HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻11号(2007年11月号) > 連載●聖路加Common Diseaseカンファレンス
●聖路加Common Diseaseカンファレンス

第8回

あなたは関節痛を的確に診断できますか?

西崎祐史・岡田正人(聖路加国際病院アレルギー・膠原病内科)


関節痛  まずはここを押さえよう

(1)関節痛をみたら炎症性か,非炎症性かを区別する
・非炎症性:変形性関節症,整形外科的腰痛など→運動で悪化する,朝のこわばりがない
・炎症性:関節リウマチ,脊椎炎など→運動で改善する,朝のこわばりがある
(2)関節炎患者をみたら,以下の4つのカテゴリーに分類
→急性多関節炎,慢性多関節炎,急性単関節炎,慢性単関節炎
急性多関節炎の鑑別:以下の3つに分けて考えると,見逃しを防ぐことができる.
 ・細菌性:感染性心内膜炎,淋菌性関節炎など
 ・ウイルス性:ヒトパルボB19ウイルス感染,肝炎ウイルス感染,急性HIV感染,風疹など
 ・慢性多関節炎の初期:関節リウマチ,SLE(全身性エリテマトーデス),血管炎,成人Still病などの膠原病の初期像
急性単関節炎:臨床でよく遭遇するのは,結晶誘発性関節炎(痛風など)であるが,感染症と外傷の除外が必要である.

■症例1
 手指多関節痛と朝のこわばりを主訴に来院した29歳女性

指導医:症例1は29歳女性です.主訴は手指多関節痛で,特に既往はありません.

 現病歴ですが,2006月8月に両側肩の痛みを自覚しました.好きなゴルフを続けていましたが,両肩が上がらなくなるくらいまで症状増悪したために,12月に近医整形外科に受診しました.MRIで両側棘上筋腱炎といわれ,現在も通院,リハビリ中です.週1回のリハビリで,肩の症状は改善傾向にありますが,それとは別に昨年から手指のこわばりがあり,1カ月前からその症状が増悪傾向であるので,今回当院を受診しました.症状は,全身の倦怠感,朝の手足のこわばりが3~4時間持続しています.

 手の関節が痛いこの29歳女性ですが,ここまでで鑑別診断が挙がりますか?

研修医A:手関節痛で慢性に経過しているとなると,日常でよくみるのは,関節リウマチか変形性関節症でしょうか?

指導医:そうですね,その2疾患は,必ず押さえなくてはいけません.では,どのようなところに注目して問診したり,診察すれば,2疾患を区別できるでしょうか?

研修医A:関節リウマチは比較的若い人に多い印象があり,変形性関節症は高齢者に多いと思います.

指導医:他にはどこに注目しますか?

研修医A:…….

研修医B:罹患関節や,朝のこわばりの長さに注目します.また,家族歴も参考になると思います.この患者さんは朝のこわばりが1時間以上と長く,年齢的にも関節リウマチのほうが可能性は高いかと思われます.

指導医:なかなか良い視点ですね.では,身体所見を一緒にみていきましょう(図1).

指導医:身体所見で注目すべき点は,関節炎所見が,左右対称性,指はDIP関節でなく,MCP関節とPIP関節にある点です.

研修医A:左右対称性ではないようにみえるのですが?

指導医:ここでいう左右対称性というのは,左右の関節炎が全く同じ部位にある必要性はないのです.異なる指であっても,左右ともに同じ高さの関節(今回はMCPとPIP関節)が罹患していれば,左右対称と判断します.

 それでは,この身体所見から,診断はどちらの疾患を疑いますか?

研修医B:関節リウマチです.

指導医:そうです.MCP関節+PIP関節の腫脹をみたら関節リウマチを疑い,DIP関節+PIP関節の変形をみたら変形性関節症を疑いましょう.それでは,次に血液検査の結果をみてみましょう(表1).

表1 【症例1】血液検査
Hb 12.3g/dl,CRP 0.15mg/dl,ESR 45mm/1h,RF 7IU/ml,抗CCP抗体35.8U/ml

指導医:血液検査の結果をどう考えますか?

研修医A:炎症反応もあまり上がっていませんし,何より,リウマチ因子が陰性なので,関節リウマチでなくみえてきました.

指導医:炎症反応は,29歳で貧血のない女性にしては,ESR45mm/1hは高値です.特に早期関節リウマチの患者さんではリウマチ因子が陰性のことが多いです.また,リウマチ因子よりも,感度・特異度の優れた検査である,抗CCP抗体が陽性です.したがって,血清学的な検査所見からも関節リウマチに矛盾しません.

 画像検査に関しては,罹患関節の単純X線検査を施行しましたが,骨びらんなどの関節リウマチの所見はありませんでした.この患者さんの場合は,早期関節リウマチなので,単純X線検査では異常が発見されなくても,MRI検査を施行したら,滑膜増殖,骨びらんや骨髄浮腫などの変化があるかもしれません.

診断とその根拠
(診断) 関節リウマチ
(根拠)
 1.罹患関節が,図2aに示すように,左右対称性で関節リウマチに特異的な部位である〔なお,変形性関節症の場合は,手指ではDIP関節,第1CMC関節に罹患しやすく,非左右対称性である(図2b)〕.
 2.1時間以上続く,朝のこわばりがある(変形性関節症では,朝のこわばりはあっても15分程度).
 3.3カ所以上の圧痛,腫脹関節がある.
 4.抗CCP抗体陽性,炎症反応上昇と血清学的にも関節リウマチを示唆する(変形性関節症では,両者とも陰性所見).
 上記を総合して,関節リウマチと診断した.

症例1から学ぼう
関節リウマチと変形性関節症の鑑別
 関節リウマチと変形性関節症の鑑別は,多くの場合,リウマチ因子などの血液検査や単純X線検査は必要なく,病歴,身体所見などで可能である.

(1)病歴から区別する:関節リウマチ(滑膜炎による炎症性変化)は,朝のこわばりは1時間以上,手を使うと慣れてきて痛みが軽減される.一方,変形性関節症(非炎症性疾患)は,朝のこわばりはあっても15分程度,手を使いすぎると痛む.
(2)職業やスポーツ歴を参考にする:変形性関節症の最大のリスクは加齢.それ以外に,昔からよく関節を使う仕事やスポーツ・趣味をしている場合もリスクになる.職業では,大工など,スポーツではバレーボールなど,趣味では,刺や編み物などが多い.
(3)家族歴から推測する:変形性関節症は,軟骨を形成するうえでのtype-IIコラーゲンなどの遺伝性が指摘されているため,家族歴は聞くようにする.

(つづきは本誌をご覧ください)