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●聖路加Common Diseaseカンファレンス

第11回[腎臓内科編]

血尿・蛋白尿をみたときのアプローチ法

西﨑祐史・小松康宏(聖路加国際病院・腎臓内科)


血尿・蛋白尿のアプローチ法  まずここを押さえよう
  1. 新鮮尿において,尿中赤血球5~6/HPFを血尿とする.血尿のみの場合には,尿細胞診を施行し,泌尿器科にコンサルトする.
  2. 蛋白尿の評価は,定性検査だけでなく,随時尿にて蛋白/Cr比を定量し評価する.
  3. 蛋白尿と血尿が合併する場合は,何らかの糸球体腎炎と考える.治療の対象となるので,腎臓内科専門医へのコンサルトが必要である.
  4. ネフローゼ症候群をみたら,まずは原因を考える.また浮腫,血液濃縮が高度な症例では,治療の前に抗凝固療法の優先を検討する.

■症例1
 上気道炎後に血尿・蛋白尿を生じた24歳女性

 24歳の幼稚園教諭.2週間前に上気道炎罹患,咽頭痛あり.褐色の尿に気づき,外来受診した.身長160cm,体重50kg,血圧155/95mmHg,身体所見では,顔面および下腿浮腫が目立つ.尿検査では,尿蛋白(2+),潜血(3+)であった.

指導医 まずはこの症例から検討していきましょう.尿検査所見で,血尿・蛋白尿の所見がありますが,血尿からみていきましょう.この結果をどのように解釈しますか?

研修医A 尿潜血(3+)なので血尿ありと考えます.

指導医 B君はどのように考えますか?

研修医B 尿定性検査だけだと,正確なことは言えないと思います.尿沈渣の結果が必要です.

指導医 そうですね.尿潜血反応が陽性であることは,必ずしも血尿を意味しません.ヘモグロビン尿(溶血性疾患)やミオグロビン尿(横紋筋融解など)でも,尿潜血反応は陽性を示します.尿潜血反応が陽性であれば血尿の存在を疑いますが,実際には,尿沈渣で赤血球が5~6個/HPF(high power field:強拡大の視野.400倍)あれば病的な血尿とみなします.尿沈渣をみて変形赤血球や赤血球円柱があれば,糸球体腎炎の可能性が高くなります.この症例では,蛋白尿も伴っていますが,血尿だけをみた場合には,どのような病態を考えますか?

研修医A 尿路結石や,癌などですかね?

指導医 それはそうなのですが,鑑別診断は整理して覚えておいたほうがよいと思います.B君はどのように考えますか?

研修医B まずは,血尿が以前から持続しているものかどうかを確かめます.また,疼痛の有無も確認します.以前から持続していて,無症候性の血尿であれば,良性家族性血尿(菲薄基底膜症候群),Alport症候群などを考えます.そして,突発的な血尿であれば,腎動静脈瘻,ナットクラッカー現象,行軍ヘモグロビン尿症(注:尿潜血陽性,沈では血尿なし)などの可能性も挙がります.突発的で側腹部や腰背部痛を伴う場合には,尿路結石を疑います.

指導医 すばらしいですね.そして,それに年齢の要因も加えるとよいでしょう.高齢であれば,悪性腫瘍は必ず鑑別に挙げます.尿細胞診を複数回施行し,泌尿器科にコンサルト,経尿道的内視鏡検査で尿管,膀胱を観察する必要があります.

研修医B 内視鏡を施行する場合でも,尿細胞診検査も施行する必要があるのですか?

指導医 鋭い視点ですね.上皮内癌では,内視鏡的所見が正常でも,細胞診が異常という場合を稀に経験します.そのような症例を見逃さないためにも両方検査することが必要です.

 次に,蛋白尿について考えてみましょう.この症例では蛋白尿(2+)ですが,どのように評価しますか?

研修医A 定量しないと,具体的な量はわかりません.蓄尿がよいと思われます.

指導医 そうですね.蓄尿すれば定量できますが,すぐに評価したいときはどうしますか?

研修医B 蛋白とクレアチニンの比をみて,おおよその1日の尿蛋白量を推定します.随時尿で,尿蛋白量(mg/日)=尿蛋白/尿Crと表されます.

指導医 その通りです.しかし,1つだけ注意しなければならないことがあります.上の式を導くと,以下のようになります.

尿蛋白量(mg/日)=尿蛋白濃度(mg/dl)×尿量(dl/日)
尿Cr排泄量=尿Cr濃度(mg/dl)×尿量(dl/日)
尿蛋白量/尿Cr排泄量=尿蛋白濃度/尿Cr濃度
尿蛋白量(mg/日)=尿蛋白濃度/尿Cr濃度×尿Cr排泄量

 ここで尿Cr排泄量≒1,000mg/日=1g/日と仮定すると,次のようになります.

尿蛋白量(g/日)≒尿蛋白濃度/尿Cr濃度

 つまり,注意すべき点というのは,1日の尿Cr排泄量が1gより大幅に多かったり,少なかったりすると,実際の値とずれる場合があるのです.

研修医A はい,よくわかりました.実際に,この症例ではどうだったのでしょうか?

指導医 この症例での,実際の検査結果の詳細は次のようでした(表1).

表1 【症例1】検査結果
(尿沈渣)RBC 30~50/HPF,WBC 1~5/HPF,尿蛋白/尿Cr=2.2g/日
(血液検査)TP 6.5g/dl,Alb 3.7g/dl,BUN 25mg/dl ,Cr 1.2mg/dl ,IgA 200mg/dl ,C3 40[52~112],C4 13mg/dl[16~51],ANA 40倍,HbsAg(-)

 この結果から,鑑別疾患を挙げてください.

研修医A 血管炎ではないでしょうか? 蛋白尿,血尿がありますし,血清Crも上昇しているし.

指導医 B君はどう考えますか?

研修医B まず,2,3質問したいです.普段の血圧の値,血清Crの前回値,経過のなかで腎機能はどのように変化していったのかを教えてください.それと参考までに,血清ASOの値を測定していたら教えてください.

指導医 腎疾患の臨床診断分類を意識したよい質問ですね.まず,普段の血圧は110/80mmHg程度であり,今回は腎疾患に伴い,急激に上昇しています.少し筋肉質な体質もあり,血清Crの前回値は1.0mg/dlです.経過のなかでの腎機能は急激な悪化はなく,腎不全には至らず回復しています.ちなみに,ASOは経過のなかで上昇していました.

研修医B ありがとうございます.血尿,蛋白尿,腎機能低下,高血圧が急速に発症し,最終的には腎不全には至っていない点をみると,臨床診断分類は,急性腎炎症候群に分類されますね.先行する上気道炎症状,ASO高値などの結果を総合して考えると,溶連菌感染後急性糸球体腎炎(poststreptococcal acute glomerulonephritis:PSAGN)と考えます.

指導医 そうです.この症例はPSAGNでした.臨床診断分類を考えるのは大事なことですね.

(つづきは本誌をご覧ください)