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●聖路加Common Diseaseカンファレンス

第19回[感染症内科編]

尿路感染症の分類と適切な治療について学ぼう!

森信好・古川恵一(聖路加国際病院内科感染症科)


尿路感染症の診断  まずはここを押さえよう
  1. 尿路感染症は日常診療のなかで最も多く遭遇する感染症のひとつ!
  2. 尿路感染症は単純性と複雑性に分類される.それぞれの起因菌と治療法を理解しよう!
  3. 無症候性細菌尿の対処法を理解しよう!

■症例1
発熱,左腰背部痛,嘔気を主訴に来院した30歳女性

指導医 最初の症例は特に大きな既往のない30歳女性です.来院前日から左腰背部痛と悪寒を伴う39℃の発熱が出現しました.翌日になっても症状が改善せず,嘔気も出現したため,当院救急外来を受診しました.

 来院時の意識レベルは清明,血圧132/76mmHg,脈拍106/分・整,呼吸数20/分,体温39.2℃でした.身体所見では左CVA tenderness(腎把握痛)を認めました.

 血液検査の一部を表1に示します.

表1 【症例1】検査所見(一部)

(血液所見) WBC12,100/μl,Hb11.0g/dl,Plt30.1×104/μl,CRP5.8mg/dl.

(尿所見)WBC2+,Nit+.

指導医 さあ,どのように考えアプローチを行いますか.

研修医A 来院前日からの腰背部痛,38℃以上の発熱,嘔気があります.消化器系感染症,つまり胃腸炎や胆道系感染,急性膵炎も鑑別に挙がりますが,身体所見で左CVA tendernessがあり,尿所見でWBC2+,Nit+ですので,左腎盂腎炎を第一に考えます.

 また若い女性の腹痛ですので,骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)を中心とした婦人科疾患も念頭に置く必要があります.

研修医B 特に既往がないとのことですが,実際に尿路感染症,つまり膀胱炎や腎盂腎炎を繰り返していないかを確認する必要があります.また,今回先行する尿路症状,具体的には頻尿,排尿時痛,残尿感,膿尿などの有無について問診をしたいです.

 腎盂腎炎が疑わしいですが,起因菌推定のために,尿の塗抹グラム染色検査を行うとともに,尿培養および2セットの血液培養を採取します.

指導医 その通りですね.38℃以上の発熱,腰背部痛,嘔気は腎盂腎炎の三徴です.

 尿路感染症は大きく2つに分類されます(表2).

表2 尿路感染症の分類

単純性尿路感染症

複雑性尿路感染症
合成症のない女性の尿路感染症
膀胱炎,腎盂腎炎
解剖学的・機能的問題のある尿路感染症症
男性,妊娠関連,小児

 すなわち,単純性尿路感染症(uncomplicated UTI)と複雑性尿路感染症(complicated UTI)ですね.今回はこれまで特に尿路感染症を繰り返しておらず,初回発症ですから単純性尿路感染症が推測されます.

 通常,腎盂腎炎を発症する前には先行する下部尿路症状を呈することが多いですから,必ず問診するように心がけましょう.今回のケースでは来院3日前より頻尿と残尿感を自覚していたようです.

 起因菌については尿のグラム染色,尿培養,血液培養は必須ですが,単純性尿路感染症ではどのような起因菌を想定しますか?

研修医A やはり腸内細菌科,特に大腸菌ではないでしょうか.

指導医 そうですね.単純性尿路感染症では80%以上が大腸菌です.一方で,複雑性尿路感染症では大腸菌以外にも腸球菌や緑膿菌を考慮しなければなりません(表3).

表3 尿路感染症の起炎菌

単純性尿路感染症

複雑性尿路感染症
E. coli:80%以上
Klebsiella sp.
Proteus sp.
Staph.saprophyticus
E. coli:30%
Enterococci:20%
Pseudomonas:20%
Staph.epidermidis:15%

指導医 いずれにせよ起因菌の想定には尿のグラム染色が非常に重要になってきますね.Staphylococcus saprophyticusというのは,sexually activeな女性の単純性尿路感染症で大腸菌に次いで2番目に多い起因菌とされています.グラム染色でブドウ球菌様の細菌をみた際にはこれを想定します.

 さて,今回の患者さんの尿グラム染色をご覧ください(図1).

研修医A 好中球と多数のグラム陰性杆菌がみられ,一部が好中球に貪食されています.グラム陰性杆菌はやや太いため,腸内細菌が疑わしいです.

指導医 その通り.尿培養でも感受性の良好な大腸菌が検出されました.

 では,治療はどのようにしますか?

研修医A 単純性尿路感染症であり感受性の良好な大腸菌ですので,第2世代セフェム系抗菌薬を使用します.具体的にはセフォチアム1gを8時間ごとに使用します.

研修医B 腎盂腎炎ですので,治療期間は合計2週間必要です.解熱すれば経口薬に変更が可能だと思います.

指導医 そうですね.軽症の腎盂腎炎であり,単純性ですので第2世代セフェム系抗菌薬で十分でしょう.治療期間は2週間必要ですね.

 軽症や中等症の単純性尿路感染症には第2世代セフェム系抗菌薬を用います.当院のデータでは90%以上が感受性との結果が出ています.重症な症例には第3世代セフェム系抗菌薬を用います.ショックに至るような症例では,さらにアミノグリコシド系抗菌薬を追加投与することもあります.

診断
左腎盂腎炎

症例1から学ぼう
  1. 腎盂腎炎の三徴(38℃以上の発熱,腰背部痛,嘔気)と,先行する尿路症状にfocusしたhistory takingを行おう!
  2. 尿路感染症では必ず尿のグラム染色を行い,起因菌を推定しよう!
  3. 腎盂腎炎の抗菌薬投与期間は最低2週間!
  4. 重症度に応じた尿路感染症の治療を学ぼう!

(つづきは本誌をご覧ください)