●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療 |
第2回テーマ 患者が診察室に入ってきた,その瞬間を捉える(1)
岩崎 靖(小山田記念温泉病院 神経内科)
第1回では患者が診察室へ入る前段階として,問診表のウラを読むコツを書いた.今回からは患者が診察室へ入室する際の観察点のコツについて「患者が診察室に入ってきた,その瞬間を捉える」と題して,(1)姿勢からわかること,(2)表情からわかること,(3)歩行からわかること,(4)話し方からわかること,の4回に分けて書いてみたい. 神経内科医にとって,診察室に入ってくる患者を観察することはきわめて重要であり,患者が診察室に入ってきて,向かい合って座り,問診を始めるまでの数秒~数十秒の間に得られる情報は膨大な量である.姿勢,歩容,表情,不随意運動の有無などを観察することが可能であり,時には診察室に入ってきた瞬間に診断がつくこともある.最近は,電子カルテやオーダリングシステムを導入している病院が多いが,患者が診察室に入ってくるとき,あるいは出ていくときにコンピュータ画面に向かって記録を打ち込んでいて貴重な瞬間を見落とすことがあってはならない.また,いずれの科でも当然のことであるが,患者が診察室に入ってくるときにアイコンタクトを含めて相手としっかり向き合うことは,その後の問診・診察を含めて患者-医師関係を築くうえできわめて重要な第一歩であることは言うまでもない.
患者が診察室に入ってくる瞬間,まず表情,姿勢や四肢の状態が目に入ると思う.通常の診察室では歩いて入ってくる患者もいれば,杖を使っている患者,装具を使用している患者,介助が必要な患者,車いすで入ってくる患者など多彩である.自力では立っていられない,他人の助けを必要とする,一側に傾いている,肢位の異常があるなど,姿勢や四肢の状態に異常があるかどうかにまず注意することは,神経学的診察において重要である. 私は,初診患者に限らず再診患者でも歩ける患者はなるべく歩いて入室していただくことにしている.姿勢や歩行を観察することはきわめて重要であり,どのようにして入室したかもカルテに記載するようにしている.「歩けない」という主訴であっても,立てるかどうか,姿勢はどうかを確認する.姿勢や歩行の異常は,ある意味でパターン認識であり,まずひと目見た段階で「何かおかしいぞ!」と直感を働かせることが大切である. ■前傾姿勢からわかることParkinson姿勢-亀背,腰曲がりとの鑑別疾患に特有な姿勢で代表的なものは,Parkinson病をはじめとするパーキンソニズムを呈する疾患においてみられる前傾姿勢である.特にParkinson病においてみられる前傾姿勢は特徴的で,「Parkinson姿勢」(図1)と呼ばれることもある.Parkinson姿勢では頭部と体幹を前方に曲げ,両腕を肘で軽度屈曲し,両膝も軽度曲げて,身をかがめるようにしている.ちなみに,骨粗鬆症や椎体の圧迫骨折により脊椎の変形が起こり生じる「亀背(きはい)〔または円背(えんぱい)〕」(図2)は前傾姿勢とは区別されるが,高齢者ではしばしばみられる異常姿勢であり,意識しても伸ばすことはできない.また,一般に言う「猫背(ねこぜ)」では頸が前下方へ下がり両肩も含めて背中全体が丸く前屈みになっているが,脊椎構築上の異常はないことが多く,意識すれば伸展が可能である.「腰曲がり」という症候もあるが,これは傍脊柱筋の筋力低下により,立位では体幹の著明な屈曲がみられ,仰臥位では改善する状態である.図3に示すように,意識すればある程度の伸展が可能である.Parkinson病にみられる前傾姿勢は独特なので,特徴を認識すれば亀背,腰曲がりとの区別は可能であると思われる.しかし,実際には両者が合併していることもあり,時に判別に苦慮する. (つづきは本誌をご覧ください)
岩崎 靖
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