸いです.

(つづく)


日本製薬医学会(JAPhMed)とは
製薬企業の勤務医を中心に40年前に発足,現在は一般財団法人として大学・医療機関や行政に勤務する医師も含む約220名余の会員からなり,製薬医学(創薬から臨床開発・市販後のエビデンス構築にわたる医学の専門科)の確立を推進する医学会です.(http://www.japhmed.jp/