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●東大病院内科研修医セミナー

第18回テーマ

多発性骨髄腫に対する
自家移植併用大量メルファラン療法

荒井俊也・伊豆津宏二・黒川峰夫
(東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科)


Introduction
・一般的な多発性骨髄腫の診断
・治療とは?
・多発性骨髄腫治療の目標とは?

CASE

症例】65歳,男性。

現病歴】入院2年前頃から易疲労感が出現。症状が増悪してきたため入院3カ月前に前医受診。WBC 4,400/μl,Hb 6.8g/dl,Plt 18.7万/μlと貧血を認めた。TP 11.0g/dl,IgG 6,285mg/dl(IgA 11mg/dl,IgM 12mg/dl)であり,血清免疫電気泳動検査上IgG-κ M蛋白陽性であった。骨髄穿刺で形質細胞が17%を占め(図1),多発性骨髄腫(Durie-Salmon StageⅢA)と診断。自家造血幹細胞移植併用大量化学療法の適応として当科紹介受診。

既往歴】胃潰瘍,H.pylori除菌後,高血圧。

生活歴,家族歴など】特記すべきことなし。

入院時身体所見】血圧 130/108,脈拍 80/分・整,体温36.0°C。眼瞼結膜軽度貧血,胸腹部正常(肝脾触知せず),リンパ節触知せず, 皮膚異常所見なし。

入院時検査所見】<血算> WBC 4,800/μl(分画は正常),Hb 6.8g/dl(MCV 86.8fl),Plt 21.1万/μl,Reti 1.6%。<生化学> TP 11.6g/dl(γ-globulin 58.2%,M-peakあり),Alb 2.9g/dl,LDH 147 IU/l,GOT 20 IU/l,GPT 19IU/l,T.Bil 0.5mg/dl,BUN 20.4mg/dl,Cre 0.76mg/dl,Na 132mEq/l,K 4.0mEq/l,Cl 102mEq/l,cCa 9.4mg/dl,iP 3.2mg/dl,UA 6.7mg/dl,CRP 0.06mg/dl,IgG 7,012mg/dl,IgA<22mg/dl,IgM<22mg/dl,β2ミクログロブリン 2.8mg/l。<血清免疫電気泳動(特異抗血清)>IgG抗体,κ抗体でM-bowを形成。<尿定性> Prot(-),Glu(-),OB(-)。<尿生化>Prot<5mg/dl,Ccr 132ml/min。

画像所見・生理検査】<胸部X線>異常なし。<骨X線>溶骨性病変や圧迫骨折は認められない。<心電図>心拍数 83/分,正常洞調律。<心エコー> LVDd/Ds 55/37mm, LAD 48mm,EF 60%,左室機能正常。

経過】多発性骨髄腫,Durie-Salmon StageⅢAと診断し,治療適応ありと判断した。年齢・臓器障害の程度から自家移植併用大量メルファラン療法が可能と判断された。まず,大量デキサメタゾン療法(デキサメタゾン40mg/body day1-4,9-12,17-20)を4週間ごとに3コース施行。軽度の不眠と抑うつ気分がみられたが,そのほかには特に副作用を認めなかった。その後,幹細胞採取目的にシクロフォスファミド大量療法を施行。10日目よりG-CSF 投与を行い,15日目にWBC 6,900/μlに増加したため,同日末梢血幹細胞採取を施行。CD34陽性細胞10.4×106/kgを採取した。採取から約7週間後,大量メルファラン療法・自家末梢血幹細胞移植を施行。移植後12日目にWBC 2,700/μlまで増加し,生着を得た。Pltも11日目に5.9万/μlまで増加した。この間,濃厚赤血球2単位を1回輸血し,濃厚血小板輸血は不要であった。軽度の食欲不振と発熱性好中球減少を認めたが,対症療法と抗菌薬投与によっていずれも1週間以内に軽快した。自家移植後は外来で経過観察しており,移植後3カ月の時点でIgG/A/M 3,496/22/<22mg/dlと治療開始前と比較してM蛋白の50%以上の減少を認め,貧血の改善(Hb 11.1g/dl)を認めている。

Problem List
・多発性骨髄腫(症候性骨髄腫)

60~65歳以下の初発進行期多発性骨髄腫に対しては,症状の改善と生存期間の延長を目的として自家移植併用大量化学療法を行う適応がある。

(つづきは本誌をご覧ください)