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●聖路加Common Diseaseカンファレンス

第13回[一般内科編]

あなたは浮腫を的確に鑑別できますか?

森 信好・田中まゆみ(聖路加国際病院)


浮腫の診断  まずここを押さえよう
  1. 浮腫では,局在性(全身性か部分性か)の問診と,圧痕の有無が重要である.
  2. 病態の理解が診断への鍵である.

指導医 今回のテーマは浮腫です.日常診療で接する機会の多い主訴です.

 まず,浮腫の定義をおさらいしましょう.浮腫は,「細胞外腔に液体成分(間質液)が貯留した状態」,すなわち「血管からの漏出と,リンパ系の還流のバランスが崩れた状態」ですね(図1).

 浮腫ができる原因は,間質液成分の増量ないし貯留です.この間質液成分が流動性に富めば,圧痕を残すpitting edemaとなります.一方で,間質液成分が流動性に乏しい場合には圧痕を残さないnon-pitting edemaとなるのです.

 病態からみた浮腫の原因は,大きく以下の3つに分類されます.

 (1)血管壁透過性の上昇(炎症・アレルギー)
 (2)毛細血管の静水圧の上昇(循環動態)
 (3)血漿膠質浸透圧の減少(栄養・代謝)

 また,浮腫の鑑別診断を表1に挙げます.ポイントは,(1)圧痕を残すかどうか,(2)浮腫が全身に及んでいるか限局しているかどうかです.

表1 浮腫の鑑別診断
圧痕の有無
non-pitting edema:リンパ浮腫・粘液浮腫
pitting edema:上記以外すべて(心不全,腎不全,肝不全,アレルギー,感染症,血栓症,静脈弁不全)
全身vs 部分
全身:anasarca(高度の全身浮腫)
    腎臓におけるNa貯留の亢進を伴うに至った状態
下肢:両側;薬物副作用,心不全,うっ滞性静脈炎,静脈弁不全
    片側;静脈血栓症,リンパ浮腫,蜂窩織炎,アレルギー
上肢:リンパ浮腫(乳癌術後など),静脈血栓症
顔面:上大静脈症候群
眼瞼:両側;腎不全,アレルギー
    片側;眼窩蜂窩織炎
その他の局所的浮腫:血管透過性亢進(炎症,アレルギー)

 では,実際の問診や診察はどのように行えばよいのでしょうか.表2,図2をご覧ください.

表2 浮腫の問診・診察
・全身性vs部分的
・両側性vs片側性
・出没:反復性? 進行性?
・日内変動
・痒み,圧痛,色調変化の有無
・薬剤歴(ステロイド,女性ホルモン,NSAIDs,カルシウム拮抗薬,ACE阻害薬など)
・review of system(臓器別徴候)
・圧痕の有無
・心肥大,過剰心音,内頸静脈怒張,肝腫大,腹水,腹部腫瘤の有無

 それでは,実際の症例をみていきましょう.

■症例1
両下腿浮腫を主訴に来院した78歳女性

指導医 最初の症例は,特に大きな既往のない78歳女性の方です.

 数年前から次第に両下肢のむくみを自覚していました.近医にてフロセミド(ラシックス●R)を処方されましたが,嘔気のため中止,スピロノラクトン(アルダクトン●R)に変更となりましたが,浮腫は改善しなかったため,当院内科外来を受診しました.

 来院時の意識レベルは清明,血圧115/72mmHg,脈拍76/分・整,呼吸数12/分,体温36.3℃でした.身体所見では,両下腿に著明なpitting edemaを認めました.

 血液検査を表3に示します.

表3 血液検査所見
Hb11.8g/dl,Alb4.0mg/dl,BUN25.2mg/dl,Cr0.76mg/dl,Na141mEq/l,K4.2mEq/l,Glu98mg/dl,AST23IU/l,ALT21IU/l,TSH1.93μIU/ml.

指導医 さあ,どのような病態を考えますか.

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)van Belle A, et al:effectiveness of managing suspected pulmonary embolism using an algorithm combining clinical probability, D-dimer testing, and computed tomography. JAMA 295:172-179, 2006