●東大病院内科研修医セミナー | ||
最終回テーマ
瀧本禎之・吉内一浩・赤林朗(東京大学医学部附属病院心療内科)
CASE【症例】25歳,女性。【主訴】食欲低下,筋力低下。 【現病歴】X-2年7月(23歳;60kg),大学院の試験準備を始めた頃から味覚異常を自覚。食事量が減り始め,1カ月で57kgまで体重が減少。9月からは月経も停止。12月に卒論の追い込みでさらに食事量が低下し,体重53kgまで減少した。X-1年3月には体重48kgまで減少し,全身倦怠感を自覚するようになり近医内科を数件受診したが異常を指摘されず,当院腎臓内分泌内科に紹介され,スルピリドを処方されたが自己中断。近くの心療内科クリニックを紹介されたが受診せず。その後も体重減少が続き,X年1月には体重42kgまで減少。2月から以前紹介されていたクリニックへ通院を開始し,下垂体機能低下症・うつ傾向・強迫傾向の診断で,フルボキサミンを処方されたが嘔気が強く2週間程度で中止。4月には体重36kgまで減少し,精査および体重増加を目的に4/11当院腎臓内分泌内科紹介,4/24に入院となった。 【体重歴】最大60kg(BMI22.9kg/m2;23歳), 最小36kg(BMI13.7kg/m2;25歳), 理想体重40kg(BMI15.2),月経停止時体重55kg(BMI20.9)。 【月経歴】初経13歳,不順,X-2年9月以降無月経(停止時55kg)。 【既往歴】特記事項なし。 【家族歴】精神科家族歴なし。 【入院時現症】身長 162.3cm,体重 36.1kg,BMI13.7,血圧 90/48 mmHg,脈拍 35/min,体温 35.8°C。<頸部>甲状腺腫大なし。<胸部> I→,II→,III(-),IV(-),心雑音なし。 【入院時検査所見】<血算> WBC 3,400/μl,RBC 363×104/μl,Hb 12.6g/dl, Ht 37.8%,Plt 16.6×104/μl。<凝固> PT-S 12.2sec,PT 75.6%,PT-INR 1.21,APTT 34.6sec,FIB 161mg/dl。
【画像所見】 <胸/腹部X線> 心胸郭比 34%,肋骨横隔膜角:sharp,lung field:clear,大腸内ガス貯留著明。<心電図> 洞性徐脈,心拍数 35/min,QTc 359ms。 【入院後経過】入院時から摂食障害が疑われ,内分泌学的精査と並行して4/26に心療内科を紹介受診。その後食事摂取量はさらに減少し,5月に入ってからはほとんど摂食せず,退行もみられるようになった。5/1に肝酵素上昇が出現,5/8には急激に上昇し,血小板減少,凝固異常,低リン血症も認めた。消化器内科・血液内科にコンサルトされ,腹部エコー・腹部CT・血液培養を行ったが,低栄養・脱水のほかに明らかな原因は見当たらなかった。末梢点滴と経鼻胃管による経管栄養が開始されたが,5/10には GOT 1,168IU/l,GPT 1,157IU/lと著明に上昇。栄養療法を目的に当科転科となった。 【転科時検査所見】<血算>WBC 5,300/μl,RBC 415×104/μl,Hb 14.3 g/dl,Ht 42.6%,Plt 6.0×104/μl。<生化学> LDH 694IU/l,GOT 1,168IU/l,GPT 1,157IU/l,γ-GTP 152IU/l,ALP 545IU/l,CA 8.2mg/dl,I.P 1.6mg/dl,BUN 28.4mg/dl,Cr 0.57mg/dl,Amy 176IU/l,CK 215IU/l,Na 140mEq/l,K 3.7mEq/l,Cl 102mEq/l。<凝固>PT-S 14.0sec,PT 54.8%,PT-INR 1.48,APTT 32.0sec,FIB 122mg/dl,FDP 6.2μg/ml,D-D 4.6μg/ml。 【転科後経過】転科時BMI13.7kg/m2と低値であったため,経鼻胃管による経管栄養を中心に栄養療法を開始。refeeding syndrome予防のため経口リン製剤も併用。5/12からは経口摂取量も著増し計2,000kcal以上摂取可能となり,それに伴い肝障害も改善した(図1)。6/6からは体重40kgをGoalとした行動療法を開始。36.95kgから漸増し,8/7に40.8kgと目標を達成。8/9に退院し,外来加療となった。
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