HOME雑 誌medicina誌面サンプル 46巻6号(2009年6月号) > 連載●内科医のためのせん妄との付き合い方
●内科医のためのせん妄との付き合い方

第3回テーマ

「せん妄=精神科」の,その前に
内科医だからできること

本田 明(国立病院機構長崎医療センター精神科医長)


■身体治療を優先するせん妄を見極める

せん妄は必ずベースに身体的な問題があると考え,その身体的な問題はどこに由来するかを検索しないといけない.身体症状より先に,せん妄などの精神症状が先行することがあるが,精神症状のみにとらわれてしまうと,可逆的な病態を見逃したり,身体的な精査なしに精神科に紹介して不幸な転帰をたどってしまう危険がある.

せん妄にかかわらず精神症状を診たら,まず以下の(1)→(2)→(3)の優先順位で鑑別を進めていくのが原則である.
(1)身体疾患に由来する精神症状(頭蓋内疾患,全身性疾患,薬剤性など)
(2)統合失調症,うつ病,躁うつ病など,いわゆる内因性の精神疾患
(3)神経症など心理環境要因の大きい精神疾患

なかでも読者の皆さんは・を見落とさないようお願いしたい.なぜなら現代の一般的な精神科医は,残念ながら身体疾患の除外に長けているとは言い難いからである.

■注意すべきせん妄

Wernicke脳症

症例1 48歳男性,精神科既往歴なし.以前,健診で肝機能異常を指摘されたことがある.
 飲酒歴は長く,仕事も長続きせず現在無職,通常1日に焼酎を3~4合飲む.2週間ほど前より焼酎10合を朝から1日中飲酒し,ほとんど食事は摂っていなかった.本日朝から飲酒もできなくなり具合が悪そうにしていたため,家族が救急車を要請,病院に搬送となる.搬送時は苦しそうな表情をしているが受け答えはしっかりできていた.食事をほとんど摂っていないとのことで,ブドウ糖を含む3号液の点滴を行ったところ,しばらくして「音楽が聞こえる」「隣の家の人に借りた米を返さないと」など言い出し,ベッドから降りようとしたりして落ち着きがなくなった.診察医はアルコール離脱せん妄と判断しセルシンにて鎮静をかけた.翌日,症状は落ち着いたが著しい記憶障害の後遺症を残した.

(つづきは本誌をご覧ください)


本田 明
前・国立病院機構長崎医療センター精神科医長.専門は精神科身体合併症,救急・集中治療領域の精神科リエゾン.日本精神神経学会指導医,日本総合病院精神医学会専門医,精神保健指定医,日本救急医学会救急科専門医,日本ボクシングコミッションドクター,厚生労働省認定臨床研修指導医.編著に『精神科身体合併症マニュアル──精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者の診療と管理』(医学書院).