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●聖路加Common Diseaseカンファレンス

第14回[循環器内科編]

心房細動の管理のしかた

神野 泰・西原 崇創(聖路加国際病院)


心房細動の基礎知識  まずここを押さえよう
  1. 本邦における心房細動の有病率は,種々の調査で60歳台までは1%未満であるが,80歳以上では約3%とされる.米国の2/3程度ではあるものの,心房細動は無症候性の場合も多く,実際にはさらに頻度が高い可能性がある.特に,高齢者では多くみられる不整脈である.
  2. 心房細動は,ACC/AHA/ESC2006年度版ガイドライン1)において,持続時間の面から次のように分類される.
    ・発作性:7日以内に自然停止するもの(多くは24時間以内に自然停止)
    ・持続性:7日以上経って自然に停止するもの.薬物や直流通電による除細動が可能なもの.
    ・永続性:1年以上持続するもの.薬物や除細動では洞調律の維持が図れないもの.
    ・孤立性:器質的心疾患の合併しないもの.
  3. 基本的にはレートコントロールもしくはリズムコントロールに加え,抗凝固療法の組み合わせが治療手段になるが,単に心房細動といっても持続時間や基礎疾患,年齢などによって多様な集団を含んでいる.また自覚症状の改善,塞栓症予防,心機能の改善・維持などのいずれを重視して治療するかもポイントであり,それぞれの患者背景に応じて適切な治療選択を行う必要性がある.

■症例1
動悸を主訴に外来受診した38歳男性

 38歳の会社員男性.昨日は会社の宴会があり,多量に飲酒した.今朝から動悸が出現し,我慢できなくなって外来受診した.不整脈の既往はない.健康診断では血圧が高めといわれている.脈拍120~140/分(不整),血圧140/70mmHg.身体所見ではその他,特に異常はみられない.心電図は頻脈性心房細動であった.

指導医 今回のカンファレンスでは心房細動の診断ではなく,心房細動の症例をどのように管理したらよいかという点からアプローチしたいと考えています.まず,この症例1ですが,一般内科外来や救急外来に出ているとしばしば遭遇するパターンだと思います.本症例で,追加で知りたい情報はありますか.

研修医A 心エコーの所見はどうですか.

指導医 治療方針を決めるうえで,心房細動の基礎心疾患の有無,心機能はどうか,知りたいポイントですね(表1).初回受診例では基本的に全例で経胸壁心エコーを施行するべきです.

表1 心房細動における心エコー検査のポイント
1. 左房径 通常は40mm未満
僧帽弁疾患,高血圧,左室拡大があるときは左房拡大がみられやすい.左房径<45~50mmのとき,除細動がしやすいとされている.
2. 僧帽弁機能 心房細動を発症して僧帽弁狭窄症がみつかることがある.
僧帽弁閉鎖不全症もよくみられるが,中等度以上の僧帽弁逆流がある場合にはかえって血栓塞栓症が少ない.
3. 左室機能 薬物選択の際の参考になる.

 この症例では心機能は正常で,有意な弁膜症もみられませんでした.このような患者を救急外来でみた場合にどうしていますか.

研修医B まず,レートコントロールをすると思います.

指導医 そうですね.心房細動が続いていても心室レートが下がると症状が落ち着く場合が多いです.心房細動のレートコントロールの目的は,心拍数増加に伴う症状(動悸,心不全,狭心症,ふらつき,運動耐容能の低下など)の出現を防ぐことです.一般的に心房細動におけるレートコントロールの目標としては,安静時と運動時の心拍数を評価することが必要で,たとえばAFFIRM試験2)におけるレートコントロールの達成基準は表2のようになっています.

表2 心房細動レートコントロール達成の指標(文献2より)
・安静時心拍数が80/分を超えない.
・ホルター心電図で24時間の平均心拍数が100/分以下,また最高心拍数が年齢から予想される最高心拍数の110%を超えない.
・6分間歩行中の心拍数が110/分を超えない.

指導医 みなさん,レートコントロールの方法はどうしていますか.

研修医A 救急外来では心電図・血圧をモニタリングしながら,ベラパミルを少量ずつ静注しています.

指導医 まず,偽性心室頻拍(pseudo VT)でないか,すなわちWPW症候群でないかを鑑別することは必要です.WPW症候群でない場合にβ遮断薬,Ca拮抗薬やジギタリスでレートコントロールをします.WPW症候群の場合には,副伝導路の伝導抑制を期待してI群抗不整脈薬を使います.もし,高度左心機能低下がある患者に発作性心房細動が生じ,ショックになっている場合にはどうしますか.

研修医B 電気的除細動が第一選択だと思います.可能であれば鎮静をして,同期下に100J→200J→300J→360Jの出力で除細動をかけます.

指導医 心室頻拍や上室性期外収縮と同様に,血行動態が不安定な場合は電気的除細動ですね.可能であれば経食道心エコーを施行し,血栓の有無を確認することが必要ですが…….本症例ではベラパミル静注によるレートコントールで動悸はほぼ消失しましたが,心房細動は継続していました.特に基礎疾患のない初回の発作性心房細動の患者に対して,シベンゾリンやピルジカイニドなどのI群抗不整脈薬を投与して薬理学的除細動を行うかは,担当医の考え方によると思います.本症例の場合はベラパミル内服のみ処方して帰宅させましたが,翌日の再診時にはすでに洞調律に戻っていました.

 さて,洞調律維持のために何か抗不整脈薬を処方した方がよいでしょうか.

研修医B 発作性心房細動が再発するかどうか不明ですし,飲酒という誘因もあるので,まず抗不整脈薬は処方せずに経過をみると思います.

指導医 そうですね.心房細動が,初回発作や飲酒,迷走神経刺激などの一過性の原因によると考えられる場合はまず経過をみます.飲酒は心房細動発症のリスクとされており,禁酒を勧めますが,アルコール好きな患者さんにはなかなか難しいかもしれませんね.

症例1から学ぼう
  1. 心機能にそれほど問題がなければ,レートコントロールはβ遮断薬,Ca拮抗薬を選択し,必要に応じてジギタリスを併用することで,安静時のみでなく,運動時にも十分なレートコントロールが得られるよう考慮する.
  2. 初回の心房細動発作や飲酒,あるいは検査に伴う迷走神経刺激など,誘因が明らかで一過性の場合には,あわてて再発予防を試みずに様子をみるだけでよい.

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)Fuster V, Ryden LE, Cannon DS, et al:ACC/AHA/ESC 2006 guidelines for the management of patients with atrial fibrillation:Executive summary. Circulation 114:700-752, 2006
2)Wyse DG, et al;Atrial Fibrillation Follow-up Investigation of Rhythm Management (AFFIRM) Investigators:A comparison of rate control and rhythm control in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 347:1825-1833, 2002
3)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2002-2003年度合同研究班報告).不整脈薬物治療に関するガイドライン.Circ J 68(suppl IV):981-1053,2004.
4)Sato H, et al;Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial Group:Low-dose aspirin for prevention of stroke in low-risk patients with atrial fibrillation;Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial. Stroke 37:447-451, 2006