HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻4号(2008年4月号) > 連載●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療
●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療

第4回テーマ

患者が診察室に入ってきた,その瞬間を捉える(3)
歩行からわかること

岩崎 靖小山田記念温泉病院 神経内科


 今回は,患者が診察室に入ってきた際の歩行について,観察のポイントを書いてみたい.

 歩行障害を訴えて神経内科を受診する患者は多く,「ふらつく」,「歩きにくい」と問診表に記載されていることが多いが,「よく転ぶ」という訴えもしばしばみられる.歩行障害を「めまいがする」とか「足がしびれる」と訴える患者も意外と多く,ふらつきを周囲が感じていても本人が気にしていない場合など,歩行障害が問診表に上がってこない場合もある.したがって,歩行障害の訴えがない場合でも入室時の歩行状態を観察することは神経学的診療において極めて重要である.歩行の異常は,パターン認識でもあり,入室時の歩行をみて「〇〇歩行だ!」と直感を働かせることができれば鑑別診断,その後の診察をスムーズに行うことができる.


■入室時のチェックポイント

歩けるかどうか

 実際に診察室に入ってくる瞬間を見ると,どのような歩行障害か一目瞭然である場合も多いが,他覚的にはっきりしないが本人のみが歩行障害の自覚をしている場合も多い.通常の外来診察室には,歩いて入ってくる患者もいれば,杖を使用している患者,装具を使用している患者,介助が必要な患者,車いすで入室する患者など,入室方法は多彩である.自力では歩けない,他人の介助を必要とする,一側に傾いて歩く,肢位の異常があるなど,歩行に異常があるかどうかをすべての患者において無意識に観察できるようにすることが重要である.私は,初診患者に限らず再診患者でも,歩ける患者はなるべく歩いて入室していただくことにしている.

歩行の観察点

 自然な状態で歩行状態を観察することが重要であるので,まず診察室に入ってくる患者の状態をよく観察していただきたい.観察すべき点は,姿勢が安定しているか,介助が必要か,どちらの方向に倒れやすいか,杖を使用しているか(使用していれば,どちらの手に持っているか),両脚の幅はどうか,足の上げ方はどうか,歩幅はどうか(小刻み歩行はないか),腰を振っていないか,手の振り方はどうか,すくみ足はないか,スピードはどうかなど多彩である.

 以下に各種歩行の要点を記載するが,特有な異常歩行を観察できれば,それだけでだいたいの鑑別疾患の見当をつけることも可能である.

■足の運び方からわかること

Parkinson歩行

 歩行の異常で神経内科の立場から最も強調したいのは,「Parkinson歩行(Parkinsonian gait)」(図1)である.歩幅の狭い「小刻み歩行(marche a petit pas)」はよちよち歩きともいわれ,「前傾姿勢」と合わせてパーキンソニズムの特徴である.

(つづきは本誌をご覧ください)