●内科医のためのせん妄との付き合い方 | |||
第2回テーマ せん妄かもしれない,と思ったらスクリーニングと鑑別 本田 明(国立病院機構長崎医療センター精神科医長) 読者の皆さんはまず何をもってせん妄と診断するかを考えていただきたい.ただ興奮したり変なことを言っているから,せん妄と診断するわけではない.興奮したり,つじつまの合わないことを言う精神疾患は,ほかにもあるからである(例:統合失調症,認知症など).せん妄の診断が正しくできてこそ,ほかの精神疾患を否定でき,正しいせん妄対策ができるのである. 例えば,次の症例は,はたしてせん妄だろうか.診断の手がかりは,どこにあるだろうか.
■せん妄のスクリーニングせん妄の診断基準であるDSM-IV-TRに不慣れな場合,米国で作られた「Confusion Assesment Method Instrument(CAM)1)」)や,日本人が開発した「せん妄スクリーニング・ツール(DST)2)」が,せん妄のスクリーニングに有用である(表1,コラム1). 表1のAの項目で1つ以上「①はい」があればBに移る.Bの項目で1つ以上「①はい」があればCへ移る.Cの項目で1つ以上「①はい」があれば,せん妄の可能性ありとなる.せん妄の症状は1日のうちでも変化するため,少なくとも24時間を振り返って評価する. それでは,以上を踏まえて,冒頭の症例を読み直してみよう.
患者の異常行動や言動の1つひとつを個々に検討し,せん妄スクリーニング・ツール(DST,表1)やDSM-IV-TRに照らし合わせてみると,せん妄の疑いが強いことがわかる. ■せん妄とほかの精神疾患との鑑別Alzheimer型認知症,脳血管性認知症
家族を呼んで話を聞くと,1年ほど前から記銘力障害が目立ち,夜になると「家に帰る」と徘徊をしていたとのこと.家族とスタッフが付き添って病院内を歩いて「そろそろ戻りましょうか」と声を掛けると,素直に病室に戻り入眠した. 認知症も,せん妄も見当識障害や記銘力障害がみられるが,鑑別のポイントは,せん妄は意識レベルが低下しているため注意集中ができないこと,症状が時間単位もしくは日単位で変化することである.認知症の精神症状は記銘力障害をはじめとする中心症状と幻覚,妄想,興奮,徘徊などの周辺症状に分けられる.しかし,複雑なことに認知症自体もしばしばせん妄を合併するため,認知症患者にせん妄が生じると,認知症そのものによる興奮か,せん妄による興奮か見分けが難しい場合がある.また,Lewy小体型認知症のように意識清明下で幻視を呈するような認知症も存在する(コラム2).認知症患者でも明らかに普段と違う場合(視線が合わない,何かにおびえている,会話が続かない,家族が「いつもと様子が違う」と証言するなど)は意識障害であるせん妄の可能性がある.認知症の興奮の場合は家族やスタッフが受容的になだめたり,徘徊に付き合ったりすると薬物を使用しなくても興奮が収まることが多々ある. (つづきは本誌をご覧ください) 文献
本田 明 |