HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻7号(2008年7月号) > 連載●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療
●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療

第7回テーマ

主訴別の患者の診かた(2)
めまいを訴える患者の診かた

岩崎 靖(小山田記念温泉病院 神経内科)


 「めまい」という訴えはかなり曖昧な表現であるが,最もありふれた愁訴の一つである.「目が回る」,「目がくらむ」,「ふらふらする」など多彩な自覚症状を患者は一様に「めまい」と訴える.「めまい」を訴えたというだけで神経内科に紹介されてくる患者が多いが,めまいの原因には耳鼻科疾患も多いことは言うまでもなく,脳外科疾患,精神疾患,眼科疾患,貧血,循環器疾患,いわゆる自律神経失調症や更年期障害,栄養失調,脱水,薬剤性など多岐にわたり,すべての診療科に関連すると言っても過言ではない.めまいの原因は不明であることも多いが,生命にかかわる重大な病態が関連している可能性もあり,慎重な対応が必要である.

 めまいの鑑別には誘発眼振検査(頭囲変換眼振検査)や聴力検査などの耳科的検査,重心動揺検査などの平衡機能検査が必要であるが,詳細は成書に譲り,今回は外来での簡単な鑑別のコツについて述べてみたい.


■めまいの病態

 平衡機能をつかさどる「迷路」は「蝸牛」とともに「内耳」を形成している.迷路とその求心路である前庭神経および脳幹に存在する前庭神経核までを「末梢前庭系」と呼び,それより上位の中枢経路を「中枢前庭系」と呼んでいる.

 末梢前庭系の障害で起こるめまいは「末梢性めまい」と呼ばれ回転性のめまいを訴え,眼振を伴い,蝸牛症状(耳鳴り,耳閉感,難聴など)を伴うことが多い.中枢前庭系の障害による「中枢性めまい」の多くは浮動性めまいであり,一般に眼振や蝸牛症状は伴わない.

■問診の重要性

 「めまい」を訴えて受診してくる患者に対しては,訴える「めまい」が具体的にはどのような症状なのかをしっかりと問診して,「めまい」の本当の意味を明らかにすることが正しい診断のためにまず重要である.問診で緊急性があるかどうかを鑑別し,障害部位をある程度鑑別しなければ,重大な見落としをしかねない.「めまい」と聞いただけですぐに耳鼻科や神経内科に紹介したり,一方で十分な問診もせずに血圧のせいなどと判断するのは危険である.

 特に経過が急性であるか慢性であるか,症状は発作的に生じるのか持続するか,頭位と関連するか,蝸牛症状を伴うかを慎重に問診する.急性発症であれば,脳血管障害は常に鑑別しなければならない.蝸牛症状を伴う場合は,原則として末梢性めまいである.また歩行時に一側に偏位する傾向があれば,偏位する側の片側性迷路障害であることが多い.

 「めまい」の性状は大きく分けて,「回転性めまい(vertigo)」,「浮動性めまい,または動揺感(dizziness)」,「眼前暗黒感(presyncope)または失神(syncope)」がある.必ずしも単独ではなく,2つ以上の性状が混在したり,経過とともに変化することもある.

 「回転性めまい」は,自己ないし周囲が回転する感覚で「真性めまい」とも呼ばれる.眼振を伴うことが多く,「天井がくるくる回る」と訴えることが多いが,「前後に倒れそうになる」,「地面がせり上がってくる」,「周囲が傾く」などの訴えも回転性めまいであることが多い.

 「浮動性めまい」は,非回転性で「偽性めまい」とも呼ばれる.「体がふわふわする」とか「雲の上を歩いているような感じ」と訴えることが多い.背景や原因疾患は多様で,鑑別が困難であることも多い.

 「眼前暗黒感」は,いわゆる「立ちくらみ」の状態が含まれる.「失神型めまい」と呼ばれることもあり,失神とめまいの中間的な症候であり,「ふわっとなって意識が遠くなる」とか「目の前が真っ暗になる」と訴える.「失神」は脳血流の低下による一過性の意識消失であり,いわゆる「脳貧血」と呼ばれる状態である.

 ほかにも歩行障害や,過労やストレスによる疲労感,脱力感を「めまい」と訴える患者が意外と多い.

■所見のとり方

 めまいを鑑別するためには,運動失調と眼振の有無を検査することが重要である.外来で手軽にできる運動失調と眼振の所見の取り方についてコツを解説したい.

(つづきは本誌をご覧ください)